第36話「シらマナ【2】魚何処何所と夏をゆき」

 住宅街のそばを流れる川は途中で整備を放棄したような印象を受けた。

 護岸のためのコンクリートにはヒビが入り、そこから雑草がたくましく伸びる。笹薮が生いしげる土手側はずっと手つかず。

 名もわからぬ木々の生い茂る林が日射を遮る。やわらいだ夏の日差しを受けながら歩みを進めるたび、土手の上の畑に立つ老人が見え隠れして、やがて視界から消える。


「討代に何かイヤなことはされていないか?」

 イチトは尋問を思わせる堅い雰囲気で尋ねる。だが彩華は首を大きく横に振った。それを見届けたイチトは「残念だ」と小さく呟く。

「まどーさんよぉ、そっちのセンで俺様を捕まえようとすんなよナァ~」

 ふたりの数歩後ろをいく討代が、許可証だらけの刀の鞘で自らの肩をポンポン叩いた。もう片方の手には魚とり網だ。後ろを着いていくシガヤは黙ってやりとりを観察している。


 川辺の砂利道を進むのは奇妙な4人組。

 シガヤは映画のワンシーンを思い浮かべていた。あれは少年たちが線路づたいに「死体探し」に出かける冒険譚だ。


「アヤカおじょうさん、覚えておきなァ。別件逮捕ってテクでさ、このサツは俺様の刀が欲しいから別でしょっぴける理由を探してんだ」

 討代の卑しい声が響く。この男はシガヤがこれまでの人生で遠巻きにしてきた分野の人間である。

「それならりんごおじちゃん、悪いこといっぱいしてるよ?」

「アヤカのさっきのだって暴行罪だるぁ!?」

 巻き舌気味に喚く討代。さきほど膝裏に蹴りを入れられたことは水に流していないようだ。


 シガヤは討代に注視したまま。魚とり網を持ちながら果敢に中指を立てる下品な態度、どこのブランドかも分からぬジャージに古びたスニーカー。ヤクザだと前置きされなければ、ただの粗暴な若者に見えていただろうか……ハバキをとりわけ凶暴にした男、という印象だ。


「どこがオレに似てんだかね」

 不機嫌そうに呟いてから、すぐにイチトの言葉を思い出し笑う。

「……『爪の一片』って、高く見積もりすぎっしょ」

 浮かべた笑みが、討代に似た卑しいものに近づかないよう口元を抑えた。


「自由研究ってよ、ホントはこの刀が本命だろ、な?」

 観察されているとも知らず、討代はしつこくイチトに絡んでいる。

「自惚れるな」

 イチトは冷ややかに答えた。言葉尻に嫌悪感がにじみ出ているのが分かる。惑羽一途という男は、時々聞いている側が不安になるほど己の感情を隠そうとしない。

「おじょうさんごめんなぁ~こいつらアヤカじゃなくて俺様のストーカーなんだわ~いやはやモテ期到来! 男に? ウエェッ」

「繰り返すぞ、自惚れるな」

 

 水面がパシャリと音を立てたのでシガヤと彩華は注目する。どうやら討代がヤケクソになげた石の音らしい。

 するとイチトが追従するように石を投げる。見事な水切りだった。シガヤと彩華が拍手をすると、討代が「アァ!?」とボルテージをあげる。

「りんごおじちゃんケンカしないで! 田中先生にチクられたら困るんだから」

 水切り合戦に突入しようとする討代を彩華が止める。

「いやいやガキの自由研究手伝うなんてよ、そんなヘンな話あるかァ? 俺様だっておこづかいが出るから手伝ってやってんのに?」


 彩華の心がけに討代が気を使うわけもなく、イチトを茶化し続けるが。

 先を歩いていたイチトが立ち止まり、首だけで振り返った。


「討代は『モルグ市魔神博物館』を知ってるか?」


 問いに気圧された討代が足を止める。

「あ? 知るわけネェだろ」

 岩にぶつかる水流が弾ける雫の輝き。藪がこすれる風の音。

 イチトの茶に焼けた目がゆっくりと傾く。


「……ならいい」


 それだけ言ってイチトは再び先を歩き始めた。

「おいオイおいオイ、わざわざ溜めて言うことがそれかァ!?」

 吠える討代の声にシガヤは顔をしかめる。吠え声がなんとうるさいこと!

