第43話 激発する原沢

「原沢すまん、ありがとう」


 僕の言葉に原沢はこちらを向き冷たい目で言い放つ。


「センパイだってこいつの指導担当兼身元引受人兼保護者兼ストーカー自任してるんだったら予備の紐切りくらい用意しとくもんっしょ? 違います? でなきゃこいつの忘れ物癖治してやって下さいよ」


 原沢の言うとおりだ。少々の嫌味には反論できないほど僕はぐうの音も出なかった。


「……原沢の言うとおりだ、僕にも至らないところが多々あった。すまん」


「もういいっす」


 作業しながら吐き捨てる原沢。


「よくない」


 突然聞こえた空さんの硬い声に僕も原沢も同時に「え?」と声をあげた。


「よくないって、何が?」


 仏頂面ぶっちょうづらの原沢。それに空さんが噛みつく。


「これは私の問題です。この人は関係ありません。責めないで下さい」


 空さんは真剣な顔で原沢をにらむ。


「は?」


 原沢はあからさまに呆れ果てた一言を発してから大きな溜息を吐くと、大声で空さんに返す。


「だから! 今正にそのあんたの問題でセンパイは無駄に責められてんの! 全然判ってない! そうゆうのは忘れもん無くしてから言って! そうすればセンパイも責められずに済むでしょうが! センパイが責められるのがそんなにやなら、あんたがもっとちゃんとすればいいだけじゃん! 人に口ごたえする前にあんたの身のしょし方振り返った方がいいんじゃないっすかねえ!」


 空さんは絶句する。


「おいっ原沢おまえっ!」


「ふんっ、あたし間違ったこと言ってないっすからねっ」


 吐き捨てると原沢は自分の持ち場に戻った。僕はショックを受けた表情の空さんの肩を叩いて励ます。


「気にしないで下さいね。あいつちょっと気が立ってたみたいで…… 僕の方からも落ち着いた時に言っておきます」


「……うん、大丈夫。もういいの」


 少し青ざめた顔でうつむき、言葉少なに答える空さん。このあと僕たちは他のスタッフも含めてどこか気まずい雰囲気のまま作業を続けた。



【次回】

第44話 原沢と車

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