一報

 この世界はゲームの世界である。

 異世界が舞台で学園に通っている男の子が主人公なファンタジーものである。

 何がどうあろうとも何のイベントもなしに、ただの平和な日常を送ることなど出来るはずがない。


「……ふむ」


 いつものように学校の授業を受け、放課後に生徒会室へとやってきて書類作業を進める僕は自分の元にやってきた一報へと視線を張巡らせる。


「何だったの?」


 そんな僕に対してすぐ近くに座って作業をしているアンバーが疑問の声を上げる。


「後輩君への連絡ってことは、領地の方からかな?」


「……違う、かな」

 

 僕はアンバーの言葉を否定した後、ペンと紙をとって筆を走らせる。


「えっ?それじゃあ、何処から?」


「……うーん」


 僕は自分の元にやってきた一報を他の四人に知らせるか悩む。

 あまり、おいそれと話す内容でもないだろう……の方でも一波乱あるわけだし。


「隠すような内容なの?私はこれでも王女だし、ここにいる面々もいいところの出よ?いずれ知るわ」


「……そーだね。セーラ。前に依頼で行った国境部の砦のことを覚えている?」


「えっ?当然、覚えているけど……それがどうしたの?」


「そこが今、襲われている。大量の魔物が雪崩となって侵攻を受けているらしい」


「えっ!?」


 僕の言葉を受けてセーラが驚愕の声を上げる。


「そ、そんなことあるの!?」


「……嘘、であろう?」


「……なんですって?」


 そして、それに続くように他の三人も驚きの声を上げていく。


「……連絡には、出来るだけ耐える旨を送ってきているけど、見た感じかなりきつそうだね。僕が手助けすることになりそう……って、あぁ……駄目か」


 僕は自分と視界を共有している影法師からの接続が切れて首を横に振る。

 原作通りに、ありとあらゆる魔法の発動を止める結界が張られたみたい。


「何が駄目だったの?」


「影法師との接続が切れた」


「えっ!?……そ、それは、かなり不味くない、ですか?」


「エスカルチャ家には影法師以外の諜報手段も持っているから、さほど問題ではないけど……まぁ、あれだね。今はあまり動かせないね」


 魔法の発動を完全に消す抗魔結界。

 それの発動はかなり多くのものを犠牲に払ってようやく可能なものであり、普段はエスカルチャ家としても問題にはならないが……稀にこのような例もある。

 そのためにある諜報手段もあるが、未だ僕はそれを自由に扱えるとは言い難く……今頼りになるものではないだろう。

 頑張ってはいたのだが、間に合わなかった。


「少なくとも僕が行ってからかな」


 僕は書いていた手紙をここにまで砦の方から書類をもってきてくれた鷹の足へとくくりつけていくのだった。

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