入学前
記憶を取り戻してから今に至るまでの二年間。
ここに至るまでの間で僕は結構色々なことをしていた。
その中の一つに王家が内々で進めていた儲け話を利用して王家を超えて金儲けをしたものがある。
その一件が故にミュートス王女殿下から警戒されているのだろう……仕方がなかったんじゃー、元より経済界に影響力がほとんどないエスカルチャ家で一から金儲けをしようとしたらある程度無茶する必要があって、その無茶を苦笑いで許してくれそうなのは王家くらいだったんだよ。
ちなみに、一時は婚約話も出てきた間柄ではあるが、ちょくちょく殴り合っていることもあって今の関係値は婚約するような間柄ではない。
なんか、推しと政治的に殴り合っているのもこの世界で生きているって感じがして、ラブコメするのとは別で良いよな。
「学園では無礼講ですから。すべての者たちが平等であるとの建前もありますし、互いに敬語はなしでいきましょう」
「……えぇ、良いわ」
僕の言葉に対してミュートス王女殿下は警戒心をあらわにしながらも頷く。
「そんな警戒しなくても良いだろうに……少々王家を利用しただけではないか」
「それがだいぶ大きかったんだけどね?そのせいで計画がとん挫するくらいの損害を受けたんだもの」
「得させてもらった代わりに情報面からすらも全面的なサポートしてその計画を全面的にバックアップして成功に導いたであろう?それで許してほしいものだが」
「……え?そんなことしていたの?」
「……ん?知らなかったのか?」
「と、というか……計画が成功していることさえも知らないのだけど」
「ふむ、もしかしてこれは僕が口を滑らした奴か……?」
「いや!良いのよ……え?本当なのよね?」
「本当だとも。少し調べればわかることを嘘ついてどうするというのか。すべてただの真実だ」
「……うっそー」
僕の言葉にミュートス王女殿下が驚愕の表情を浮かべる……なんで、国王陛下はこの事実を黙っていたのだろうか?
あの一件以外にも細々とした殴り合いはしていたからあまり関係値自体は変わらない気がするけど、それでも彼女に与える僕の印象は幾ばく和らいだかもなのに。
「……そこら辺の事実確認は後でやってくれ。今日は入学式であろう?僕はサボるつもりであるが、出席したことにしてくれるよう教師に話をつけておかなければならないのでな」
それに対しての議論は無駄だと判断した僕はさっさと話を切り返す。
「あぁー、そうね。私もサボろうかしら。大した意味はないしね。それじゃあ、さっさと学園の方に向かいましょうか」
「あっ、ちょっと待って。先に後ろの子と会話したいから」
僕の言葉に頷いてさっさと学園の方に向かおうとするミュートス王女殿下を呼び止めて、少し離れたところで立っていたゲームの主人公ことルス。
いきなり自分の前で始まってしまった殿上人同士の会話を前にどうすれば悩んでいるルスへと僕は視線を向ける。
「君も一緒に来るかい?」
「い、いえ……その、自分は男爵家でありますから」
僕のお誘いに対してルスは一歩引いて頭を下げながら否定の言葉を口にする。
「君の目的のことも考えるとここで僕の手を取るべきだよ?僕は君にここで手を差し伸べているわけだ。ついでに敬語なしで会話することすら許そう。諜報に優れるエスカルチャ家の名声は君も知っているだろう?」
そんな、逃げの構えを見せたルスに対して原作知識により絶対に断れるはずのない文言を並べて彼が頷くよう仕向ける。
「……ッ」
「さぁ、どうする?」
「……お願いしま……いや、うん。お願いする」
「よろしい。それでは行くとしよう」
僕は自分の言葉に頷いたルスに対して満足げに告げ、そのまま彼も連れて学校の方へと向かうのだった。
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