入学式
入学式は例年、好き勝手出来るような高位貴族が出席することは少ない。
どれだけ高貴な身分であってもやはり、長ったらしい式典は好まないのだ。
ちなみに入学式において新入生代表の挨拶をしなくてはならない人間は出席しなくてはならないけどね。
今年は第二王子が勤めるので、侯爵家当主と王女は自由だ。
「さて、これからどうするか」
というわけで僕はミュートス王女殿下とルスの二人と共に適当に王都を歩いていた。
「このまま適当にぶらついていればいいでしょう。ノアも久しぶりで、ルスに関しては初めてでしょう?王都に来るのも辺りをぶらついて楽しむのが一番よ」
「そうだな。正直に言って出来るだけ土地勘を得ておきたい……こんな広いところに来ること自体始めてだからな」
「別に僕は常にここを監視しているから目新しさはないが、良いだろう。実際に見て触れるのとでは違うところもあるだろうからな」
そして、そのまま僕たちは王都散策を楽しむことにする。
王都にはそれ相応に栄え、多くのものが売られて賑わっていることもあって暇になることはないだろう。
「にしても王都も効率が悪い。何故河川の近くに街を作らなかったのだが。河川近くの街から陸路で一生懸命頑張って商品を集めるのも非効率であろう」
僕は王都に立ち並ぶ多くの露天商を見ながら呟く。
この時代では圧倒的に海運が強い。
それなのにも関わらず海運の届かない陸地に王都を作り、必死に金をばら撒いて王都に商人を集めている王家の努力には草を生やすことしか出来ない。
「しょうがないじゃない!河川は商売において強いかもしれないけど、攻城戦には不向きなんだもの。水を操作出来る魔法使いが少しいるだけで負けだわ。すべての水の支配権を奪うとか現実的じゃないし。一瞬で街が水没するわ」
「そもそも王都にまで攻め込まれた段階で負けであろう。既に国家存亡に瀕しているのだが」
「いざというときの為よ。ルスならわかるわよね?」
「え?……いや、まぁ、確かに俺たち男爵家レベルになれば常に崖っぷちだが、それを国に置き換えるのもどうかと思うぞ?」
「……内乱が怖いのよ」
味方がいないと判断したミュートス王女殿下は切実な声を漏らす。
「何のことかわからぬな」
「王家に平然と盾突いてくる二人もいることだしねぇ?」
そして、僕とルスを見て彼女はジト目で睨みつけてくる。
「何のことかわからぬな」
「待ってくれ、俺は別だぞ?王家相手なら靴だって舐められるぞ?」
それに対して僕は知らぬ存ぜぬを貫き、ルスは全力で遜る。
「エスカルチャ家は良いぞぉー?国内どころか世界中の情報を集めている。良いぞぉ?我が家は」
「むむぅ?」
そんなルスは王家の味方をするか、エスカルチャ家の味方をするかで大いに悩み始める。
「いやいや!?なんで悩んでいるのよ!流石に男爵家を守る能力であれば王家の方が上よ!」
「はっはっは!ということでエスカルチャ家の力は世界一!さて、商人と交渉して回ろうではないか」
「待ちなさい!貴方の場合はシャレにならないわ!ちょっと、そろそろ大人しくしてもらえるかしら!?」
制服に身に纏う僕たちはただのどこにでもいる学生のようにはしゃぎながら王都を歩くのだった。
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