 しかし、それ以上にイチトの言葉に引っかかるものがあった。

「『絶対見に来い』とか、言いそうなのにな?」

「みーんなリンゴおじちゃんに興味津々…」


 ふと視線を下ろすと、彩華が唇を尖らせてシガヤを見上げていた。大きな黒い瞳があからさまに不満を主張している。

「あ~ごめんねぇヤクザって珍しいからサ……あ゛、そういえば綺空さんのお父さんもヤクザだったっけ」

 もう一度「ごめ~ん」と謝るシガヤに彩華は大人っぽい笑みを向ける。

「別に怒んないよ。ワタシのパパはヤクザじゃないし」

「そうなの?」

 シガヤが驚いてみせると少女の機嫌は目に見えてよくなった。まだまだ構われることが嬉しいお年頃だ。


「ヤクザはパパの弟の青護おじさん。うちのパパは無害な一般人」

 歯を見せてわざと意地悪そうに笑う彩華。綺空青護きくうセイゴという名前は記憶に留めて言及しないようシガヤは心がける。

「じゃあなんで『りんごおじちゃん』が綺空さんについてんの?」

「青護おじさんの言いつけ。ワタシたちを守りたいんだって。でもちょっと迷惑かな、みんなのお母さんがうちをから」

「体験だネ……綺空さんは皇都アルカ市から来たんだっけ? よそ者は遠巻きに見られがちだよね」

「おばあちゃんちがなくならなければこんな田舎に来なかったのに。青護おじさんには迷惑しちゃう」

 内容と裏腹に少女は楽しげに答える。大人から気にかけられて、嬉しくならない優等生など居ない。

「でも便だよ。おじさんたちのおかげで、転校生でもナメられなかったし」

「まあなんて物騒な子!」

「ひひっ、こんなヨノナカだから!」


 屈託なく笑う彩華を前に、この街のコミュニティにおいての「部外者」の立ち位置をシガヤは思いやる。シガヤは転校生を受け入れる側の子供だった……そして転校生は、クラスに馴染んだ頃に神隠しにあってしまってバッドエンドを迎えた。

 

 モルグ市の住宅街を通る車の音も、グラウンドで野球の練習する子供たちの声も、聞こえなくなって久しい。


「……そういやさ、『シらマナ』の場所ってセンパイから教わるんでしょ?」

 シガヤは神隠しの記憶を追い払って本題に入る。ふたりの回収員コレクターが掴んでいる情報は、まだまだ断片的なものだ。

「転校生なのによく教えてもらえたね」

「うん、クラブ活動がいっしょだし、ワタシが優等生だからね。だからワタシにだけ教えてくれた!」

 ワタシにだけ、の部分にとりわけ強い感情が込められていた。少女という生き物は特別感を主食とする。

「何クラブなの?」

「英会話クラブ」


 同年代の子と比較するとなクラブの選択だろう。そういう在り方ならシガヤは扱いに心得がある。かつての自分が喜ぶように相手をすればいい。


「その年で英会話を選ぶなんて、すごいじゃん。英語しゃべれる?」

「ええ~恥ずかしいからダメ」

 まんざらでもなさそうな態度は「すごい」の称賛を受けての照れだ。ここで間違っても「そんなこと言わずに何かしゃべってみてよ」と言ってはいけない。シガヤは脳内で適切な言葉を組み立てる。

「昔は英語の授業が多かったけど、今の学習指導要領は家庭科に力を入れてるんだってさ。だから大人でも英語がしゃべれない人は多いと思うヨ」

「ええ~そうなんだ?」

「ウン、綺空さんはそこら辺の大人よりすごいって!」

 討代倫悟より……と言いかけてやめた。彩華がもしも討代倫悟に懐いていた場合、この比較は心象を悪くするだろうから。

「リンゴおじちゃんより!?」

 しかし彩華が屈託なく名指ししたのでシガヤは苦笑する。

「断然ッ!」

「やったね!!」

 大げさに両手ガッツポーズをして喜ぶ少女。真道志願夜が優等生相手に選択肢を間違えるわけがない!

