悪役貴族として転生したけど、ゲームの推しとラブコメしたい!~ただモテたいがために心を入れ替えて努力していただけなのに何故か周りか聖人君主として崇められるようになったのですが~

リヒト

序章

目覚め

 時は12月。

 国を彩る豊かな四季の中で、そろそろ雪が降り始めるような頃に。

 僕はもう十歳を迎えていた。


「……ぐふふ」


 そんな僕の前で、今。

 一人の少女が禿て太った汚い大男に肩を抱かれて嫌そうに表情を歪ませている。


「ぐふふ……その表情も実にそそるぞぉ。その嫌そうな顔をすぐにでも蕩けさせてやるわい」


 恥辱に震えるただ薄い白い布を羽織るだけの少女は今にも泣きそうな表情を浮かべながらも、それでも何の抵抗もしないで立ち尽くしている。

 この場にいるのは僕と少女、そしてその少女へと体を寄せる汚いおっさんだけである。それ以外は誰もいない。


「くぅ……」


 そんな中で、僕の目の前で何が行われているのかというと実に簡単である。

 僕の父上がとうとう十歳を迎え、しっかりと精通も果たした僕に対して、実際の女を使って性教育をしてくれようとしているのだ。

 

 この僕、ノア・エスカルチャへと

 ……そう、僕の名前はノア・エスカルチャなのである。

 んん?……えっ?ちょ、え?僕ってばあのノア、だというの?

 待て、待て、待て……え?僕ってば、えっ?超絶大人気RPGである『イスタルキャンパス』に出てくる序盤の序盤に殺される醜悪な悪役であるあのノアなのか!?


 何も突然記憶喪失になって自分のことをついさっきまで忘れていたわけではない。むしろ、その逆である。

 昨日までは我儘言いたい放題で好きなように生きていた僕は突然、『イスタルキャンパス』出てくるノア・エスカルチャであることに突然気づいてしまったのだ。


「……お待ちを、父上」


 現状を認識した僕は素早く、いや、半ば衝動的に声を上げてしまう。


「ん?なんだ?」


「自分も少し味見してよろしいですか?」 


 急速に頭を回しながら自分の前に立っている禿散らかしたデブこと己の父にお願いの言葉を綴る。

 これがあのイスタルキャンパスの中だと言うのならば、目の前で行われている光景に僕はすさまじいほどの既視感があるぞ……!これは、これはなんとかしないとマズい!!!


「かっかっか!気が早いぞぉ!焦るな!焦るな!俺もお前のような時期があったからなぁ!でも、今は我慢だ!安心しろ、すぐにでもお前にも楽しませてやる!まずはそこで楽しみ方を見ておけ、教育は大事だぞ?」


「いえ、もう、我慢できないのです!?少しでいいのです……そう、今にも泣きはらす限界ギリギリの雌の顔を見たいのです!」

 

 僕はすさまじい焦燥感を感じながら口を回す。


「かっかっか!我が息子ながら醜悪な趣味嗜好だ!確かにこの表情は今だけ……仕方ない、見せてやろうではないか!……ほれ、息子の方に顔を見せてこい」

 

 父上は少女を開放し、そのまま彼女に僕の方へと向かうよう命令する。


「……ッ」


 僕へと憎悪の視線を向けながらこちらへと近づいてくる少女に対して、少しばかり恐れ戦きながらも、勇気を出して自分の前へと立った彼女の体を抱きしめる。


「僕が許可する───あの豚を殺せ。お前の能力であれば容易であろう?案ずるな。既にお前の仲間たちは解放してある」


 そして、耳元へと口を近づけて少女に命令を届ける。


「……ッ!?」


「悟られるなよ?あの豚は存外動ける」


 僕は自分の言葉を受けて驚愕に表情を揺らす少女に悟られないように念押しした後に離れる。


「もう……いいです!さぁ、早く……この雌を無様なめに!」


 そして、伝えたいことをすべて伝え終えた僕は驚愕に目を見張る少女のことを父上へと突き飛ばす。


「いいぞぉ!ほぉれぇ!」


 そんな少女を僕から受け取った父上は乱雑にベッドへと彼女のことを投げてその上に父上の巨漢が乗っかっる。

 

 それからしばし───。


 僕がまばたきしている間にもすべてが終わっていた。


「……どーしよ、これ」


 思わず衝動的に下してしまった命令。

 

 下衆たる笑みと共に少女へと覆いかぶさり、今にも服を脱がそうとしていた僕の父親の首をかっ切り、完全に殺してみせた少女を前に僕は、

 

 今になって冷静になってしまった僕は、呆然と声を漏らすのだった。

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