第64話 捜索隊結成

「今のままではだめです。必要なものを揃えましょう」


「なんだそれは」


 いらだち気味に大城おおきさんが問いかける。


「乾いたタオルと温かい衣類、カイロ、寝袋、出来ればツエルト、カロリーと水分です。空さんを発見した時に避難できる場所があればそこで身体を乾かし着替えさせて温めカロリーと水分を補給できます。避難場所が無ければツエルトでやり過ごします」


「そんなの揃える時間はないだろう。一刻の猶予も許さないんじゃなかったのか」


 大城おおきさんが詰問する。


「その通りです。なので今から装備を整えるのはここの半数の人、2人に限定します。装備しない人はカロリーと水分だけ携行し先行して捜索を開始。空さんを発見し次第連絡を。そこから近くに避難できる場所があればそこに装備を持ったものが向かい合流し空さんに処置を施します。そうでなければ空さんを連れて避難できる場所へ向かいます」


 ムネさんが不思議そうに訊く。


「なんていうか、その、裕樹ひろきは心得があるのか。低体温症の」


「ええ、高校大学とワンダーフォーゲル部に所属していました。僕自身大学生の時に低体温症にかかったこともあります」


「そうか、どうりで手際がいいわけだ。じゃあその装備を持つ者の一人は裕樹ひろきで決まりだな。頼むぞ」


「はい、わかりました。僕ならツエルトも持っています」


 大城おおきさんの不機嫌そうな視線が僕に刺さる。


「もう一人は誰がいいと思う」


「それは……」


 四人のメンバーを見回す。ムネさん、ゴウさん、小坂部おさかべさん、そして大城おおきさん。体力的に一番恵まれているのは間違いなく大城おおきさんだ。個人的には大城おおきさんとは関わりたくないが、今はそうも言ってられない。僕は意を決した。


大城おおきさんで。僕のツエルトをお貸します」


 大城おおきさんは意外そうな顔をした。


「よし、お前らは本館に行って装備を整えてこい。その間俺たちは先行して捜索を開始する。おい裕樹ひろき大城おおき、あいつが行きそうな場所をどこか知らないか」


 僕は泉を思い出し嫌な気分になった。もうこの一件は思い出したくない。


「ここの西の木戸から出て西に向かうと小さな湿地があります。俺とあいつのお気に入りの場所です」


 大城おおきさんに泉のことを言われるとますます嫌な気分になる。本当に二人がうらめしい。だがうらめしいと思う一方で、この空さんに死んでいて欲しくないという強い思いや焦りはなんだ。


「北に岩手山がよく見える丘があります。そこも空さんのお気に入りでよくスケッチをしていました。そのそばの製材所跡地も」


 僕は内心の動揺や焦りやうらめしさを隠して極めて事務的に話すことができた。


「わかった、俺が泉、ゴウが丘、小坂部おさかべは製材所跡地を探してみろ」


 ムネさんがそう言うと、ムネさんとゴウさんと小坂部おさかべさんがそれぞれ馬着ばちゃくを着せた馬にまたがって走り去っていく。僕はいったん本館の自室に戻り大学時代愛用のザックを引っ張り出し、それにありったけのタオルと寝袋を詰め込む。



【次回】

第65話 装備を整える2人と乾

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