 

「『シらマナ』は優秀な子じゃないと託せないんだネ?」

「そう。優秀な生徒が責任を持って調べるから、シらマナの研究が毎年賞に選ばれるんだよ。先生たちも大喜びなんだって!」

 環境調査というウケのよさ、地元密着型の要素、物珍しいフシギな存在。市が主催する小学生対象の自由研究コンクール、その題材として『シらマナ』は申し分ない存在だ。

「自由研究は必須じゃないのにわざわざやるの?」

「田中先生を驚かせてやるの」


 夏の1ヶ月弱という期間。それが小学生に与えられる『自由時間なつやすみ』。

 任意提出の課題リストには、子供たちの興味感心を促進する安全なチャレンジが並べられている。中でも参加賞が出る課題、たとえば貯金箱をつくったりポスターを描いたりといったものはお手軽で人気が高い。

 自由研究にはそれらのようなはない。しかしこれで賞がいただければ、学年の間で「スゴいやつ」という認識が与えられる。受賞した自由研究の多くは、小学校理科室前の廊下に、数ヶ月に渡って貼りだされるものなのだ。


 クラスに、ひいては新天地になじむための努力。聡明な少女は、露悪的な態度の裏で己がとれる手段を懸命に模索している。


「……センパイはどうやって『シらマナ』の場所を知ったんだろうネ」

 シガヤの目は猫のような三日月型。ゆっくりと獲物に近づき、狩りをする。

「行けば"次の場所"がわかるんだって。あ、でも来年の場所はナイショにしないとダメだから!」

 強い語調にシガヤは同意の頷きをしてみせた。今年、2班のふたりで止められなければ、きっと来年もこの自由研究は続くだろうと確信する。

「りんごおじちゃんはすぐ喋りそうだけどネ」

「りんごおじちゃんなら青護おじさんの言うことをなんでも聞くからヘーキ」

「他の"おじちゃん"じゃダメだったワケ?」

 先頭で刀の鞘をぶんまわしている、大人げないジャージ男にふたりの目が向いた。それから彩華は俯き、唇を尖らせる。

「……ワタシに付きあってくれるの、りんごおじちゃんぐらいだし」

 シガヤは「ヤクザも忙しいんだね」という同情に留めた。


 気がつけば川上まで歩を進めている。土手の向こうに家が連なるが人の気配は薄い。空回りしたようなセミの鳴き声だけがうるさい。

 先頭をいくふたりの男が、木漏れ日にまぎれて遠くに感じる。かすんでいくような、どうにかなってしまいそうな。

 組の内情を探ろうとする会話、皇都アルカ市での小競り合いの思い出、そういった内容は断片的に届く。


「そうだ、ダメなこともうひとつ! 博物館でシらマナをかざっちゃダメ!」

 彩華がシガヤのジャケットの袖に書かれた『盛愚市魔神博物館』の文字に指を押し付けた。

「Catch and release! ちゃんとにがさなきゃダメなんだって」

 英語を得意げに披露する少女の、年齢よりも成熟した精神を写す瞳を前にシガヤは静かに唇を噛む。

 ――神隠しで消えた、転校生のあの子の名前が思い出せない。


 無言のままのシガヤを不審に思ったのか、彩華は大げさに息をつく。

「反応ワルっ……本当は、シらマナをよこどりしに来たとか? 悪者なの?」

「いやいや、オレらはね、シらマナが本当に存在するのか知りたいだけ」

「知るだけ? お金にもならないのに? ……やっぱり変かも」

 今さら募る少女の不信感。彩華は歩くのをやめてしまう。川の流れが滞留した岩陰から濁った匂いが立ち込める。

