これから

 自分の推しであるミュートスと顔合わせた僕ではあるが……それでも今日のところは引くことしか出来なかった。

 あそこでほいほいと婚約を結ぶことは出来なかった。

 一先ずは国王陛下に僕の存在を認めさせ、親戚筋を王都内に留めてくれるよう断言してくれただけで満足するべきだろう。


「……あぁぁぁぁぁ」


 というわけで、僕は自分の推しであるミュートスを前にしながら諦めてそのままお別れし、泣く泣く領地の方に引き返していた。

 

「とは言いつつ、アンヘルは僕の手元にいるわけだけど」

 

 一人、執務室にこもる僕は自作した世界地図を眺めながら自分の考えをまとめていく。


「って、女の子相手に手元にいる発言は普通にきしょいな」


 自分の発言に対して自分でドン引きしながらも僕は地図の上に駒を並べていく。

 並べている駒は原作知識から持ってきた自分の敵と成り得る可能性のある者たちを模したものだ。


「既に当主としての立場は盤石。エスカルチャ家のポテンシャルは高い……これから混沌を迎える時代でも問題なく戦えるどころか、もっと上だって目指せる」


 僕は自分の立ち位置を改めて見返しながら今後の戦略を考えていく。

 頭の中にある原作知識にエスカルチャ家の持つ家系魔法、領地自体が持つポテンシャルなどを考えるといくらでも自分の勢力を伸ばせるだろう。


「……せっかく、ゲームの世界に転生出来たんだ。この世界には僕の推しもたくさんいて、画面上でしか見られてなかった数多くの景色が現実にあるんだ」


 これまでの僕は直ぐ目の前に死があるような状況だった。

 記憶を思い出した時にはもうすぐ目の前に自分が悪役貴族として主人公に断罪されるフラグがあり、それを反射的に折れば今度はお家騒動で殺される可能性が十二分にある状況であった。

 それを前に思考はただ一つにのみに絞られ、余裕がなかった。


 だが、今は違う。

 既に明確な死の危機は去り、ある程度余裕が出来ている。

 だからこそ、確かに僕がゲームの世界に生きているという自覚が出来た。


「うぅーん」


 僕は体を伸ばしながら声を漏らす。


「……良し、僕はこの世界で主人公になる」

 

 そして、決意の言葉を口にする。

 

「この世界には決して届くことはなかったすべてがあり、すべてを手に出来るだけの資格がある」


 ノア・エスカルチャは序盤で殺される悪役貴族である。

 だが、そのポテンシャルだけでいれば主人公に勝るとも劣らない。


「主人公に関しては腐女子用に作られたBLルートだってあるわけだし、BLルートに進めておけば問題はないでしょ」


 全ストーリー解放を掲げた男性配信者があまりにも濃密すぎるBLルートに発狂しながらもしかとその宿命を果たしたことを思い出しながら僕は自分の前にある駒の一つへと手を伸ばす。


「さぁ、世界を取りに行こう」


 そして、僕は不適な笑みと共に宣言の言葉を口にするのだった。

 まぁ、その前に僕は家系魔法を完全に使いこなす必要があるんですけどね!

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