第17話 なによあの雄ッパイ! 巨乳過ぎるでしょ!? (だから言ったじゃん……
九朗達が教室に着いた途端、クラスメイトが一斉にこちらを向いた。
明星に恋人宣言されてから毎日の事ではあるのだが、今日はちょっと様子が違う。
多くの生徒が意地悪なニヤニヤ笑いを浮かべ、そうでない生徒もどこか同情するような困り顔を浮かべている。
九朗の経験上、こんな風になるのはクラスの上位カーストが底辺カーストに嫌がらせをするようみんなにお触れを出した合図だった。
つまり、拓海達がなにか仕掛けてきたのだろう。
「来やがったな」
案の定、拓海達が挑発的な笑みを向けて来る。
「……あんたらねぇ。なんかよくない事企んでるでしょ!」
明星も負けじと睨み返すが、九朗はまるで相手にしなかった。
完全に相手を無視した態度で。
「……行こう。日野さん」
「オタク君!?」
「……相手にしても嫌な気持ちになるだけだから」
「だからって引き下がっちゃ駄目じゃん!? どういうつもりか知らないけど、あいつ等絶対なにか仕掛けて来るつもりだよ!」
「……それは分かってるけど」
この場で騒いだところでなにがどうなるとも思えない。
教室の雰囲気から言ってもクラスメイトの大半は拓海達の味方だ。
歯向かった所でバカにされるのがオチである。
「はっ! 情けねぇ! こいつビビってるぜ! 怖いのは見た目だけで中身はただのヘタレじゃねぇか!」
「髪切っただけで中身まで変わるわけないんだから当然よね! だから言ったでしょ! こんな奴、怖がる事なんかないのよ!」
周りの生徒にアピールするように二人が言う。
それを聞いて、何人かの生徒がホッとしたような様子を見せた。
拓海達に乗っかって九朗をバカにしていた生徒である。
彼らからすれば、もし九朗が見た目通りの怖い奴なら今までの復讐をされるのでは、と気が気ではないのだろう。
「ほらぁ! 舐められてる! オタク君の言いたい事も分かるけど、こういう奴らにはガツンと言ってやらなきゃ分かんないよ!」
「……日野さんがそう言うなら」
正直、舐めるとか舐められるとかそういう世界観自体バカらしいと思うのだが。
今回は明星を巻き込んでしまっているので我慢するだけでは駄目だとも思う。
それで九朗は面倒くさそうに溜息を吐き、拓海達を睨みつけた。
「……言ったはずだぞ。俺達に関わるなと」
「ひぃっ!?」
獣が唸るような低い声に拓海は怯えた。
クラスメイトのニヤニヤ笑いも消し飛んで、バラバラに視線が逃げ惑う。
「ちょっと! なにビビってんのよ! あんなのただの見掛け倒しに決まってるでしょ!」
クラスメイトに向かって言うと、真宵は拓海の脇に肘鉄を入れる。
「拓海も! しっかりしなさいよ!」
「わ、わかってるよ!」
気を取り直すと、拓海がビシッと九朗に指を向ける。
「真宵の言う通り、お前なんかただの見掛け倒しだ! 知ってるか? 今日は体力測定があるんだぜ! それでお前が見た目だけのへなちょこ野郎だって分れば、誰もお前を怖がったりなんかしなくなるぜ! ざまぁ見やがれ! バーカバーカ!」
勝ち誇る拓海に、二人の口がポカンと開いた。
「……えーっと。もしかして、あんたらの企みってそれだけ?」
「……そ、そうだけど」
明星の反応に、不安そうに拓海が返す。
迷いは完全に勝ち誇って。
「はっ! あんたブゥァアアアカ? 必死こいてイメチェンしたご自慢の彼氏(笑)の化けの皮が剥がれるのよ? いくら見た目が良くたって運動音痴じゃダサダサじゃない! そんな男と得意気に付き合ってるあんたもダサダサ! 見る目なしよ! あんたの株も大暴落して人気だってなくなるんだから! ざまぁ見なさい!」
「あんたねぇ……」
必死過ぎる真宵に呆れると、不意に明星は不敵に笑った。
「じゃあ、罰ゲームでも付けてみる?」
「へ?」
「だってそこまで言うんだから体力測定でオタク君に負けるわけないじゃん? もし負けたら、罰ゲームくらい当然でしょ?」
「日野さん!」
九朗は止めようとした。
自分はただ、日課にちょっとフィットネスゲームを遊んでいるだけのただのオタクだ。
運動部に入っているわけでもないし、そこまでいい成績を出せるとは思えない。
「オタク君は黙ってて!」
「……わかった」
明星にそう言われたら黙るしかない。
それで九朗も腹を括った。
明星は昨日、九朗を信じると言った。
まだ付き合いも浅く、信じられるような要素だって何もないのに。
学校での自分の地位をオールインして九朗に賭けようとしている。
ならば九朗も明星を信じなければ不義理だろう。
「……あんがと。勝手な事言ってごめんね」
申し訳なさそうに明星は言うと。
「で、どうすんの? まさかあそこまで言って逃げたりなんかしないよね?」
「あ、当たり前じゃない!」
「じゃあ決定で。渋谷君とオタク君が勝負して、負けた方のチームが罰ゲームね」
「お、俺!?」
ギョッとして拓海が自分を指さす。
真宵はすかさず。
「あんた以外に誰がいるのよ!」
「そ、そうだけど……」
(ここだっ!)
