第29話「ツバメは海を奔る」

  梅雨が明けたばかりのモルグ市の夜。窓ガラスを小雨が叩いている。

 イチトが食後の歯磨きをしながらぼんやりテレビを眺めていたところ、フツカがウキウキした足取りで近づいてきた。

「金曜日ね、講義が休みになるらしいんだ!」

 ソファの後ろに立ち、フツカは腰掛けるイチトの肩を揉みながら媚びを売る。

「兄さんも仕事休んでさ。どこか遊びに行こうよ!」

「……フツカ」

 歯を磨く手を止めずにイチトが咎める。

「なぜ休講となるのか、理由を把握していないのか?」

「え?」


 イチトは歯ブラシを持つ反対の手でテレビの画面を指差した。

 天気予報、台風情報。

 非常に強い大型台風がふたつ、モルグ市を通過する予測ルート。


「台風が来るのであれば、遊びに行けるワケがない」

「ええ~~!」

 フツカは端正な顔を露骨に曇らせた。それでもイチトの肩を揉む手は止めない……押せば存外なんとかなると、フツカはこれまでの同居生活で理解している。一方のイチトも歯磨きの手を止めることはない。シャコシャコと規則正しい音がテレビの音声と混ざってリビングに響く。

「だったら、だったら! 室内で出来ることをしようよ。配信の映画を見るなんてステキだと思うんだぁ」

「俺は仕事だ」

「台風なのに!? どういうことなの! ぼくは学校やすみなのに! それだと兄さんの言うことの道理が通らないじゃないか!」

 わーわーと文句を言うフツカに肩もみをやめさせると、イチトは立ち上がりテレビの横に並ぶ。


「此方の台風」

 その間も歯を磨く手は止めない。

「台風13号と隠蔽されているが実態は『魔神』だ」

「ええ~~!」


 フツカは小さく「ぼくやっぱ魔神キライ」と呟いた。ちょうど画面が切り替わり『トトキ市魔神美術館・夏の究極トリックアート展』のコマーシャルが流れる。フツカは美術館憎しと、画面に向かってタオルを投げつけた。イチトはコラと呟きその行為を咎める。下の子に言いつけるような口調だった。



 ……。



「やー、風が強くなってきたネー。いよいよもって台風が近い感じ」

 出勤したシガヤは、強風に煽られたのだろう。いつも以上にボサボサの髪となっている。

「なぁオレのビニ傘見てねぇ? バックヤードのどっかにあると思うんだけど」

 いつもより一層不機嫌な顔をしたハバキに、一番乗りで待機室に到着していたイチトが重々しく告げる。

「台風の日に傘を使うな。雨合羽にしろ」

「合羽はだせぇからイヤだって何度も言ってんだろ! プレゼンヘタクソかよ!」

「ださくないデザインの物もある。皇都警察のレインコートは格好いいぞ」

「それイチトしか着れねーヤツじゃねぇか!」


 やがて副館長が待機室に顔を出したのでお互いに口をつぐむ。これからはじまるのは仕事の話だ。


「……気象庁から通達が来ていた通り、台風12号クワイに便乗する形で型番不明アンノウンの魔神が接近している」

 不座見ヤマヅはホワイトボードに台風の軌道の概略を描く。性格の現れる綺麗な線だ。

「世間では『台風13号ツバメ』と呼ばれているため、以降この魔神は便宜的にツバメと称する。ツバメの接近に備えて、回収員は寝ずの番だ」


 天気予報アプリによると、12号が先に来てその後に魔神が追い打ちをかける形だ。しかし一通り説明を受けても回収員たちの士気は低い。

「オレら必要かなぁ……」

 そう、相手は台風と極めてよく似た存在なのだ。手持ちの神器でなんとかできるビジョンが浮かばない。シャープペンシル片手に東京タワーに挑むようなものだ。

「だが気象庁からの依頼は無視できん」

 イチトのぼやきに副館長は深く頷く。中央テーブルに歴代の『台風擬態』の魔神の資料を並べると、指で叩いて注目を促した。イチトとハバキはテーブルに寄ってレポート用紙を覗き込むが、シガヤはソファに沈んだままで動く気配はない。


