第67話 シエロ発見、そして空は……
時折前が見えなくなるほどのひどい豪雨にもかかわらずメイは頑張って走りとおしてくれた。南西で目ぼしいものと言えば、あとはもう昭和時代の
たまに息が苦しくなるほどの暴風雨に難渋しながらメイはゆっくり歩みを進める。
突然メイが高くいななく。落ち着きがなくなる。僕は驚いた。
「どうした、メイ」
暴風雨の轟音にかき消されそうな微かないななきが聞こえてくる。シエロだ、シエロの声だ。間違いない。僕はその声のした方へ向かってメイを急がせる。ほっとした僕は泣きそうになった。このすぐ先に
「シエロ!」
思わず声が出る。シエロはひどく濡れている。僕は思わずシエロに語りかけた。
「空さんはどこだ、なあシエロ。空さんはどこにいるんだ、教えてくれ」
その時背後で水の跳ねる音がしたような気がした。振り向くと薄暗がりの中、力を失い両腕を広げてうつ伏せに倒れた人影が見える。その不自然な倒れ方はまるで死体のようだ。僕の全身から血の気が音を立てて引いていく。顔は豪雨に邪魔されよく判らない。だがセミロングの濡れてくしゃくしゃになった髪。泥だらけのグレーのサマーセーターに細いデニムパンツ。見慣れたいつもの服装だった。
「空さんっ!」
僕は慌てふためいて駆け寄る。恐怖で身体に力が入らない。だがその時僕の中に炎がたぎる。僕は負けない。必ず、必ず絶対空さんを救い出す。絶対に。ポンチョを被った僕は力尽きた空さんを抱き起す。なんて軽い。初めて抱き上げた時と比べてもほとんど変わらない。それは死を予感させるに充分な重さ。
「空さんっ!」
真っ青というより白い顔と紫の唇をした空さんは雨に打たれながらも何か呟くが、雨音がうるさいのと空さんの声が小さいのとで、何を言っているかは判らない。身体は弱々しく震え力が入らないようだ。
すぐにでも身体を温めないと、空さんは死ぬ。
【次回】
第68話 深刻な病状の空に
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