第48話 空の嫉妬

 すると練習場近くの丘の上に体育座りでスケッチをしている空さんの姿を見つける。僕は空さんの背後から駆け寄った。


「よかった、空さんっ。どこに行ったのかとっ……」


 息を切らす僕を気にもとめず、空さんは丘から見える低い丘陵を見つめているようだった。空さんは無言でスケッチブックは真っ白だった。


 僕は空さんの隣に座る。どこか機嫌が悪そうだ。そんな気配を感じる。すごく感じる。


「さっきは気が付かなくてすいませんでした」


「……」


「あの、いつからここに?」


「……」


「ええと、もしかして僕何かしちゃいましたか……」


「……何もしてない」


「そっか、それならよかったです」


「何もしてないから……よくない」


「えっ」


「あっ…… えっと、違うの」


 はっとした表情になって空さんがこっちを見る。


「なにがですか?」


「ごめんなさい……」


 空さんはまた正面を向いて俯く。


「ええっ?」


 僕はなぜ空さんが謝るのか理解できなかった。


「こんなに、なるの、ほんとはいけないこと、なのにっ……」


 息が詰まったようにして切れ切れに言葉を吐く空さん。


「え? こんな、って?」


「……原沢さんとお話してるひろ君とっても楽しそう。彼女、私よりずっと若くてきれいで颯爽としていて明るくて仕事もできて…… 私と全然違うから」


 しまった! これは僕の失態なのか? 空さんに自己否定の念を植え付けてしまったのか? これはなんとかしないと。僕はあわてる。


「……空さん、原沢のばかのことなんて気にしないで下さい。あいつはあいつ。空さんは空さんです。空さんは空さんのままでいて下さい。それが一番です。原沢がどんなやつだろうと僕は空さんのことが――」


 僕はここまで言って息をのんだ。なんてこった! 僕は今何を言おうとしたんだ?



【次回】

第49話 空の変化

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