第23話 空の願い・裕樹の決意

「さ、行きましょう。みんな待ってるでしょうから」


「ええ……」


 笑っているのか泣いているのかそれとも単なる無表情なのか判らない顔で空さんは涙を拭い僕を見上げた。


「ひろ君」


「はい」


 空さんは僕から眼をそらさないで言った。


「それでもやっぱり私今度は失敗しないから。もう邪魔しないで」


 僕は空さんの挑戦に対し毅然とした表情で相対した。


「では僕は何度でも邪魔します。空さんが諦めるまで。空さんの心の傷が癒えるまで」


「癒えることはないの。永久にないの。癒えてはならないの……」


 湿った生暖かい風に吹かれながら呟く空さんの横顔に魅入られながらも僕は絞り出すように言った。


「癒えない傷なんてありません」


 嘘だ。そんなことは決してない。空さんの言うとおりだ。癒えない傷、そして癒えてはならない傷は確かにある。それは僕の中にも。


「嘘よ。嘘を吐いてる顔をしてる」


「本当です。僕はそれを空さんで証明してみせます」


 そうだ、僕のような深い罪と傷を負った人なんてそうそうはいるものか。空さんだってきっと。だが。


「死んだら人はそれでおしまいです。灰になってもう何も残らない。こう言っては何ですがある意味それで楽になるのかも知れません。だけど…… だけど残された人はどうなります。その人の死を背負って死よりも苦しい道のりを歩いていくことだってあるんです。空さんはそういった残された人のことを考えたことはありますか? どうなんですか?」


 まるで僕のように。


 空さんは何かに驚いたような表情を浮かべ、そして俯いた。


「私だって……」


 そして空さんは僕をきっとにらむ。


「何も知らないくせに」


 突然きびすを返して作業場へとかけていく空さん。僕はそれを追う。

 2人で作業場に行くと、既に作業場には全員集まり結束されていた大量の敷きわらをみんなでバラしている。僕たちもその中に雑じって作業を行った。空さんは無表情で終始無言だったが、僕は空さんに目を配って他のスタッフと雑談しながら、時には空さんにも声をかける。無言だった者は空さんの他にも1人いた。原沢だけは1人黙りこくっていつまでも深刻な顔をして作業をしていた。



⚠️

 拙作は自死自傷を推奨・称揚する意図をもって書かれたものではありません。自死自傷はご自身はもちろんのこと周りの人々をも深く傷つける行為です。くれぐれもそのような選択をなさらないことを切に祈ります。


 自死自傷の念に苛まれたり生き辛さを感じた時はためらうことなく精神神経科・心療内科を受診なさるかカウンセラーにかかるなど、速やかにご自身の心を守る行動を取って下さい。また、下記の団体などでもこうした悩みや苦しみを持つ方のご相談を受け付けております。苦悩は一人で抱え込まず誰かに吐き出すだけでも解決の糸口になり得ます。小さなことでも人に頼ることをどうか恐れないで下さい。


●厚生労働省「まもろうよこころ」

 https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/soudan/tel/


●電話の相談窓口

・「こころの健康相談統一ダイヤル」

 (18:30~22:30[22:00まで受付])

 0570-064-556


・「#いのちSOS」

 (日月火金土00:00~24:00、水木6:00~24:00

 ※木6:00~火24:00までは連続対応)

 0120-061-338


・「全国いのちの電話連盟ナビダイヤル」

 (10:00~22:00)

 0570-783-556


・「全国いのちの電話連盟フリーダイヤル」

 (16:00~21:00/毎月10日08:00~翌08:00)

 0120-783-556


・「よりそいホットライン」

 (24h)

 0120-783-556

 岩手県・宮城県・福島県から

 0120-279-226


●LINE

・「こころのほっとチャット」友だち追加(Facebookでも受け付け)


・「生きづらびっと」友だち追加


●インターネット

・「いのちの電話連盟インターネット相談」

https://netsoudan.inochinodenwa.org/


●18歳以下

・「チャイルドライン」0120-99-7777



【次回】

第24話 シエロの栄光





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