第15話 オタクの弱点を狙うのよ!(←これ、フラグです
「あぁ忌々しい恨めしい! 一体全体なんなのよあいつ等は!」
期間限定のスイーツを片手に真宵の台パンが炸裂する。
放課後二人は近所のマックで作戦会議を開いていた。
「落ち着けよ真宵……。他のお客さんが見てるから……」
周りの顔色を伺ってオドオドするのは拓海である。
「だからなに! 罰ゲームにかこつけて明星をオタクとくっつけて人気下げてやるつもりだったのに! あの偽善女全然嫌がらない上にオタクをイケメンにして戻ってきたのよ! これが落ち着いていられますかっての!?」
乱れ飛ぶ台パンの連打。
迷惑そうな客の視線と責めるような真宵の表情に拓海は焦るばかりである。
「そ、そうだけどさぁ……」
明星が九朗と付き合う事になったのも、元を正せば真宵の計略だった。
スター性のある明星をグループに引き込み、悠々自適のトップカースト生活を目論んでいた二人である。
ところが明星は全然言う事を聞かず、事あるごとに楯突いてくる。
高校生になって間もない大事な時期だ。
クラスのトップカーストの地位を確立するには冴えない連中に圧をかけ、自分達に逆らったらどうなるかを周囲に分からせなければいけない。
それなのに明星は一々つっかかって冴えない連中を庇うから、真宵たちとしては大迷惑である。
なんなら二人が嫌がらせをする度に明星が相手をフォローするから、明星の評価ばかり爆上がりしている状態である。
もしやこの女、あたし達を逆に利用して自分の地位を上げようとしているのでは? 絶対そうだ! 許すまじ!
そんな風に思い込んだ真宵は拓海と結託し、罰ゲーム付きの大富豪で明星をハメたのだ。
流石の明星もヤバい噂てんこ盛りのキモ怖い前髪オバケなクソ陰キャオタクと恋人ごっこをするのはイヤだろう。
ケケケ! これで偽善女の化けの皮を剥いでやる!
ざまぁみそ漬け沢庵ポリポリよ!
な~んて思っていたらよもやよもや、明星の奴「面白そうじゃん!」と平気な顔で言うのである。
はぁ? こいつ頭脳がマヌケか?
まぁいいわよ。
いくら明星でも相手が陰キャオタクじゃどうあがいても株が下がるし。
隙を見てマウント取ってクラスの人気者の地位から落っことしてやる!
そしてあたしがこのクラスの頂点に立つんだから!
これはもう完全に勝ったわね!
がはは!
……それなのに。
なんと明星は陰キャオタクに
しかもそれがとんでもないイケメンなのだ。
いやマジで、お前誰だよ!? レベルで別人である。
陰キャオタクの癖に前髪切ったらイケメンでしたとか現実であるぅ?
これじゃあ折角の作戦が台無しじゃないのよさ!
大体あの女、どうやって
まぁ、どうせエロい手を使ったに決まっている。
だってあの顔と身体と
表でどれだけ偽善ぶっても、性根は絶対腹黒ビッチに決まっている。
ていうかそうじゃなかったら世の中不公平だ!
見た目が良くて性格もいいなんて、そんな女いるはずがない!
ともあれ、オタクの顏が怖いのは幸いだった。
イケメンである事は間違いないが、それと同じくらい悪人顔である。
人を殺す事なんか屁とも思わない人間の顏だ。
多分殺し屋の一族かなにかで、放課後は金の為に善良な一般市民を個人的な趣味で残酷に嬲り殺しているに違いない。
まぁ、流石にそれは冗談だが、そんな雰囲気の面である。
だからまだ勝機はある。
あの顔のお陰で噂に信憑性が出る。
イケメン要素と合わせれば、顔に釣られて下衆野郎に股を開いたクソビッチの完成だ!
よ~し! 今度はこのネタでいびり殺してやる!
流石あたし、天才ね!
悪くない作戦だと思ったのだが、やはり明星はへこたれない。
それどころか平気な顔で教室のド真ん中に陣取って、オタク野郎とイチャコラしだしたではないか!
ビッチの癖に! このあたしを差し置いてイケメンと乳繰り合うなんて!
