更に強く
ダグラスという近衛騎士団の副団長との模擬戦。
一度はその身を地につけることは成功したが、その後の本気となった彼を相手にはただ逃げ惑うことしか出来なかった。
「あぁ……疲れたぁ」
何とか懇願し、無事に彼から解放してもらえた僕は若干素をこぼしながら体から力を抜く。
「にしても……凄いわね。いくら油断していたとはいえ、一度でもダグラスを地につけられる人間なんて普通の騎士でも数は少ないと思うわよ?」
そんな僕の元へとミュートス王女殿下とルスの二人が近づいてくる。
ちなみに、その他の生徒たちは遠巻きに僕たちの様子を観察している。
「これでも現役で当主だしね。ある程度の力はないと務まらないよ……やっぱ近距離戦は駄目だね。遠距離スタートであればもっと善戦出来る自信はあったんだけど」
エスカルチャ家の当主は基本的に領地から動かず、自分の敵が近づいてくることは事前に影法師で察知した状態で遠距離から魔法を乱れうちするのが常である。
そんな家の当主たる僕が近距離戦を挑んだのが間違いだったわ。
「……それにしても、本当に凄いな。俺も、実力だけはあるつもりだったが……それでも、全然先が見えない」
「あまり上を見過ぎるのもダメよ?特にこの男なんてイレギュラーの中のイレギュラーよ。十歳で父親を退けて当主となり、その後は国全体を相手取って自らの立場を絶対のものとするとともにありとあらゆる分野で邪魔にはならないけど、無視はできない程度の絶妙な立場を確立した男だもの。はっきり言って化け物よ……この私が幾度!煮え湯を飲まされてきたことか!」
「わかっている、それでも……どうしても俺は実力を求めてしまうんだ」
僕への敵愾心に染められたミュートス王女殿下の言葉に対してもなお、力を追い求めるルスの姿勢は変わらなかった。
「まぁ、そんなに焦る必要はない。この学園は努力するものには寛容で、多くのものが与えられる。それに、ルスはどれだけ無茶苦茶やろうとも虐められにくいしな。絡まれてもボコせばいいし、権力を笠に着ようとも僕とミュートス王女殿下が加勢にやってくる。勝つのは難しいからね」
「そうね!私の権力は凄いわよ!」
「それは、本当に感謝している」
「この学園では力を求めるものが進むべき道が多くある。上級生からの指導なんかはその最たる例だろう。うまく進んでいけばルスは確実に僕レベルの実力は得られると思うよ」
クソったれのチート主人公め。
口では上からになってしまうが、本来の立場は逆だ。
どこまでも最善手を追い求めてこちらが主人公という公式のチート存在にただの悪役貴族がどれだけ近づけるかという話である……それでも全然普通に負けそうなので萎えそうだけどね!
「本当か!上級生からの指導……俺は、もっと強くなれるのか!」
「うん、本当だとも。でも、まずは学園生活に慣れることが先だけだがな。まだ、僕たちは新入生になってから三日目だ。あまりにも急ぎするのは良くない」
流石に入学三日目では大したゲームのイベントは起こらないので、大したことは出来ないが。
「あっ、そ、そうか……そうか、まだ三日目なのか。ここ最近、激動過ぎてもう一か月くらいは経った体感だった」
「まぁ、男爵家の子が私のような完全美少女王女様と侯爵家の現当主と知り合って共に行動しているのですもの。そうなるのも自然ですわ」
僕の言葉を受けて少しばかり愕然としているルスに対してミュートス王女殿下はそう話すのであった。
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