模擬戦

 最初の授業において、学園の誰よりも教師面してミュートス王女殿下やルスの面倒を見ていた僕は授業を見学していた一人の騎士に呼びつけられていた。

 ちなみにではあるが、国内の貴族たちが一堂に会する学園では結構、騎士とか文官、貴族家の当主などがふらっと見学に来ることがある。


「さぁ!やろうか!俺としてもエスカルチャ家の魔法を見てみたかったのだ!」


 その騎士こそが我が国の中でも精鋭中の精鋭である近衛騎士団の副団長である男、ダグラスである。

 暇そうにしていたからという理由で僕はダグラスから模擬戦をするよう強要されたのだ。


「言っておきますけど、我が家の家系魔法を自分が戦闘に使うことはないですよ?」

 

 鎧を着こんで準備万端なダグラスに対して運動着にも着かえずに制服を身に着けたままの僕は彼の前でストレッチをしながら口を開く。


「ほう?見えるのだろう?360度から、便利ではないか」


「そんなものはいりませんよ。全部見えるので」


 僕はダグラスの言葉を素っ気なく否定して拳を構える。


「何の武器も持たないのか」


「徒手が一番馴染みましたので。では、始めましょうか。授業の時間も有限ですから」


「なるほど、それではどこからでもか」


「では、お構いなく」


 僕は言葉の途中で地を蹴り、ダグラスへと迫っていく。

 そして、未来視でダグラスの数秒先の未来を読む僕は彼が反射的に振り下ろした剣を危なげなく回避して確実に避けられない位置へと蹴りを叩き込む。


「ぐっ」


「七」


 僕はそのまま流れるように次の攻撃態勢へと移る。

 このままダグラスが本格的に戦闘モードに入る前に叩きのめす。


「ぬんッ!」


 だが、それに対して一瞬にして態勢を立て直したダグラスが剣を僕の方へと向けてくる。

 態勢の立て直し方、剣の振り方。

 一切そこに無駄はなく、流石は近衛騎士団の副団長と言ったところだろう。

 だが、予め行動を予測する僕にその完璧な一振りも当たらずに空を切る。


「六、五、四」


 そして、更に三発ダグラスへと打撃を叩き込む。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおお」


 ダグラスは剣での攻撃から魔法での攻撃に移ろうと己の魔力を高め、詠唱を開始させる……だが、それも見ている。

 僕は先手を打ってダグラスの魔法が上手く機能しないように世界の理にロックをかけてある。


「なぬっ!?」


「三」

 

 魔法が発動せずに一瞬だけ体が硬直したダグラスへと足払いをかけてそのまま態勢を崩させる。


「ぐあっ」


「二」


 足払いされてもなお踏ん張ろうとするダグラスの顔面へと強烈な肘撃ちを叩き込んで強引に地面へと倒す。


「一」


 そして、最後にダグラスの腹へと正拳突きを一つ。


「ごふっ」

 

 ここまでおよそ三十秒足らず。

 圧倒的な速度で僕は近衛騎士団の副団長であるダグラスを地面へと叩きつけるのだった。

 

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