第101話 流星と笑い声
「あ、ごめんなさい」
空さんが身体を離そうとするので僕は空さんの肩をしっかりつかんで離さなかった。
「あっ」
びっくりした顔の空さんに原沢が噛みつく。
「ちょっといい加減なにいちゃついてんすかっ!」
僕は冗談めいて言う。
「ははっ、なんだかくっついて離れなくなっちゃったみたいだ」
恥ずかしくてうろたえた表情になる空さん。
「冗談言わないでくださいっすっ!」
原沢の大声に周囲の人の視線もこちらに集まる。すると打って変わって原沢の顔も声も神妙なものに変わる。
「センパイ…… さっき死のうとしてたんですよね。燃えた小屋に入って焼け死のうとしてましたよね」
「えっ、あっ、いや……」
「あたしはこいつと違ってセンパイがどんだけしんどいのか全然知らないっす。センパイだってなにも言ってくれないし……」
原沢は大きく息を吸い込んで叫んだ。
「でもあたしセンパイが死んだら、後追いするっすっ! 死体がひとつ増えちゃうっすからねっ! いいんすかそれでっ! かわいい後輩の墓がひとつ増えちゃうんすからっ!」
僕は驚き絶句した。僕の肩を抱える空さんがにこやかな声で僕に言った。
「ほら、責任重大ね。ひろ君の命はもうあなた一人のものではないの。それに増えるお墓の数はふたつかも知れないよ」
僕はぎょっとした。
「冗談でもそんな話はやめてください!」
空さんは笑顔を見せる。
「じゃ、死なないって約束して。私たちの未来のためにも」
「ずるいですよ。こういうの反則じゃないですか?」
「じゃあ私たちの反則勝ちね」
僕は
「わかりました。考えておきます」
「それじゃあだめね」
と空さんが言うと原沢も調子に乗って笑いかけてくる。
「だめっすねー」
僕は観念した
「分かった。分かったよ。降参だ。僕はしない。自殺なんてもうしない」
「ふふふっ」
と空さんが笑うと、
「あははははっ」
と原沢も笑い、僕の反対側の肩を組む。二人は笑いながら僕をぐるぐる振り回す。
「やめろやめろ痛い痛い痛いまだ痛いんだからっ」
僕もいつの間にか笑い出していた。芝草の地面の上に倒れこむ。
空は満天の星空だった。
「ああ見える……」
「六等星?」
「なんすかそれ?」
「僕の星だ。僕はいる。確かにここにいる。かすかにだけど輝いて生きているんだ」
ごめん姉さん。僕はまだ姉さんに逢うには早いみたいだ。もう少し待ってていて欲しい。どちらにしたって必ず僕もそちらに逝く運命なのだから。それまで待っていてくれるよね。
ひと際輝く星がきらりと瞬いたような気がした。
「あっ! 流れ星っす!」
「ほんとね」
僕らは夜天を見上げて横たわったままいつまでも笑い続けていた。
だが笑顔を浮かべる空さんを、ムネさんだけは沈痛な面持ちで見つめていた。
【次回】
第102話 裕樹ビンビン
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