 資料によると、どれもこれも同時に発生した台風に勢いを削がれたり、太平洋中心で力尽きたりと、甚大な被害を及ぼした例はないようだ。

「ほんとにオレら必要かなぁ……」

 シガヤは再度ぼやく。窓が無いこの部屋は外の状況がわからない。


「魔神絡みなら動物園がでしゃばってくれたらいいのにねェ」

「真道志願夜、貴様は動物園で台風が飼えると考えるか?」

「考えられませんねェ~」

 マレビ市魔神動物園の存在は助けにならないし、助けになっても困る。例えば台風に向けて動物園が飼育している魔神たちを解き放つのも愚かな話だ。対消滅してくれるのが一番喜ばしいが、動物園の職員たちがどれだけ魔神を制御できるかは秘匿されている……期待しない方が良い。

「この事態を嬉々として迎えるのは、トトキ市魔神美術館の写真家くらいだ」

「アイツ、行きでキャンプ用具運んでるの見かけたぜ。魔神の写真でも撮るつもりかな」

「浅慮が過ぎる」

「吹き飛ばされちまえ!」

 狂った芸術家の愚行報告に思わず2班はブーイングする。その写真家がどこの誰かなんて知らなくても、行動が愚かだということはわかる。


 さてさて結局、台風擬態の魔神なんてものは。

 展示になり得ないため『博物館』で回収意義は薄く。

 飼育できそうもないため『動物園』も気乗りせず。

 ただ『美術館』だけが惨禍の爪痕を甘受する。

 極めてリターンの少ない案件だ。

 そして災害とは往々にしてそんなものである。


「あとは住民が戸締まりさえしっかりしていれば、なんてことはない夏の災害風物詩のひとつにすぎないが……」

 副館長は部屋の隅に雑に積みあげた5年保存水のダンボールに目を向ける。

「近年の台風は被害が大きくなりやすい。市民の危機意識と、気象庁の言いくるめアナウンス能力に期待しよう」

 魔神よりまずは来たる本物の台風への警戒だ。イチトは出勤途中の道を思い浮かべる。あらゆるマンション、アパートのシャッターは下ろされて街は静かだった。対策は十分に行われている。


「ところで村主はどこにいる?」

「遅れましたぁー!」

 シガヤ以上に髪の毛をボサボサにして、一種の現代アートのような見た目となったスグリが部屋に転がり込んできた。タイミングがよかったというよりは、扉の外で「いつ入ろうか」と機会を伺っていたのだろう。

「傘がとばされて、追いかけてたら遅くなっちゃいました!」

「台風の日に傘を使うな。雨合羽にしろ」

 イチトの提言にハバキとシガヤは肩をすくめ、スグリはビッと指を突き立てて反論する。

「本格的な台風じゃないから傘でもセーフ! とばされた傘は回収できたし、回収員としての能力証明はバッチリなのだよ!」

 ウインクもして見せやる気も十分なスグリだ。髪が湿ってボサボサじゃなければさぞ決まっていたことだろう。

「というわけで今日のお仕事は何かな市民!」

「台風に備えて寝ずの番だってよ」

「あいたたたお腹痛くなってきたから帰りまぁす」


 引き返すスグリよりも先に、副館長が扉の前に立ち塞がる。ヤマヅの丸メガネがギラリと光るのを見たスグリは、ひきつった笑みを浮かべ「冗談ですよう」と宣いながらシガヤの隣に座った。

 イチトがサイドデスクにあった乾いたタオルをスグリに投げつけるが、コントロールミスでタオルはシガヤの頭にふわりと落ちる。

「下手だねぇイチトくん」

 シガヤがタオルを片手に笑いかけた。

「むぅ、フツカのようにはいかないか」

 イチトはわずかに眉をひそめる。



 ……。



 強い雨風を弱点とする異界性侵略的怪異も多い。


 例えば不定形の姿をとっていたり、体を構成する物質の問題だったり。あるいはこの星を循環するエネルギーが苦手だったり。理由は様々だが、詳しい解析は進んでいない。その人手が足りていない。

