第18章 二人と亡霊
第102話 裕樹ビンビン
昨日は大活躍だったし死にそうになるしで大変だったんだから、今日明日2日くらいは休めとムネさんから厳命された僕は今、こうして万年床の湿っぽいせんべい布団の中でゴロゴロして暇を持て余している。
だけどムネさんの言っていたことが気になる。「休み中お前が一発でビンビンに元気になるようにしておいてやっからよ」ってどういう意味だろう。
10時ごろノックする音が聞こえる。
「開いてますよ」
すると恐る恐る緊張と照れ笑いが入り混じった微妙な表情を浮かべた空さんが入ってきた。すっかり短いベリーショートになって。
「おじゃまします……」
「空さん!」
僕はこの意外な訪問者に驚いた。そして突然のイメージチェンジにもひどく驚いた。僕はあのセミロングが風にたなびくさまが好きだったのだ。だがかわいい。めちゃくちゃかわいい。年上だけど。
「髪はどうしたんですか?」
「え? えーまあイメチェン?
空さんは勝手に上がり込んできて僕の前にすとんと座る。僕はまじまじと空さんの髪を見た。似合ってる。ものすごく似合ってる。昨日までのセミロングと同じくらいに。細い首筋に思わず目を奪われる。よく見ると髪のところどころがわずかに縮れている。そうか、昨晩僕を助け出そうとして燃え盛る小屋に飛び込んでそれで髪を。僕は罪の意識でいっぱいになった。起き上がって正座して空さんと向き合う。
「申し訳ありません。僕のせいでこんな目にっ」
「気にしないで。あなたが無事でよかった。あ、でもやっぱり髪は長い方が好き?」
空さんは僕に顔を近づけて髪を揺らす。僕は直視できず少しだけ目をそらした。
「いや、あ、あの、その、ベリーショート、っていうんですか? 新鮮で素敵です今までと同じくらいいいと思います」
「ほんと? よかった。じゃあこのままでいてもいい?」
「あ、いや、その、出来たら前みたいに長い方がいいかなあ……って」
「ふふっ、じゃあそうする」
子供のように笑顔を浮かべる頬を紅潮させる空さんが眩しい。今日の空さんは今までと全く違った印象を受けた。まるではしゃいでいるようだった。
「でも仕事はどうしたんですか?」
僕が尋ねると、カーテンを開けながら空さんは珍しく快活にしゃべる。僕の部屋に陽光が差し込む。
「うん、今日明日はひろ君のお世話が仕事。ムネさんにそう言われてきたの」
「ええ?」
ムネさんが言っていた「ビンビン」ってのはこのことか? 僕はムネさんの言語センスにため息が出た。
【次回】
第103話 体温計と人工呼吸と原沢と免許証
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