交渉依頼

 僕とミュートス王女殿下の二人で受けた依頼。


「それで?私たちを相手になんだって?」


「えぇ……まったくもってその通り。一度、我らに話を聞かせてもらいものだが」


 それは一人の男爵家生まれの少女からの泣き言。

 お天道様の下で使えるようなものではないアコギな手段によって金を稼ぎ、依頼人の親を詐欺まがいの手法で騙して高額な借金を作らせ、その借金のかたに少女の身柄を奪い取ろうとする商人との交渉であった。


「……は、ははは」


 国の最高権力者である国王陛下の血族である王族に諜報の分野で多くの噂を集めるエスカルチャ家の現当主。

 そんな二人を前にする依頼に上げられていた商人は苦笑いを浮かべることしか出来なかった。

 まぁ、それも当然だろう。僕たち二人を前にすれば国王陛下だって思わず閉口してしまうだろう。

 この依頼は確実に僕とミュートス王女殿下のためのものだろう。

 これ以上に適任の依頼なんてないよ。


「ぬるい」

 

 ということではるばる王都から依頼して、件の商人の前にやってきた僕とミュートス王女殿下は横柄な態度で席へと座り、あまつさえ出されたお茶の温度にまで文句を入れる。


「……っ。恐れながら申し上げますと」


 そんな僕たち二人を前にする商人は腹をくくったのだろう。


「我々としては一切の犯罪行為を行っておりませぬ。貴方たち二人が私に告げる話など何もなく、あの貴族家と関わりを持つ理由などない様に思われます」


 僕たちを相手に戦ってくる覚悟を商人は。


「いや、犯罪だ」


 だが、そんなちっぽけな覚悟など何の意味もない。

 

「ありえません。私は一切の犯罪行為になど手を染めてはおりませぬ!」


「あん?不敬罪だ。侯爵家の当主たる僕も王女たるミュートス王女殿下も不快な気分になった。だから、お前は犯罪者だ」


「えぇ、当然よ。お前という存在そのものが癪だわ」


 何故なら今、彼が相手にしているのは白でも黒と一言いうだけですべてを黒にしてしまえる権力者なのだ。

 目の前にいる商人よりも遥かに理不尽で、無茶苦茶なのが上級貴族である。


「そ、そんな横暴な……!わ、私が何をしたというのですか?」


「息を吸って吐いた。それだけだ。それだけでお前は死刑だ」


「……ッ!わ、私として多くの金銭を持つ大商人の一人でして。そう簡単に」


「はぁー」

 

 一切の情も情けもなく追い詰めていく僕とミュートス王女殿下を前にそれでも食い下がってくる商人の肩を僕は優しく叩く。


「安心しろ、お前が頼りにしている裏組織は既にその痕跡を一つも残すことなく消滅している。既に僕の子飼いの組織が内々に処しているさ。僕たち貴族は誰も知らない秘密の人間を幾つも抱えているものなのだよ、お前が死ぬのはもう決定事項だ」

 

「あがっ!?」


 そして、耳元で言葉を呟くと共にその腹へと強烈な膝蹴りを叩き込み、強制的に意識を刈り取って見せる。


「よし、帰るか」


「えぇ、そうしましょうか。ふふっ、まさかこんな形で臨時収入が入ると思わなかったわ」


 そして、この場に気絶した商人を残して僕たち二人は金庫の方へと向かっていくのだった。

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