謁見

 アンヘルと共に王都での観光を楽しんでいた僕であったが、すぐに僕の存在に気づいた王家よりやってきた使者に従う形で王城の応接室へとやってきていた。


「お初目にかかります。国王陛下。私はエスカルチャ家当主、ノア・エスカルチャと申します」


 応接室でただ一人で待っていた国王陛下へと僕は立ったままの状態で深々と一礼してみせる。


「うむ。こうして顔を合わせられたことを喜ばしく思う。新たなるエスカルチャ家の当主よ。まずは、お父上の身に起きた不幸な事件に対して哀悼の意を示させてもらおう。さて、そこに座ってくれ」


 公的にも不正に対する処刑として扱われている父上の一件を不幸な事件としてさらりと流す国王陛下の言葉に従って僕は彼の対面の席へと腰を下ろす。

 そして、僕は改めて自分の前に座っている国王陛下の方へと視線を送る。

 こうして実際に会うのは僕が記憶を思い出した後も前も初めてのことだ。

 

 我が家へと侯爵位を叙任するアテネス朝オワイオス王国の13代目国王であるウンゲラーテ・アテネス。

 ゲームにも名君として登場する目の前にいる男が有能な人間であることはこうして顔を合わせてみれば明瞭に理解出来た。


「王命により王城へと参上させていただきました。それで?私へと何の用でしょうか?国王陛下が我が家の当主へと登城を命ずるのはかなり稀なことであると認識しているのですが」


「そうであるな。エスカルチャ卿が若くして当主へとに対する些細な気遣いである。不必要であっただろうか?」


「いえ、国王陛下の寛大なお心に感謝するばかりであります」


「……」

 

 徹底的に国王陛下を上に置き、下手に出るという我が家の当主としては中々に珍しいことを行う僕に対して心底やりにくそうにする国王陛下は幾ばくか悩みを見せた後に僕へと本題を切り出してくる。


「それで、尋ねたいわけではあるが、若くして当主になったのだ。その能力面での不安ごとはないだろうか?主に諜報面に関して」


「ご心配にはございません。元より父上より次期当主としてお墨付きを頂けるだけの実力は有しており、父上を処刑することも可能ですので」


 まったくの嘘である。

 僕の実力なんて父上の半分程度である。だが、父上を殺せたというハッタリはかなり効くはずだ。


「……うむ、であるか」


「えぇ。まったくもって問題なく出来ていますよ」


 わざわざ奇襲する形でここにまでやってきたんだ。

 そのせいで、僕が何の問題もなく諜報活動が出来るかどうかを確認するための試験などを用意は出来ていないだろう。

 頭ごなしに僕の言葉も無視できないはず……さぁ、引くほかないだろう。国王陛下よ……次点での有力候補である伯父は少し前にご報告したばかりだろう?

 ここについてはしっかりと確認済みだぞ。


「王家の抱くアマテラス計画についてでも語りましょうか?」


「……ッ!?」

 

 そして、更にダメ押しとして原作知識から持ってきた未だ完全に秘匿している王家の計画まで口にしてみせる。


「エスカルチャ家の当主に対しての隠し事は出来ませんよ?どうでしょう?自分の能力は理解していただけたでしょうか?」


「そうで、あるな。正直に言うと少しばかりの疑いを持っていた。すまない。これからもエスカルチャ家に全幅の信頼を寄せよう。諜報に関してはこれからもよろしく頼む」


 僕の言葉に対して国王陛下は頷き、こちらの実力を認める。


「えぇ、もちろんにございます。これからも良き関係であり続けましょう」


 完全勝利───っ!

 表向きは冷静な格好をしながら僕は心の中でガッツポーズを取るのだった。

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