後処理

 さて、情報を整理して行こう。

 まず、これまで僕は何処にでもいる高校生として平々凡々な生活を送っていた。

 そんな僕が今やどういうわけか、あの大人気RPGゲームであるイスタルキャンパス、通称イスキャンのキャラの一人に転生してしまったようだ。

 そのキャラの名はノア・エスカルチャ。序盤に殺される悪役貴族である。

 

 僕の名前もそうであるし、何よりも僕の前で無様に首から血を流して屍を晒している自分の父である男デブデカマ・エスカルチャの存在がそれを確定的にさせてしまっているといえる。

 それに、別に僕はこれまで十年間生きていた記憶をしっかりと持っているしね。これまでの経験的にここがイスキャンの世界であることは間違いないだろう。


「……」


 さて、そんなこんなで僕は前世の記憶を思い出してここに立っているわけだが……どーしよ。マジでやっちまった。

 衝動的に自分の父親を殺すように命令してしまった……これから我が家をどーするんだ?父上の子供、十歳の僕しかいないんだけど。後継者問題不可避じゃん。


「ノア様……」


 途方に暮れていた僕へと一人の少女が声をかけてくる……そう、実に見覚えのある彼女が。

 僕の知っている顔よりは幼いが、それもこれも現在がゲーム本編開始の二年前だからだろう。

 

 彼女はアンヘル。片目を隠す前髪かつ肩の長さに揃えられたショートカットの紫の髪に褐色の肌を持つ運動神経抜群な少女であり、ゲームに出てくるメインヒロインの一人だ。

 ちなみにアンヘルは処女をあの禿でデブな僕の父に散らされ、そのままノア、つまりは今の僕の性奴隷となって主人公様の手によって助けられるまで死んだ魚のような目で生きる哀れな少女であった。

 

 そんな彼女にエスカルチャ家の魔の手が伸びるようになった原因は小国の滅亡である。

 歴史に残るほどの魔物による被害を受けて滅亡してしまった小国のお姫様が

であり、わずかながらの部下を引き連れて滅びゆく国から逃げていた彼女に手を差し伸べたのが我が家である。

 お前がその身を捧げればお前の部下は助けてやるという最悪の言葉と共に。


 それを前にしたアンヘルは部下を守るためにエスカルチャ家へとその身を捧げることを覚悟したのだ。すべては部下の為に。

 だが、そんな彼女の大切な部下たちの未来も悲惨そのもの。

 女は性奴隷として父上とノアの二人のおもちゃになった末に売られ、男は強制労働の刑という実に粗末な扱いをされており、その多くが作中が始まる前に亡くなっているし、最終的に全滅する。


 改めて思うとノア、というかエスカルチャ家がカスすぎる……それでも、エスカルチャ家に伝わる諜報に関する家系魔法が強すぎて国防に欠かせないパーツであり、どれだけやらかしても大貴族でいられたような家である。


「……助かりました」


 作中における彼女は作中屈指の鬱要素に非処女であるという要素も相まって大衆人気はないが、それでも一部の界隈からは爆発的な人気があったキャラだ。

 そんな彼女がしっかりと処女を残した状態で、僕へと戸惑いながらもお礼の言葉を口にする。


「全然気にしなくていいよ、君が無事でよかった」

 

「……それは、良いのですが……本当に、殺しても大丈夫だったんですか!?それに、私の部下たちは!!!」


 僕への礼の次。

 それは動揺の声であった。

 

「……問題ないよ」


 そんな彼女の言葉に僕は出来るだけ内心の動揺を隠しながら彼女の言葉に答える。


「すべては計画通りだ。僕が愚鈍な息子を演じていたのも、父に従順であったのもこの時の為。父上を完璧なタイミングで殺すためだよ。僕が愚鈍な息子を演じていたのもね。安心してくれ、すべてが上手く行く、僕の計画通りにね」


 そんなものはない!

 だが……だがだ。今の僕には原作知識というチートがある!これで、なんとか挽回を目指せなくもないだろう……目指せないこともないはず!

 

「……」


 自分に言い聞かせる僕は部屋の隅へと視線を送る。


「……確か、ここに」


 そして、ゆっくりと動き出した僕は今いる部屋の隅の壁。

 そこにあるはずの隠し扉を探していく。


「……あった」


 ビンゴ。

 見事に僕は隠し扉を見つけ、そこに隠されていた幾つもの不正の証拠を手にする。


「……いける、いけるぞ」


 原作知識は有効だ……そして、何より我が家には情報収集向けの家系魔法がある。今の僕は大して使えないが、それでもハッタリに使うことも、原作知識を持つ根拠にもなる。


「これは、いけるぞ……」


 父上が死に、後継者問題不可避の状態であっても逆転し、自分が有能な当主になるための道順がわずかに見えてくるのだった。

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