 台風接近時は息を潜める魔神も多いのか、回収員による即時対応が必要な事態もなかなか起きない。それでも仕事が休みにならないのは、まったく不幸なことだ。


 待機の間、イチトとシガヤは神器の手入れに着手した。

 イチトは『公色警棒』のカートリッジの確認、『銀の盾』の点呼。シガヤは『赤い靴』の黒杭を丁寧に磨く……黒杭はそんな手入れをする必要などなく、つまりは暇つぶしと同等の行為だ。


 スグリは部屋の隅で何かをあやす仕草をしている。前村主の相手をしているのだろう。ハバキは何をするでもなく、イチトが取り外したカートリッジを観察している。

「上位種六系と呼ばれる異界区分、『六人部ムトベ』、『六波羅ロクハラ』『六十里ツイヒジ』……」

「なんの詠唱だ?」

「異界区分だっつってんだろ」

「さすがハバキくん、よく覚えてるねェ。どこかのまどうサンと違って」

「シガさんも覚えていないのか?」

「イチトくんってそういうボケ返しするの!?」


 オレはこの分野の第一人者だ馬鹿野郎、とふたりのまどうがじゃれあってる間に、カートリッジが蹴り飛ばされ部屋の隅に転がる。

「シガさん足癖が悪いぞ」

「こちとらキック型のバトルスタイルだからネ!」

「すまんハバキ、とってくれ」

 ボールペンの替え芯に似たカートリッジをハバキは拾い上げる。三白眼がいつもより真剣に、手の中のカートリッジを観察している。

「ハバキ?」

「ああ悪ぃ、返すわ……アンタこの色よく使うんか?」

 他よりも残力の少ない赤色を指差しハバキが尋ねる。

「俺はその場の判断で色を切り替えてるから意図して残量をコントロールしているわけではない」

「もっともらしく言ってるけどサ、頼むから意図して切り替えることを覚えてェ!」

「これでもコツは掴んできているはずだ」

「オレの目を見て言って!」


 まどうコンビのやりとりにハバキが溜息をついたタイミングで、待機室の扉がガチャリと音を立てて開く。電子パッドを持った副館長が顔を見せた。

「対象の解析結果が出た。台風13号ツバメ、型番不明アンノウン改めTh型魔神のようだ」

「「ツイヒジ!」」

 2班のまどうコンビが同時に顔を手で覆う。シンクロすんなよとハバキが苦々しくこぼした。

「……よいよい、放っておけば中国がどうにかしてくれるらしいからのう」

「「館長!?」」

 いつのまにか部屋の隅にいた妖怪男、否、館長に驚く面々。理想的なリアクションに不座見ヒルメ館長はカッカッカッと大笑いする。


 しかしヤマヅ副館長だけは「中国?」と血相を変えて見せた。

「親父、それはどこルートの情報だ」

 詰め寄る息子に背を向けて「しもうた」「しもうた」「口を滑らせた」と館長は呪詛のように繰り返す。それ以外喋らなくなってしまって待機室内の空気がとても悪くなった。


「……中国に協力要請できるんですか? 国を越えてなんてちょっと大げさすぎないカナ」

 さすがにシガヤがフォローに入る。質問先は妖怪男ではなく、その息子のヤマヅ副館長だ。

「できるわけがないしするわけもない。だから問題なんだ……中国にTh型魔神の出現記録はない。よその国に、独断で魔神の情報を渡すのはちょっとな」

「むぅ、では館長殿はやらかしたということだな」

 イチトの言葉にようやく館長が呪詛をやめ「わしはやらかしてないもん」とそっぽを向いた。


