現実

「……はぁ」


 僕は一人、寝かされていた病室を飛び出して何処かもよくわからない森の中の方へとその場を移していた。


「……おぇ」


 吐き気。


「おぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええ」


 僕は自分を支配する強烈な吐き気に従って自分の胃の中のものをぶちまける。


「……はぁ、はぁ、はぁ」


 現実。

 現実……どこまでも、それが僕の肩の上へと重くのしかかってくる。

 やらなければならないことは多い。世界の裏側で暗躍している悪魔たちへの対処、不安定化する国際情勢の調整、迫害されている被差別階級の人たちが行う反乱への未然の阻止……やるべきことはいくらでもある。

 いくら、既に僕が知っていることが多いと言えども、たった一人で行うにはあまりにもやるべきことが多い。

 でも、やらないと。


「大丈夫、大丈夫……」


 一先ず、ミュートス第二王女殿下たちとは距離を置くのが最適解だろう。

 前世のことを話すわけにもいかないし、かといって何かをするのも状況を好転させることはないだろう。

 僕がそっと離れて、僕のようなクズを忘れてもらうのが一番だ。

 彼女たちは全員いい子だし、一旦僕が離れたことで一時的なショックは受けるかもしれないけど、それでも自分たちの力で幸せを掴むだろう。


「ミュートス第二王女殿下の、腕を治す術も探さないと」


 誰も、傷つけちゃいけない。誰も、殺しちゃいけない。

 

「僕が、僕が悪い……だから、リカバリーしないと」


 ルスの代わりを僕がしなければならない。

 そのために必要なことは多い。


「おぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええええ」


 それなのに。

 僕はちっぽけな自分の身に降りかかっている現実のあまりの重さに胃の中のもをつい漏らしてしまう。


「……うぅ」


 そして、そのまま僕は一人で蹲ってしまう。


「あぁ、ぁぁぁぁぁ」


 僕のやらなければいけない義務は明確である。

 だけど、世界の闇の深さも見えている。ゲームですら描写されない世界までもを、僕の影法師は色濃く映している。


「うっ、あぁ」


 立たないと、僕が、招いたことなのだから。

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