ここだけの話、真宵は高校デビューを果たした口だ。
中学の頃はトップカーストのご機嫌を伺う冴えない二軍女子の下っ端だった。
それで散々苦汁をなめて、世の中は弱肉強食だと悟ったのである。
高校生になったらどんな手を使ってでもトップカーストに食い込んで美味しい目を見てやる。
それ以外に、楽しい学校生活を送る方法なんかない。
一軍以外は負け犬で、トップカーストの顔色を伺いながら怯えて暮らすしかないのである!
だから真宵は焦っている。
明星は手ごわい相手だ。
クラスメイトもそれは分かっていて、どっちが勝つか抜け目なく観察している。
オタク野郎がそのままなら良い感じに足を引っ張ってくれたのだろうが、あれだけイケメンになってしまうと厄介だ。
諸々を加味しても、まだまだ油断できない状況だ。
実際昼休みは危なかった。
二人がアンパンマンの話題で盛り上がった時なんか、瞬間的にだが向こうの方が優位な空気になっていた。
周りも巻き込んで、な~んか楽しそうな雰囲気になってしまったのである。
悔しいが、明星は天性のムードメーカーだ。
愛され女子という奴である。
なんだよそれ! チートだろ!
こっちは死ぬほど盛ってやっとこの程度の凡人だぞ!
マジでそういう所が大嫌いだ。
明星も完全に開き直った様子だし、先手を打って行動しなければ逆転される。
そうなったらトップカーストどころか最底辺に降格し、三年間惨めな思いをする羽目になる。
そんなのはずぇええええええったいに嫌だ!
(そうよ! なにがなんでもトップカーストにしがみつき、イケてるイケメン彼氏を作ってラブコメも真っ青になる虹色の青春を送るんだから!)
それなのに、肝心の相棒がこの体たらくでは心許ない。
「大体ねぇ! 拓海がそんなんだから舐められるんでしょ! なによ! ちょっとオタクに睨まれたくらいでビビっちゃって! 男の癖に恥ずかしくないの!」
「うぐっ!? そ、そんな事言われても真宵だって知ってるだろ!? 見た目はそれっぽくしてるけどぶっちゃけ俺はビビりのキョロ充タイプなんだぞ!」
「悲しい程に知ってるわよ。
「いいわけないだろ!」
「じゃあ頑張って」
「頑張るって言われても、どうすればいいんだよ……」
「こういう時は相手の弱点を狙うのよ」
「弱点って、心臓とかか?」
「そうそう、不意打ちで後ろからグサリと……ってバカァ!」
渾身の台パンで突っ込みつつ。
「あいつ等の弱点と言ったらオタクに決まってるでしょ! 髪を切ってイケメンになっても所詮オタクはオタクよ! 付け入る隙なんか幾らでもあるでしょうが! 世間的には明星はオタクと付き合ってるって事になってるんだから! オタクの株を落とせば明星の株も一緒に落ちるのよ!」
「確かに……」
なるほどと拓海は頷き。
「……オタクの弱点と言えば、やっぱ運動とかか?」
「まぁ、そうなるわよね。拓海はどうなの?」
「一応これでも元野球部だ。体力には自信があるぜ!」
グッと拓海が親指を立てる。
不良の巣窟みたいな酷い部で、ほとんどパシリみたいな扱いだった。
だから高校では部活に入らなかったのだが……。
一応中学時代は真面目に練習をしていたし、多少ブランクはあるがオタクに負ける事はないだろう。
「そういえばそうだったわね」
思い出して真宵がニヤリと笑う。
「おあつらえ向きに明日体力測定があるわ」
「じゃあ、そこでオタク野郎に恥を掻かせてやれば!」
「な~んだ! イケメンでも結局オタクはオタクじゃない! って事になって、明星の株も急暴落」
「俺達の地位も安泰に?」
「えぇ。夢にまでみた虹色の青春は約束されたも同然よ!」
二人は勝利を確信した。
†
「く~ちゃん。明日体力測定なんでしょ? その辺にしておいたら?」
「は~い」
夕飯の支度をしていた母親がキッチン越しに話しかける。
その時九朗はリビングに敷いたヨガマットの上でリングマッスルアドベンチャー3の高難易度DLCをプレイしていた。
最高負荷もなんのその、負荷の高い高威力技を連発してボスを倒す。
ヴィクトリーポーズを華麗に決めると、ゲーム機を片付けてシャワーを浴びに風呂場へ向かう。
後ろ姿をうっとり眺め、母親がポツリと呟いた。
「……我が子ながら良い身体してるわねぇ。惚れ惚れしちゃう」
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