第114話 裕樹と空の決意
「じゃあな、いい知らせを待ってるぜ」
ムネさんは元気のない後姿を見せとぼとぼと厩舎から出て言った。
空さんは緊張の面持ちを崩さないまま僕に礼を言う。
「ありがと、ひろ君」
「お礼を言うのは早いです。でもまず第一段階は突破ですね。さあ、これからどうしましょうか」
「……簡単なこと」
「えっ」
「お金さえ工面できればいいの」
吐き捨てるように空さんは言った。
「見込みはあるんですか」
「……まあ」
「お金だけじゃなくて
「私、明後日
「分かりました。何をするんですか」
「それはまだ秘密。それと
「うーん、これは僕も知らないんですが……」
「お願い、なんとかならない?」
「分かりました、手を尽くしてみましょう」
「よかった。ありがとう。こうなった今、信用できるのはただ一人、あなただけ」
空さんは僕を真正面からしっかりと見据える。
「ありがとうございます、空さん」
僕は強い言葉で空さんに言った。
「僕たちで必ずシエロを助け出しましょう」
目に強い光を宿らせて大きくうなずく空さん。
その夜空さんは盛岡駅まで僕に送られてどこかへ、おそらく東京へと向かった。助手席の空さんは厳しい目をしていて言葉少なだった。気がたかぶった僕は自分の部屋に戻ってもまんじりともできなかった。
さて、海崎さんの連絡先だ。僕は少し途方に暮れた。果たしてムネさんが簡単に教えてくれるだろうか。僕は大いに疑問だった。翌日の午後、放牧場から馬たちを厩舎の馬房に入れる作業中、厩舎内で後ろから声を掛けられる。大城さんだ。僕は少し警戒する。
「なんでしょうか」
大城さんは一枚の紙きれを差し出した。
「海崎氏の連絡先だ」
僕はその紙きれを受け取り、中をあらためると海崎さんの会社と自宅と携帯の連絡先が記してあった。これはどうしたことかと大城さんに目をやる。大城さんは肩を落としこの間と同じように僕に恥じ入った表情を見せた。
「どうして」
「困っていると思ってな」
実際少々困っていた。ここは素直に礼を言うべきだろう。
「ありがとうございます」
「ああ、いや、構わない」
大城さんはまだ何か言いたそうだった。僕は緊張感を崩さずに大城さんと相対した。
「あの、まだ何か」
「人は見かけによらないと思った」
「はあ」
少し失礼な物言いだと思った。なにを言いたいのだろうこの人は。
「あいつのためならお前は死んでもいいのか」
ああ、あの
「死んでもいいとか、死にたくないとか、考える時間も余裕もありませんでした。ただ僕には空さんには絶対に死んで欲しくない、そのことしか頭にありませんでした」
「そうか…… 強いな」
「強さでも弱さでもありません。とっさに身体が動いただけです」
「俺にはできなかった」
「それが普通だと思います」
「そうかもな」
【次回】
第115話 会見
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