採取依頼

 ただ暗くしてそれっぽい雰囲気を出しただけの空き教室から移動し、王都から少し離れたところにある少し深い森へと移動してくること一時間くらい

 

「森が、哭いている」


「……月華草の採取か」


 森の中で両手を広げて立っているレイナの傍らで僕は彼女から奪った依頼書を見てうめき声を上げる。

 自分たちの元に寄せられた来た依頼は月華草と呼ばれる中々採取が面倒な薬草の採取であった。


「然り、我らが天は月華草を欲しておられる。月より堕ちし一つの雫は、人々に恵みをもたらし、人を救い給う。天が恵み」


 月華草はとある病気の特効薬になる。

 うちの生徒、もしくはその身内に月華草が効く病にかかってしまった人がいるのだろう。


「天が恵みを摘み取りしは天に愛された我が使命……位置はわかりて?」


「……ふっ。天は微笑みがたい。労無き人に微笑むことはない」


「然り」


 なるほど、感知魔法などで場所を掴むことは出来ない、と。


「我が天瞳。すべてを見透かし瞳は万物を見通す」


 これでも僕は感知魔法が得意な部類であると自負しているが、それでも月華草は中々に癖のある草だ。

 草風情のくせに感知魔法などに全然引っかからないせいでそれがどこに生えているか、イマイチ掴みにくいのだ。


「影法師」


 なので、単純に目を増やして全部見えていこう。


「……っ!?」


 僕は影法師をどんどんと出現させ、他人からは不可視かつ不認識の影法師をどんどんと森の中に散らばしていく。


「き、奇怪。突如として天より昂る魔なる力、魔力。して、汝?何を欲し、な、何を為したぁ……?」


 僕の隣に立っているレイナは僕の魔力が高ぶったことはしっかりと感知したようで、困惑しながら疑問の声を上げる。


「天は見し。月華草を発見したり」


 だが、その質問に対する僕の答えは何をしたか、ではなくて何を得られたかで答える。


「え?ほんと?」


「然り、闇が我らを呼ぶ、いざ行かん」


 思わず素で聞き返してきたレイナに対して僕は中二病言語で返す。


「う、うむ」


 そして、未だちょっとだけ困惑している様子のレイナを連れて森の奥深くに咲く一輪の光り輝く綺麗な花を見つける。

 あれが月華草だ。


「ふっ、頼ってばかりでは飽き足らぬ!我が天より摘むごうではないか」


「あっ、自分が摘むの大丈夫です。レイナ先輩の壊滅的な器用の無さは知っていますので。せっかく見つけた月華草をダメにしたくはありません」


 レイナの器用の無さは伝説的。

 ゲームでも知れ渡っていたその器用の無さは、現実世界でも同様に知れ渡っている。


「(´;ω;`)」


 僕はその瞳に涙を浮かべてショックを受けたかのような表情で固まってしまったレイナをよそに月華草を採取していくのだった。

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