 しかし、シガヤは繕うことを得意とする。口車ならイチトよりも断然回る。


「そうだねぇ、アヤカちゃんにだけ特別に教えてあげようかナ」

 シガヤは己の唇に人差し指をあてる。彩華は警戒しつつも耳を傾ける。

「オレ、実は大学の先生なんだ。ナイショだよ」

「大学の先生!? 大学って、高校の先のだよね?」

「そうだよ。最高学府。そこで先生をしてんの」

 ただでさえシガヤに懐きかけていた少女だ。これまでの会話で「先生」に対する嫌悪が感じられなかったからこその権威利用は、思った以上に綺空彩華に効いた。

「名前、なに先生って呼んだらいいですか!」

 口調が敬語に変わるぐらいには劇的に。

「真道先生がいいな。オレ、真道志願夜って名前でさ」

「はぁー!?」


 素っ頓狂な声をあげたのは彩華ではない。先を歩いていた討代が、勢いよく振り返った。周囲の会話に聞き耳を立てていたのはシガヤだけではなかったようだ。


「まどう!? ハハッ、兄弟かよ!?」

「え、似てるカナ?」

 まどうという苗字はこの近辺では珍しいこともあり、これまでに何度も尋ねられた。シガヤは肩をすくめて笑ってみせる。もはや慣れたやりとりだ。

「『漢字』が違うぞ」

「まぁ『感じ』は違うなァ」

 討代とイチトの会話はすれ違う。シガさんは真実の道でマドウだ、テメーは迷惑な羽でマドウだったな、と喧嘩腰の会話が続く。

 

「……まどう先生。前髪あげて、キモチワルイ笑い方をしてみてください」

 真剣そうな顔で彩華が提案した。シガヤは面食らったが、少女の機嫌をとるためならばと渋々従う。

「こう?」

「やっぱり、りんごおじちゃんの親戚じゃないんですか?」

 彩華の疑念の声が深まっていった。どうやらキモチワルイ笑い方は討代倫悟によく似ていたらしい。

「ジョーダンきついってば。他人の空似っつーか、そもそもオレは似てるとか思ってないし……」

 情けなく笑いながらシガヤは前髪を指先で散らした。いつかイチトがやったように。


「シガさんには絶対にオールバックをさせないから安心しろ」

 イチトが討代を突き飛ばしてシガヤたちの会話に割って入る。

「いやさせてよ。オレ、横じゃなくて後ろに流す派だし」

「ア~、いいアイデアをやるぜ。坊主頭。どうだ?」

 負けじと討代も輪に混ざり茶々を入れはじめた。

「じゃあ討代サンがやってみて、似合いそうなら検討しよっかな」

「うちの組じゃスキンヘッドは偉い人しかできねぇーの」

 青護さんはフサフサだけど、と討代は続け、彩華も大きく2回頷いてみせた。


「つーか惑羽はさっきからなんなの? あのハーパン野郎の保護者キドリ?」

 討代はイチトを下から覗き込み挑発する。シガヤは自分を見下ろしてハーフパンツを履いていたことを改めて認識した。一方でイチトはすげなく討代の頭を押しのける。

「シガさんとは共にチームを組んでいる、いわば相棒だ」

「相棒ねェ。あのツラは生活安全課だな」

「シガさんは警察じゃない。皇都大学の先生だぞ」

 イチトもまた、ここぞという時にカードを切る男である。

「ゲェー、皇都大学かよ」


 彩華が「アルカ市の!?」と小声で言って、より一層の尊敬の眼差しをシガヤに向けた。「同郷者」というカテゴリまで追加されたとみえる。実際シガヤは皇都アルカ市の出身ではないが、勘違いしてもらう分には都合がいい。


