第46話 原沢の生い立ち

 僕たちはふたを戻し、車から降りる。原沢は走って工具を片付けてくると、ゴザを捨てに行く僕にくっついてきた。ゴミ捨て場まで雑談をしながら歩く。


「しかし原沢があんなに車に詳しいとは思わなかったよ。びっくりした」


「実はうちの実家自動車整備工場で」


「それで慣れてるのか」


「あたし、女のくせしてって言っちゃなんですけど、車いじりが大っ好きで中学の時はうちの車いじったり、ちょこっとだけど家業手伝ったりしてたんす。あたしは四人姉妹の次女だけど、実家の仕事と一番相性が良かったから結構期待もされてたんすよねえ。親父はマジであたしを跡継ぎにしたかったみたいす」


「じゃどうしてここに」


「まあ、反抗期っすかねえ……」


 原沢は苦笑いを浮かべて頭をかいた。


「オヤジみたいにはなりたくない。あんな油と金属かすにまみれたまま一生を終えるなんてごめんだってね…… まあ落ち着いて考えりゃ自動車整備工場に女社長だなんて、なろうったってそうはなれるもんじゃないっすしね…… ガチで大変っすよマジで」


「それで農業高校」


「はい。数字が苦手だったんで商業もやだったし、工業じゃオヤジの二の舞だし、普通科って柄でもなかったすから。近所にいい農業高校があったんで」


「よく許してもらえたなあ」


「いやもうまいんち取っ組み合い寸前だったすよ、ほんと。親父にはガチで殴られるとこでしたね。まあ殴ってきたら倍殴り返すつもりだったんすけど」


「ははっ、勇ましいな。原沢らしいや。しかしなんでこんな辺境の地に?」


「親父、まだ納得いってないみたいなんすよ。だから実家からなるべく遠いところに離れて暮らしたかったんす」


 ああ、僕と同じだ。あの日以来両親が僕を見る目が変わった。


 それは冷たくて鋭くて僕を無言で責め立てるようで…… その視線から少しでも遠くへ逃げるために僕はここまで来たんだ。それでも今でも夢の中まで追いかけてきて僕をその視線で突き刺す。


 フラッシュバックを起こしそうな予感がしたので話題を逸らした。


「で、結局今度は干草と馬糞にまみれた毎日ってわけだ」


「ほんと、こんなはずじゃなかったんすけどねえ」


 二人で大笑いをした。



【次回】

第47話 積極果敢な原沢

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