第99話 真相

「あ、はい…… おほん。えー、西岡と川東はシェアトを潰すもしくは乗っ取るために送り込まれたスパイというか刺客みたいなもんだ」


 ムネさんの言葉を聞いて一堂にざわめきが広がる。いぬいさんが後を引き継ぐ。


「手順についてはこうだ。基本的には業者に圧力をかけうちに飼料が回ってこないようにする」


 動揺の声が聞こえてくる。その卑劣なやり口に僕も空さんも原沢も唇を噛んだ。だが。


「それだけのことができるやつなんているのか」


 大城おおきさんの言うことはもっともだ。


「俺ならできるぜ」


 素知らぬ顔で海崎さんが言うとみんなぎょっとする。


「慌てんな。俺がやったって言いてえんじゃねえ。俺程度の事業家なら誰でもできるこった、ってそう言いてえのよ」


 いぬいさんは淡々として続けた。


「そして俺たちが干乾しになったところで、飼料を供出することを条件にシェアトの経営権を譲渡させる。こういう段取りだ。つまり兵糧攻めだな」


 シェアトの面々にどよめきが広がっていく。


「だがちと拙速せっそくに走りすぎたな」


 海崎さんが皮肉っぽい声で言うと、いぬいさんがその後を追って説明する。


「黙って兵糧攻めをすればよかったものを、気が急いてここの飼料を焼き払おうとした。こうやって一味もろとも縛につくとは思いもよらずにな。リスク管理が大甘だ。しかも一味としてこいつらが呼び寄せたのはたったの六人で、しかもそろいもそろって三下のごろつき。手練れの格闘家が四人もいる我々とは大違いだ。彼我の戦力差を見誤ったというわけだな」


 縛られたままこっちを向いてうめく西岡と川東。


 僕は驚いていぬいさんに尋ねた。


「えっちょっと待ってください。さっき小屋にいた手下は三人でしたよ。ほかの三人は?」


「ああ、牧草地を焼き畑にしようとした連中は比嘉ひがさんがまとめて蹴散らしてくれた」


「えっ」


 全員の目が比嘉ひがさんに向けられる。ムネさんの後ろに控えていた比嘉ひがさんは何かを恥じ入って後悔するようにうなだれていた。比嘉ひがさんは琉球空手の使い手だと言っていたが、まさかこれほどのものとは。


「これから連中はおいおい本署に運ばれる。取り調べの中で誰の指金さしがねだったかいつまで口をつぐんでいられるか楽しみだな」


 皮肉っぽい海崎氏の言葉に唇を噛む西岡ら。


「まあ笠谷によろしく言っといてくれ。おっと、留置場から電話はできないんだったか。そりゃ残念だなあ。やつの方から差し入れでもしてくれたらいいがなあ」


 嫌味たっぷりな口調の海崎さんにカッとなった川東が向かっていこうとするがいぬいさんに胸を蹴られて尻もちをつく。



【次回】

第100話 海崎氏の依頼

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