 そんなふたりをさしおいて、再びはじまるイチトと討代の小競りあい……ふたりのズボンの裾は清流でグッショリと濡れていた。


「はいはいイチトくん、シらマナ見つける前に疲れてどーすんの」

 討代に構いっぱなしの相棒を、シガヤもようやく叱りつける。

「因縁あるのは分かったから、あんまりそっちのお兄さんに構わないで!」

「こいつが水さえかけてこなければ……」

「いくらでもカケてやんよぉ!」

「あーもう子供かなー。綺空さん、お願いしていい?」

「まかせなさい!」

 少女も足で水面を蹴り、水しぶきでイチトと討代を牽制する。

「ほらふたりとも、『シらマナ』探そ! そろそろなんだから!」

 

 やめろばか、と罵倒する討代の声。無言で自分のボディバッグを守るイチト。そろそろ、という言葉にシガヤは反応する。ポケットに忍ばせたリモコンで偵察用機械ドローンに信号を送る。


 彩華の眼はシらマナに対する期待で煌めいて見えた。

 怪異の前に自ら飛び出す贄の顔だ。


 短パンから伸びる細い脚で水を蹴り上げる、彩華の動きをイチトは黙って見つめている。茶色の目が追う先を把握した討代はとびきり卑しい笑顔を浮かべた。

「よしよしアヤカおじょうさん、その辺にしときな。ロリコン警察がオマエに色目を使ってんぜ」

「ろりこん?」

 ロリコンについて説明しようとする討代の喉元に、イチトは第壱神器・公色警棒を突きつけた。

「討代、お前にも聞かせてやろうか。俺の『妹』の話を」

「あっやべ重ねてるヤツだコレ。すみません討代サン、あんまりイチトくんを刺激しないでもらえますか? イチトくんの妹さんのお話を3時間ぐらい聞きたいならぜんぜん止めないけど」

「そんなにかからんぞ。1時間程度だ」

「いや長ぇわ!!」

 討代は引き気味にツッコミを入れ警棒を押しのける。イチトはノーコメントだ。


「俺様だってサツの相手は疲れるんだわ。てめーらふたりで仲良さげにくっちゃべりやがって」

 討代に順番に指さされ、シガヤと彩華は互いに見合わせるとはにかんだ。すっかり仲良くなっている。

「アヤカもさ、サカナ出る場所までどンだけかかんだ。てかもうサカナがほしいなら魚屋で買ってやるからよぉ……」

「それは『偽装』になるでしょ。りんごおじちゃんトクイなやつはダメ」

「どういうことだ討代?」

 イチトが「詳しく」と催促する。首の角度がいつもより怖い。

「ガキ相手のお遊びだっての。ババ抜きや神経衰弱ぐらいいーだろ。だからそんな目で見んなやめろ殺すぞゴラァ」

 

 笑えば不穏、歩けば水掛け、口を開けば喧嘩腰。そんな討代をなだめることを諦めて、彩華は狭い川の対岸にある笹薮に近づいた。


「実はもう着いてまーす。今年は、ここで待ってたら来るんだって」

 そこにランドマークとなるような自然物はなく、案内がなければ一行はこの場を通り過ぎるところであった。

「来るって……」

 岩と土くれ、虫の死骸と生い茂る雑草をかきわけて、アヤカが示したそこには歪んだ黒穴があった。認識が、そうとしかできない、魚の虚眼。


 すぐに黒穴から、彩華のくるぶし目掛けて白銀の光が走っていく。

「ほら、出たァ!」

 待っていましたと言わんばかりの勢い、それは輝かしい邂逅だ。

 『シらマナ』は藪日陰の下、水中を奔る星としてあまりにも美しかった。

 

 模造紙に貼られた写真では分からなかった、ホログラム状のきらめきに彩華は目を奪われている。きっとひと夏の美しい思い出になるだろう。

「フナ、か」

 魚の形状を見てイチトが呻いた。去年の自由研究の結果と同じ。2班はそれぞれの第壱神器……イチトは『公色警棒』、シガヤは『十色テーザー』を構えた。


 「シらマナの自由研究」

 銀に光るということ以外は在来種と変わりがない。

 しかし無害なわけがない。

 異界由来の存在は、必ず外界より災禍を喚ぶ。

 

 鬼子キシ型魔神関連事象『白魚シらマナ』の発生は、今年で終わらせなくてはならない。

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