第23話 第三章 9
第三章 9
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今度は、どんな風な変貌を遂げたのか。慣れたとは言っても、緊張が伴う。塚本は、朝食の後、一度深呼吸をしてリビングに入り、カミクズの指定席に歩みを進めた。
しゃがみ込む。バラの花のような部分とジャバラの部分が、視線の先にある。どこが変貌したのか。分からない。バラの花のような部分もじゃばら部分も形の上での変化は見られない。少なくとも、塚本にはそう見える。折り目が、より鋭角的になった風でもない。既に、十分鋭角的になっているのだ。
塚本は、さらに顔の位置を下げて横の方を見る。カミクズは、変貌していた。左横の奥の位置に、五角形やら六角形の大部分が、フラットになり一センチほどの高さの円錐形の尖がりを作っていたのだった。その先端部分は、とても、鋭く見えた。
塚本は、カーペットが心配になった。買い物から帰って来ると部屋の中にシュプールを描き、模様を作っていることが多い。この尖がりが、転がったらカーペットが、跡がつくどころか、切り裂かれてしまわないだろうか、と心配になった。
けれど、塚本の心配は、すぐに払拭(ふっしょく)された。カミクズの部屋での運動は、変わりなく続いたが、カーペットが切り裂かれることはなかった。カミクズの転がり方にあった。転がる時、カミクズは、必ず尖がりを横にして転がっていたからだった。それは、散歩の時も同様だった。
その日、買い物に出かけるために榊コーポを出た塚本は、オッ、っと足を止めた。平田さんが、レンを散歩させていたからだった。
レンは、伸び縮みする細いリードでつながれていた。首輪の部分ではなく、肩からお腹にかけて紐がかかる形のものだった。
部屋に招かれ、羊羹をごちそうになり、初めてその姿を見て十日程が経つが、レンはピンクの長い毛並みはそのままに少し大きくなったように見えた。
ゴンジロウが、すぐ、近くにいる。
挨拶の後、塚本がまず聞いたのは、ゴンジロウとの仲だった。
「ゴンジロウは、いじめたりしませんか」
「ぜんぜん。後輩のレンの方が大きな顔してますよ。たまにじゃれついても、ゴンジロウは、自分から倒れちゃう。一昨日なんて、寝転がったゴンジロウのお腹の上に四つ足で立って私見て誇らしげに鳴くの。大笑い」
「ご主人の言った通りになったわけですね。よかった、よかった。ゴンジロウ、お前は偉いな。人間よりハートが出来ている」
塚本が身を少し屈めて言うと、嬉しかったのか、ゴンジロウは、すり寄って来て、塚本のズボンの裾に二度、三度と頭をこすり付けて親愛の情を示したのだった。
「塚本さん、カミクズちゃん連れて私達の散歩に今度付き合ってくださいよ。この町の風物詩になること間違いなし」
平田さんは、カミクズをチャンづけにして言った。
「変な組み合わせですな。リードでつながれた不思議な毛並みの猫とメタボなキジ猫とリモコンで動くカミクズじゃあ」
「でも、想像してみると、絶対絵になる」
自信たっぷりな言葉が返って来たのだった。
その翌日だった。塚本を驚かせ、慌てさせる、出来事が起こった。いつもの東三丁目公園でひと休みしている時、カミクズが、突然、どんどん塚本が座るベンチから離れて行ったのだ。これまでは、転がっても数メートルで止まり、戻って来た。そうならない。
「オイッ、どうしたんだ」
塚本は、慌ててカミクズの後を追いかけた。塚本の散歩より、速い速度でオムライス山を囲う石壁に沿うように転がって行く。
カミクズは、ほぼ一周して、塚本の座っていたベンチの場所まで戻った。
「驚かすなよ」
ベンチに腰をおろした塚本は、カミクズに声をかけたが、左右に揺れる動きはしなかった。
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