「……俺に負けるのが怖いのなら逃げてもいいんだぞ」
明星ばかり矢面に立たせるわけにはいかない。
そう思って九朗は先程から口を挟むタイミングを伺っていた。
挑発的な言葉にクラスメイト達が面白い事になったとヒューヒュー騒ぎ出す。
プライドを傷つけられたのだろう。
拓海は真っ赤になって怒りだした。
「てめぇ……オタク野郎の分際で誰に口利いてんだ!」
「……さぁな。悪いが、お前の名前は覚えてない。秋葉だったか?」
九朗のボケに明星含め、数名の生徒が吹き出す。
「渋谷だよ! 渋谷拓海だ!? 秋葉が似合うのはお前の方だろうが!」
「やめてくれ。俺程度のオタクが秋葉を名乗るなんて恐れ多い」
九朗は真面目に言っているのだが、笑い声は増えるばかりだ。
「こ、の、や、るぉおおおおお! ぜってぇ負かす! メッタメタのギッタギタに負かしてギャフンと言わせてやる! 決めたぜ! オタク野郎! お前が負けたら土下座で詫びろ! 俺の靴を舐めて二度と逆らいませんと誓え!」
「別にいいが。お前が負けたら同じ事をさせるぞ」
「上等だ! 元野球部のこの俺が帰宅部のクソオタ野郎に負けるはずないんだよ!」
「そういう事~。てわけで明星ぃ? あんたも負けたら土下座であたしの靴ベロベロ舐めて服従を誓って貰うから、そのつもりで~」
「え~と……。もうちょっとマイルドな罰ゲームにしといた方がいいんじゃないかと……」
「あはははは! ダッサ~! 早速怖気づいちゃったわけぇ~? ダメダメ! 今更変更とかあり得ないから!」
「いや……。あんたの為に言ってるんだけど……。まぁ、いっか」
そんなこんなで話が決まり、次の時間、早速一行は体育館に集まった。
「はっ! 見ろよみんな! オタクの奴、ひ弱なのがバレるからって長袖着てるぜ!」
「キャハハハ! 男の癖にダッサ~イ!」
九朗を指さして拓海達が笑う。
それを真似るようにして、拓海派のクラスメイト達も笑い出した。
「オタク君さぁ……。だから言ったじゃん! こういう時は半袖の方が絶対いいって!」
「だって寒いし……。わ、わかったよ! 脱げばいんだろ!」
明星に睨まれ、渋々九朗はジャージの上を脱いだ。
「「「……えっ」」」
広い体育館が驚きの声で満たされる。
「オタク君マッチョスギィッ!?」
「う、嘘だろおい!?」
「なによあの雄ッパイ! 巨乳過ぎるでしょ!?」
「肩にちっちゃいラクダ飼ってんのかい!」
「やべーよ! チラっと見えた腹筋割れてたぞ!」
「あんなオタクが居てたまるか!?」
どよめきながら凝視するクラスメイトに、九朗はポッと赤くなって身体を隠した。
「……そんなにジロジロ見ないでくれ。男でも、流石にちょっと恥ずかしい……」
「「「キャーッ!」」」
強面イケメンの照れ顔に、思わずクラスの女子も数名程、赤くなって黄色い悲鳴をあげる。
対照的に拓海達は青い顔だ。
それを見て、明星はやれやれと呟いた。
「だから言ったじゃん……」
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