第3話酷評の中から生まれ、活躍する艦艇

計画からそれほど遅れずに建造しつつある赤城と加賀。

だが、海軍側とて言いたい事もある。

駆逐艦に追撃されている場合、20cm砲弾なら至近弾の水中爆発でも駆逐艦に

損傷を与える事ができるし、浸水だってさせられるかもしれない。

だから20cm砲を搭載したのだ。

自衛用にしても配置が悪いのは事実だが。


まぁ、赤城と加賀に関してはマイナス点が多すぎるのは事実だ。

それを具体的に指摘されたのはかなり痛い。

今回は駆逐艦について話したいと言われたがなにが出てくるのか恐ろしいな。



今回、陸軍側は前方斜め上からと

後方斜め上側から見た海軍の駆逐艦達の

彩色絵を用意してきた。


くそっ!

用意万端というわけか!

そこには海軍の駆逐艦達が勢揃いしている。

えっ!

テーブルに乗せた物だけではない。

政府側、官僚達、宮様方の方にまで彩色絵を配っていやがる!


海軍側の顔色は悪い。

陸軍側は本気だ、、、


『さて、よろしいですかな?

これらの絵をご覧になってください。』

と石原が話し始める。


『我々としても国防の観点から海軍には

【間違った駆逐艦】を建造してほしくないと考えているのですよ。』


海軍側は静かだ。


自信ありげに話を始めた石原に呑まれている、、、

これまでの議論での敗北の歴史、、、

敗北が続いたからか、『間違った駆逐艦とは何事か!』と怒鳴る人間も居ない、、、


36cm連装砲塔を六砲塔搭載した戦艦案を提示した時は叩きのめされ廃案になってしまった。(史実の伊勢級、扶桑級の4隻)苦い経験が蘇ってくる。


『陸軍としては海軍には大戦争(先の世界大戦)の教訓を軽視してもらいたく無いのですよ。』

と石原。


『陸軍としては進歩している航空機に対抗する為の高角砲の搭載。対空機銃の増設。更に、潜水艦に対抗するための装備の開発や爆雷の搭載数の増加を駆逐艦に

求めたいと思っています。』

と石原は言葉を続ける。


やられた!

と海軍側は衝撃を受けた。


海軍の中にも敵艦との戦いや夜間戦闘に

特化しすぎて、魚雷の搭載数は多いが、

機銃が全然搭載されておらず、爆雷の数も少ない駆逐艦に対する不満の声が上がっている。

次世代の駆逐艦の建造計画を策定している今だからこその【間違った駆逐艦】

呼ばわりというわけか、、、


間違いない。

このままだと魚雷屋の声ばかりが反映されて、魚雷が多く搭載される一方で、

高角砲は一門も搭載されず、機銃の数が少ない駆逐艦が次の駆逐艦になりそうだと危惧している海軍内部の連中の誰かが陸軍という外圧を利用して高角砲の搭載と機銃の増設を実現しようとしている、、、


魚雷屋のバカ共の中には魚雷の搭載数を望むあまり、3連装魚雷発射管を3機

搭載しようとか、四連装を3機だとか

言っている連中がいる、、、


なるほどな。

これは良い機会かもしれん。

アメリカやイギリスでも空母が建造されつつある今だからこそ、今、計画している駆逐艦は対空火力を充実させ、

機銃も増やさなければいけないかも

しれん。


『よろしいですかな。』

米内さんが手を上げた。


『確かに石原さんの言う通りですな。』


『海軍としましても次に計画される駆逐艦は対空火力を増やしたいと思っております。』


『機銃は増やすつもりですし、高角砲の

搭載も検討いたします。』


『私としましても軽量な20mmクラスの機銃を、空いた場所に増設できればと思っていました。』

と米内さんは発言する。


なるほど。ここで決まったからと言って

魚雷屋の反論を封じるつもりか。


援護射撃をするか。

陸軍に押されてばかりではいられない。


『単装砲を搭載している駆逐艦や

軽巡の単装砲を単装高角砲に変更し、

対空照準装置を搭載するのも検討いたします。』


『手持ち機銃の増設なら簡単な工事で可能ですので手持ち機銃の増設も検討します。』


米内、山本の名コンビの息もぴったりだ。

なんとか乗り切りたい。

海軍側に希望が出てきた。

皆の顔色が明るくなる。



ただ、次世代の駆逐艦は大柄になって

しまうだろうな。

航続距離も伸ばしたいし悪い話では

ないのだか。

検討されていた計画案よりも大きくなりそうだ。

その分、隻数を減らされるのだけは

なんとしても回避したいが、、、


軽巡の14cm砲でも重たいから発射速度を上げるのは困難という話が上がって来ている、、、

12.8cm高角砲にして装填速度を上げる

べく改良したいものだ。



こうして今回は色々と言われつつも

なんとか乗り切る事に成功した。


だが雷装を減らされた魚雷屋は、

高い雷撃能力は持っているものの

対空火力に欠けている、『重雷装軽巡

改装計画案』を出して来たり、暗躍する事になる。


中にはアメリカのように魚雷艇を量産しようとする計画もあるのだった。


『重雷装軽巡洋艦計画』は旧式化しつつある軽巡の再利用とも言うべき案だが、

陸軍側から全否定され袋叩きにされる。


機銃の1発、航空機の機銃攻撃の1つで

魚雷が誘爆して沈没しかねないのだから

廃案は当然だろう。


海軍内でも反対は多かった。


そして旧式軽巡洋艦達は大量に機銃を増設されて、雷装を外されて防空巡洋艦と

して大活躍する事になる。

まさか空母の直衛艦として配置された

彼らがあれほど活躍するとはな。


副砲が撤去され機銃が増設された金剛級と共に旧式軽巡の意外な再利用案は

高く評価されるのだった。



ちなみに、魚雷艇は夜間戦闘や対潜水艦戦闘に活躍する事になる。

米軍の魚雷艇に比べると速度も遅く、

魚雷も2発しか搭載できず、対空機銃も

20mm機銃を2丁程度だが、簡単な構造で大量生産できたからだ。


落水者やパイロットの救助にも大活躍してくれるのだった。

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