「その口調は腹立つからやめてくれ親父」

「だって小僧がわしを悪者に仕立てようとするんじゃもん。中国が勝手に動いとるだけじゃよ。ま〜どこからか情報をもらったのかもしれんがの〜」

 悪鬼の邪気を向けられてヤマヅは口籠る。そこに、ここぞとばかりにシガヤが情報を搾り取りにかかった。

「でも副館長サンが、台風は捕まえられないって言ってましたヨ」

「捕まえるのが狙いじゃあないぞう」

 妖怪男は扇子で口元を隠しながら云う。絶対に、扇子の向こうで笑っている。並ぶ金の歯銀の歯が透けて見えるかのようだった。

「彼奴等は『ストームバスター』の威力を計りたいだけじゃ」


  风暴克星ストームバスター、某国にて破棄された遊園地用アトラクションを流用したもの。

 対魔神用に改造された、破壊力とエンターテインメントを両立する搭乗型神器。


「……あのアトラクション、今そんなことになってんの!?」

「13号が大陸に行くとも限らん現状で攻撃態勢か!? 何を考えているんだ国交的な意味と魔神への刺激という意味で……!」

 苛立ちを隠さない息子を見て館長はギャハハと笑うと、ゆらりと部屋を後にした。去る様はまるで幽鬼のようだ。


 そして部屋に残された回収員たち、具体的にはヤマヅひとりが難しい顔をして突貫の対策を練り始める。

「自然災害と併せの形じゃ今の政府には対処できん。自衛隊だって後追いでしか動けん……真道志願夜!」

「はい!」

「『幽霊戦艦』で13号を撃破しろ」

「絶対ムリ! それって太平洋まで行けってことでしょ!? 非現実的!」

「であれば惑羽一途、第参神器『海成』の展開を許可する。それで魔神を倒せ」

「台風相手に単騎で挑めと?」

「2班は文句が多いな……!」

「副館長の第参神器、つかってみたらどうですかー?」

「フン」

 スグリの提案を受け、副館長は己の丸メガネをわざわざ音を立てかけなおした。カチャリと勝気な音がする。

「私の第参は手法の提示しかできん。そもそもあんな面倒な神器を出すまでもあるまい」

 妙なやる気を出したヤマヅを前に回収員たちは顔を見合わせた。


「私のやり方でどうにかしてみせる」



 ……。



 それから数時間が経過した。外はいよいよ雨風が強まってきたようだ。盛愚市は強風域に入ったと天気予報が伝えている。

「今日って夜組来るのかな」

「今から移動は可哀想だ。家でゆっくりさせてやってはどうか」

「ちぇ、夜組に任せときゃよかった。オレたち損してるよな」

「残業代でなに買おっかな〜!」

「スグリは気が早すぎるぜ」


 副館長はあれから第5倉庫にこもりっぱなしである。退屈を持て余した回収員たちは、「決して見るな」という日本昔話のような禁をやぶってヤマヅを見に行くことを決めた。

 倉庫はバックヤードと渡り廊下で隣接している。点滅する室内灯の下を早足で駆け抜けながら、4人は倉庫上階に忍び込んだ。


 見張り窓から内部を覗きこむ――暗い照明、並べられたろうそくの光がゆらゆら。魔法陣があるだけならまだマシだっただろう。4人の位置からは、複数の祭壇や広げられた布、並べられた供物、アシスタントたる巫女たちが見える。ガラス窓が防音仕様のため、きっと同時に詠唱されている呪文や恨み言は、回収員たちに届くことはない。振り返る副館長は神職の祭祀服を身につけていて別人のように見えた。丸メガネに火の赤が反射している……。


