第45話 原沢の特技

「いやいやこんなの基本中の基本っすよ。しかし、うーん……」


「なんだ、どうした」


「なあんか変な音がすんだよねえ…… ね、おじいちゃん、これ乗っててやな音とかしない?」


「やあ、俺あもう歳で耳遠いから判んねあ」


「うんわかった、じゃついでだから見てみるよ」


 原沢はまた若々しい軽快さで倉庫まで走り、工具箱を持つとまた軽やかに走って帰ってくる。


「ちょっとエンジンみしてねっ」


 と言うがはやいか原沢は軽トラの荷台に上がってふたを外す。僕はそれに続いて軽トラの荷台に上がる。


 空さんも荷台に上がろうと必死になっているが上がれない。僕たちはそれに全く気付いていなかった。


「へえ、軽トラってこんなとこにエンジンあんのか」


「なんだそんな事も知らなかったんすか? 勉強になるっすねえ。ぷぷっ」


「ばかにすんなっ」


 原沢はエンジンルームをしげしげと観察していたが、慣れた手つきで工具を操って点火プラグを取り出し見つめる。僕も原沢にくっつくくらい隣で点火プラグをよく観察してみるが、どこに異常があるのか見当もつかない。


 その時空さんは荷台に上がろうと一人必死になっていたが、僕たちの誰もがそれに気づくことはなかった。


 原沢がしげしげとプラグを見つめながら、車外の伊田さんにも聞こえるよう大声を上げる。


「あー、これもうだいぶ古いじゃん。ねえおじいちゃん、このプラグ何キロ走ってるのー?」


「さあー、九千キロかなあ、忘れたわあ」


 原沢は苦笑する。


「忘れたって…… じゃあこれはもう交換かな。あと他にはっと…… ベルトも少しゆるそう…… うん、エンジンオイルもぎりヤバい。これはもう車検前に一度まとめて診てもらった方がいいかもなあ」


 空さんはまだ必死になって荷台に上がろうともがいていたが、誰もそれに気付くことはない。


「こいつあもうだめそうかい?」


 伊田さんが心細そうに言うと原沢は明るい笑顔で答える。


「誰もそんなこと言ってないって。直すとこ直したらまたちゃんと走るようになるから大丈夫だよ」


「いやあいがったあ」


 原沢の明るい声に伊田さんは安心した表情を見せる。伊田さんは360ccまでの車しか乗れないのだ。限定解除も歳だから自信がないと言って受けていない。


「この車も伊田さんと同じでもうおじいちゃんだからな。まめにいたわってやらないとだめだな」


 僕が言うと僕のすぐ隣の原沢も笑って答える。


「ほんとそうっすね。たまにあたしが見てあげるねっ、おじいちゃん」




【次回】

第46話 原沢の生い立ち

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