次期当主
行動は出来るだけ迅速に。
他人が動くよりも前に自分の地盤を固めてしまう。
「お前ら」
部屋の扉を開けて外に出た僕は廊下で控えていた部下たちへと声をかける。
「部屋の中を片付けておけ」
そして、部屋の中を指さしながら命令を下す。
「なっ!?デブデカマ様ッ!?」
「そんな……ッ!デブデカマ様が!!!」
「デブデカマセ様ぁぁぁぁぁぁぁ」
「な、なんと……何故……ぁあ、デブデカマセ様がぁぁぁ」
「唯一無二の方が……この先、どうなる?」
エスカルチャ家に仕える者たちがまるでとある映画でどこぞのスターリンが死んだときに側近たちが見せた白々しい態度そのものを取りながら父上の死を嘆き始める。
「な、何故このようなことに……?」
その後に彼らから僕に向けられるのは疑問の声であった。
「僕が殺した。説明は追って行う。お前らは何も考える必要はない。この豚は暖炉に突っ込んでおけ、次期当主が誰か忘れたわけではないだろう?」
それに対する僕の答えは簡潔だった。
そして、疑問に答えた僕は足早に彼らの元から離れ、赤い絨毯が引かれた西洋風の屋敷の廊下を歩いていく。
「……」
これでも一応は魔法に関する教育を受けている身。
ある程度の魔法ならば使える。
僕は確実に自分の味方となるであろうまともな面々へと魔法を使って遠隔から連絡をしていく。
この世界の文明レベルは中世から近世レベルだが、それでも魔法があるおかげでだいぶ便利だ。
「……ノア様。私はどうすれば?」
僕が淡々と連絡を取っている傍らでおずおずとアンヘルが疑問の声を上げてくる。
「お前は何も言わずに僕の後について来ればいい」
そんな彼女を軽くあしらうと僕は父上の執務室へとやってくる。
「……相変わらずきれいなことで」
執務室には何の書類もなく、実にきれいな姿を保っている。
ちなみに僕が生きてきた十年間で父上が執務室に座っている姿を知らない。
「お前は横に立っておけ」
「はい」
僕は執務室の奥にある父上の為の席へと腰掛けてここへと己が呼びつけた人間が来るのを待つ。
しばらくすると、扉をノックする音が聞こえてくる。
「入れ」
「失礼します」
入ってきたのは我が家に仕える重鎮である三人だ。
働かない父上の代わりに領地を運営している事務官のトップである事務長官。
領地を守り、魔物たちと戦うことを主な仕事とする騎士のトップである騎士団長。
たくさんいる使用人たちを束ねる執事長。
この三人が僕の元へとやってきたのだ。
ちなみにであるが、我が家は当主であるエスカルチャ家が諜報に長けている魔法を持っていることもあって部下の不正は爆速でバレる上に他家からのスパイもなく爆速でバレる。
そのようなこともあって我が家の部下は不正をしないマシな人材が揃っており、カスみたいな当主を持っていてもエスカルチャ家が持つ広大な領地を運営できるのだ。
「さて、まずは端的に事実から話そう」
僕はここにまで持ってきた父上のあまりにも多すぎる不正の証拠を執務室の机の上に広げる。
「父上は国王陛下に隠れて数多多くの不正を働いた。それゆえに不敬罪として僕がこの手で処断した。そして、父上が生前指名していた通り、次期当主として僕が席に着く。そのように理解しておけ」
三人を前にする僕は出来るだけキリっとした表情を浮かべて言葉を告げる。
「……え?」
「なっ!?」
「……」
僕の言葉に大して三人が共に目を見開いて驚愕を露わにするのだった。
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