「カルト教団の邪神官」

「バケモノ召喚の儀式かな?」

「特撮番組第1話タイトル前にある敵幹部意味深シーン」

「あれうまく写真撮れたらさ、芸術作品になりそうじゃんね」


 副館長サン必死だね、とシガヤは引き気味に観察する。陣や祭壇をあくまで「資料用」としてカメラアプリで連写した。

「副館長はずっと『逸れろ』と祈っているな」

「えっイチくん聞こえるの!?」

「口の形だ」

「見えるのか……」

 つまり不座見ヤマヅは彼なりの様式で『台風の進路変更』を祈る儀式を行っているようだ。


「古来より人はああやって気休めをしていたのかもしれないねぇ」

「村主をここの神様にしてくれれば、お手伝いできたかもしれないのになー」

「地主神ってそんなことできんのかよ?」

「時と場合によるよ! でも頑張ってそらしたら、学校のみんなから文句言われるんだよね〜休みが良かったのにって」

「災害はイヤだけど休みは欲しい、そう思うのはしょうがないね。あとさっきの提案は副館長サンにしちゃダメだかんね」

「なんで!?」

「恐らく取っ組み合いの喧嘩になる」

「あっオレはそれ見てぇ! 今副館長、偉そうな服着てるし『邪神官vs回収員』って感じで。スグリ、トドメはちゃんとキックでキメろよ」

「スグリはキックなんてしないもん!」

「ていうか仮にも自分らの上長を倒そうとしちゃダメでしょ」


 くだらない雑談をしながら謎の儀式を眺めていたが、職員から展示室の掃除協力を要請されたので仕方なく4人は撤収する。

 外の雨風はいよいよもって強い。台風12号は確実に近づいてきている。13号と呼ばれる魔神はそれを追うように日本に近づいていた。


 果たして中国保有の神器がどのタイミングで展開されるか。そういった情報はもたらされない。あれから館長は姿をくらませている。


 他国よりも先に、回収員たちが突貫のストームバスターとなって『Th型魔神・台風13号ツバメ』を迎撃するべきか。判断を下せる立場にある副館長は、警戒待機中の間ずっと第5倉庫で儀式を行っていた。



 ……。



「台風12号と13号は、本日未明に熱帯低気圧に変わりました」


 朝を迎えた待機室。テレビの中でアナウンサーが告げる。イチトが天気予報アプリを確認すると「台風12号は消滅しました」「台風13号は消滅しました」とそれぞれの末路が記されていた。

「いや~なかなか来ないもんだよね台風って!」

「本土はな。沖縄はいつも大変らしいぞ。ともあれ何もないのが一番だ」

 待機室の扉が勢いよく開き、まだ装束姿の不座見ヤマヅが入ってきた。入ってくるなりガッツポーズを決めて一言。


「勝った」


 回収員たちはみなで弱々しい拍手を送る。なんせこんなに嬉しそうなヤマヅ副館長を見るのは初めてなのだ。

「当博物館はこのまま休館とする。明日は通常出勤。回収員も解散……と言いたいところだが」

 ヤマヅは目ざとくテーブルの下を覗き込んだ。彼が部屋に来た時に慌てて押し込んだ、トランプやその他のゲームが乱雑に散らばっている。

「まずはこれらを片付けなさい」

「はぁい……」


 ヤマヅも儀式の後片付けのために部屋を出ていく。取り残されたイチト、シガヤ、ハバキ、スグリは揃って大あくびをした。


「ウノ、結局どういうルールだったっけ?」

「最下位が俺に今日の昼飯を奢ることになっていたはずだが」

「最下位ダレだ?」

「オレでーす」

「な〜んだ! まどうコンビか〜」

「奢ってくれなくていいからよ、メシ一緒いいか?」

「もちろんいいヨ」

「断る理由は無い」

「あ〜わたしも混ぜて! スグリはおごられ、大歓迎だよっ!」

「暗算勝負で勝てたらいいヨ」

「小卒には厳しいだろそれ」

「小学校でも暗算ぐらい習うもん!!」


 ところで『台風13号』が急速に熱帯低気圧に変わった件について真道志願夜は考える。本当に副館長の儀式が効いたのかもしれないし、実はヤバめの何かが太平洋に潜んでいたのかもしれない。しかし調査などできるわけがない。


「……イチトくんの第参神器ならあるいは……」

「シガさん、最近できたパンケーキ屋があるんだが」

「それ昼飯はやめときなよ。せめてカフェ併設のとこにして!」


 どうせまた台風はやって来る。それがこの国に生きるということである。

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