ノリ

「えー、ということでラスティーク伯爵家のレイナさんです、仲良くしてあげてね、二人とも」


 圧倒的ハイテンションのイスタル・フォン・レービック・シュタイン・ラスティークこと、レイナ・ラスティークの自己紹介を生徒会長であるアンバーが簡潔にまとめて紹介する。


 もう自己紹介の時点で彼女の圧倒的な厨二病度がわかるだろう。

 これに付随て彼女は何の意味もない眼帯で片目を隠し、片腕を包帯で巻いている。

 末期である。


 ちなみに彼女の厨二病は魔法が在る世界においても本当に、何でも無い……他のヒロインたちがそこそこ重い過去だったり、重要な過去があったりする中で、マジでこの子にだけは何もなかった。


「ちょ!?何故我の真名を省くのだ!?」


「新入生を困惑させないでくれないかしら?」


「な、こ、困惑だと……それは、我への冒涜かぁ!?」


 レイナの抗議をサラリと流すアンバーに対して彼女は涙目になりながらも全力で食ってかかる。


「ふっ!」


 そんな二人のやり取りの前にする僕は全力で彼女のノリにしたがって魔力でマントを作ってそれをはためかせてみせる。


「……ッ!?」


「おぉ!」


「我が名はアルイレス・フォン・シュナイバー・ノイロースト・エスカルチャ!」


 そして、そのまま僕は片目に手を当て、全力でボーズを取りながら堂々と口上を高らかに響かせる。


「前世の業を背負いし、カルマ高き魔導の王!共に魔導という天を欲さんとする同胞に会えて行幸たるぞ!」


「お、おぉぉぉぉぉぉ!」


 レイナと全くもって同じテンションで自己紹介を続けて見せる。


「真名を告げし汝が覚悟、信頼を款として我も真名を告げた。だが、ここではやはり汝のことはレイナと呼ぶのがふさわしいであろう。そして、我が名もノアで頼む……あまり、大っぴらにしていると組織に見つかるのでな」

 

 そして、それはそれとして真名のことは棚上げして、互いに本名で呼び合うように話を持っていく。

 流石に真名とか言う謎設定で互いに呼び合うのは嫌だからね。


「と、当然だとも!ノア、我が魂の同胞よ!」


 そんな思惑が隠れる僕の言葉にレイナは嬉しそうな言葉でうなづくと共にこちらへと完全に心を開いたかのような表情と視線を向けている。

 ふっ……なんともチョロいことだ。

 これでレイナの攻略は完成したと言っていいだろう……ッ!実際にゲームでもこれで上手く行っているし。


「……え?も、もしかしてあの子の言っていることってほ、本気なの?」


「え?え?……え?いや……でも、ノアが……え?」


「……嘘でしょ?」


 だが、その代償として諜報に優れるエスカルチャ家の当主が同意したという事実を前にどうしようもないほどの勘違いが起こってしまっていた……まぁ、面白そうだから解かないでおこう。

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