貴族

 念願であったゲーム本編、学園が始まったわけであるが……ここ二年間で色々と暴れすぎた。

 いや、別に悪い意味で目立ったというわけではないのだが、端的に言うと善人面しすぎてしまった。

 数多多くの貴族に接触し、せっせとエスカルチャ家として黒いうわさや派閥争いとは一歩引いたところで既得権益も犯さないように慎重に立ち回りながら純粋に国力だけを上げるような取り組みを延々とし続けてきた。


 おかげで今の僕はすべての貴族から頼られる立場にある。

 中央集権化を進めることを志す王党派、小さな政府を目指す貴族派、その中間である保守派。

 それらすべての緩衝材が今のエスカルチャ家だ。

 元からエスカルチャ家は貴族同士の全ての交流から離れていたこともあって完全な中立としての立場を築くのは簡単だった。


「本日は招待していただき感謝するオストワ伯爵」

 

 そんな存在になってしまったせいで僕はせっかく学園が始まっても貴族との会談などで思うように動けていけなかった。

 入学式が終わった後の時間だけでは足りず、学園登校初日返上で王都にいる多くの貴族と会う機会設けることになってしまっていた。


「いえいえ、学園へと入学されためでたい日に招待出来たことを嬉しく思う」


 もう次の日だけどな?という野暮なことは言わない。

 昨日僕が会ったのは王家と公爵家だけであり……面子的にも後日に回されても文句は出ないだろう。


「こちらこそあなたからこの祝いの門出を祝福されて感涙の極みである。本日は短い時間ながらも良き話が出来たら嬉しい」


「えぇ。こちらこそそう思いますよ」


 正面あって座る僕とオストワ伯爵家の当主との間に設けられた時間は限りなく少ない。


「それでは、入学祝いとのことで我が家の名産物であるペンをプレゼントしたい。魔法が込められたこのペンは一生書き続けられる一品だ」


 そのため、本来はもっと長ったらしく続く前哨戦を無視してさっさと本題に入る。


「おぉ、これはありがたい。日々の勉学の向上のためにありがたく使わせてもらおう」

 

 僕はオストワ伯爵家から綺麗な箱に入った高そうなペンを受け取る。

 こうしてほぼ手ぶらでやってきた僕は入学祝いだけで学園生活に必要なものをコンプリートしていっていた。

 既に王都で暮らすための屋敷に、移動に使う馬車、プライぺードな時間で身に着ける服からアクセサリー、身だしなみの為の道具なども貰っている。


「それではまた貴方と会える日があることを楽しみに待っている」


「あぁ。こちらこそ楽しみにしている」


 現役の侯爵家当主が学園に入学する。

 年齢的に前代未聞の事態な引き起こした僕と会いたい人間はいくらでもいる。

 僕はさっさとこの場を切り上げて次の貴族家の方へと向かうのだった。

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