汎用魔法

 幼少期の頃の僕はお世辞にも強いとは言えなかった。

 影法師の最大運用数は千が限界であり、汎用魔法に関しても際立った状態になく、固有魔法さえもコントロールが覚束ない状態だった。

 記憶を取り戻したばかりの頃の僕はまさしく何の力も持たない脆弱な子であった。

 あれだけ焦っていたのも当然と言える戦力しか持っていなかった。


 そんな僕は今や父上と相違ないだけの影法師を操り、固有魔法は既にコントロール下に置くことだけは出来ている。


「良い?まずは汎用魔法の基本的な理論だけど、世界の理を理解するところから始まる。当たり前として存在する家系魔法と固有魔法とは違って汎用魔法は学術的な魔法だと言って良い」


 そして、汎用魔法に関しては人に教えられるレベルにまで成長している。

 国内でも有数の使い手であるという風に自負しているし、それも間違いではないだろう。


「うっ……」


 僕の説明を聞いて勉強嫌いのルスが眉を顰めたのを無視して説明を進めていく。


「万物は火、水、木、金、土から成るという理論に基づいて世界を読み取っていくのが汎用魔法だ。本来の汎用魔法は家系魔法と固有魔法を使えない、それでも格別とした頭脳を持つ天才たちが自分たちでも使えるように磨いたものであり、ぶっちゃっけその難易度は全然汎用などではなく、使用可能な人間は家系や固有を持つ者よりも遥かに低いものであった」


「えっ!?そ、それじゃあ俺は使えないのか!?」


 僕の説明に対してルスは百点満点の反応と共に驚愕の声を上げる。


「であった、と言っただろう?話は最後まで聞くべきだ。元はそんな魔法であったが、研究が進むにつれて体系化も進み、今では誰でも使えるレベルの優しい理論にまで落とし込まれている。ようやくここで汎用となったのだ。なので、僕たちが学ぶ汎用魔法はどちらかというと新しく世界を読み取っていくのではなく、先人の足取りを進んでいくこととなる。だから、そんなに難しくもないから安心するが良い」


「よ、良かった……」


 僕の説明を最後まで聞いたルスはほっと一息つく。


「わかってく」


「へぇ……そうなんだ。汎用魔法ってそういう経緯があったんだ」


「おい?ミュートス王女殿下?」


 そんな説明に対して、傍で聞いていたミュートス王女殿下までもが関心したような声を上げたことに対して自分の言葉を止めて、彼女の方に思わず視線を向けて声を上げてしまう。

 いや、勉強した者であればこれくらい知っているだろ。


「しょ、しょうがないじゃない!?そんな歴史なんて学ばずただ既に体系化されていた魔法しか習っていないもの!」


「……えぇ?」


 クソオブクソの父上でさえも汎用魔法の基本的理念からまず教えてくれたぞ……?  

 ミュートス王女殿下の言葉を聞いた僕は王宮の教育の質の低さに驚愕し、思わず呆れたような声を上げてしまうのだった。

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