伯父

 父上が死んでから早いことでもう一か月。

 既に領内における僕の地位が盤石となった頃に自分の伯父とも言える男が来襲していた。

 王家の使者としてやってきた彼をぞんざいな扱いをするわけにもいかず、しっかりと応接室に招き入れていた。


「……」


 既に前世の記憶を取り戻してから一か月。

 偉そうで実に賢そうな男を演じる技量も実に上がっている。


「……っ」


 そんな僕は伯父を前にして全力で自分凄いっすよアピールをしながら迎え撃つ。

 それに対して、伯父も伯父で自分の甥を相手に負けないように精一杯大物感を出そうとしているが、これまでぬるま湯の中で生きていたであろう伯父は勝手に圧迫感を感じて冷や汗を流し始めている。

 虚勢対決は僕の勝利であった……別に僕もぬるま湯の中で生きていたけど……単純な演技力に差があったな。


「わ」


 無言の睨み合いから逃げるようにして伯父が何か言葉を告げようと口を開く。


「まずは王家からの伝令感謝する」

 

 それに対して僕は相手の発言を塗りつぶしながら自ら口を開く。


「王家からの伝令は確かに憂慮すべきことであり、わざわざ自分の叔父上が持ってきたことに感謝の意を示そう。そして、王家への対応をどうするかはこちらの方で考えさせてもら」


「そんなものはどうだっていいだろう!我が家の優位性が崩れることはない!」


 伯父は僕の言葉を遮って大きな声を上げる。


「ただし!我が家が舐められない限りだ!」


 大きな声を上げる伯父は精一杯自分のペースに持ち運ぼうと話を展開していく。


「当主であった男が死に、代替わりしたのだ。我が家に」


「確かにまったくもってその通りだろう。だが、たかが当主が変わったくらいで舐められるほど我が家は安くない。それに、だ。そもそもとして、貴公とて我が父に家系魔法の腕で敗北した者だろう?そんな人物を上に置いても周りから舐められるのは変わりない様に思うが」


 基本的に当主は長男が継ぐものではあるが、父上は次男。

 実力で成り上がっている。

 そして、そんな父上に負けて当主の座を奪われた男こそが今、目の前にいる伯父である。


「僕は父上を殺したぞ?」


「……ぐっ」


 伯父は一度、父上に負けている身だ。

 この言葉はよく聞くであろう。


「伝令のことは感謝しよう。だが、それ以上の会話はない。もとより何があろうとも次期当主は僕であると断言していたのは父上だ。ゆえに、ここが崩れることはない。もうお帰り頂こう。ここは既に僕のホームだ。あまり、僕と敵対はしたくないだろう?」


 一切の譲歩もない。

 失礼として言えない態度と言葉で僕は伯父へと宣戦布告の言葉を口にする。


「~~ッ!」

 

 それに対して伯父は当然の如く表情を怒りに染め上げ、立ち上がる。


「……」


「……ッ」


 だが、それも僕の隣に護衛として立っていたアンヘルの強烈な殺意を向けられて沈静化する。


「わ、私は……ッ!我が家の一員として、我が家の行く末を、心配していただけのだ……」


 一応、一度は地を舐めて無様に倒れた男ではあるということだろう。

 父上であれば決して断固として引かないであろうこの場でその瞳に負け犬としての恐怖の色を宿しながら徐々に言葉から力を失わせていく。


「……今日は、ここら辺で失礼する」

 

 そして、そのまま逃げるようにして伯父は応接室から去ってしまった。


「……」


 ふぅー……うぃー!

 何とか最初のゴタゴタは切り抜けたぞぉぉぉ!しゃっぁ!

 

 それにしてもまさかここまで自分の伯父がへっぴり腰だとは思わなかった!

 いやぁー、実にきもちぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええええ!!!

 完全勝利やもん!これは、もしかしたら余裕でお家騒動を切り抜けられるのでは?なんか思っていたよりもうちの家の人間が無能だ。

 やっぱり全能感しかないような家で負けたことがあるってのは思ったよりも大きいのかも!


「さて、仕事に戻るとしようか」


 内心で全力で大喜びしながら、表向きでは冷静な態度を取る僕は出来るだけイケボになるよう注意しながら答えるのだった。

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