モルグ市北高七不思議【4】木を隠すなら森の中
管楽器に混ざってピアノの音。掠れたフルートに混ざってタンバリン。
惑羽イチトは姿勢正しく早歩きで、濃い橙色に染まった校舎を闊歩する。
来客用のスリッパでタスタスとマヌケな音を立てながら。
「失礼、聞きたいことが」
2年生の教室に入ろうとした男子生徒の肩を優しく叩く。本当は腕を掴みたかったが、今朝した兄の話を思い出して躊躇われた。
「わっ……なんでしょう?」
生徒はジャージをゆるく羽織っていて、それが弾みで落ちてしまう。イチトは「きちんと袖を通すべきだ」と小言と共に、拾いあげた指定ジャージを渡す。学年色は青色で、胸元には『MORI』と名字の金色刺繍。
「えーっと、おれ何かやっちゃいました……?」
「そうだな、先ほど山茶花さんと話していたようだが。何かトラブルが?」
「うわぁ用務員さん探偵みたい。あ、でも実際、探偵みたいなもんかぁ」
生徒は興味深そうに微笑みながらイチトの全身を見やる。特に、ベルトから下げられた作業ツールを見る時間が長かった。
「探偵ではない。だが状況は聞かせて欲しい」
「トラブルとかじゃないですよ! あの人とゴタゴタ起こすわけないじゃないですか。面倒だよそんなの……」
男子生徒はへへへと照れと媚びが混ざった顔を見せる。
「山茶花さんは部活の先輩か?」
「え!? ないない! おれは文芸部です!」
「む、ではそのジャージは何だ?」
「え!? おれ寒がりだから羽織ってるだけです! 別に運動部じゃなくてもジャージ、良いじゃないですか!?」
眼前に立つ用務員が、隙きを見せればそこを突いてくる男だと気づいたのだろう。生徒の表情は苦笑いに変質していく。
「さっきだって、一方的に絡まれてただけです! 誰彼かまわず絡む人ですよ」
「不良生徒の割りにはコミュニケーション能力が高いようだな……」
イチトの言葉を聞いて、生徒は今度は可笑しそうに目元を歪めた。シガヤが時折見せる三日月の眼の形を想起させる。
「用務員さんは、七不思議について調べてるんですよね? 楽しそうでいいなぁ」
楽しそうという言葉は、イチトが回収員になってからまれに投げかけられる羨望である。
「勘違いしているようだが七不思議は本題ではない。そしてこれは遊びじゃない」
「真面目な業務なんだ! かっこいいなぁ。七不思議のこと、おれには聞いてくれないんですか?」
上目遣いで見る生徒に、イチトは冷たい言葉で切り捨てる。
「その件は山茶花に委ねる契約だ」
契約、という言葉を聞いて生徒は「ぐ」と短く唸った。線引きをするという点で、バイト扱いはめっぽう効果が出るらしい。
「おれもそのバイトやりたかったなぁ……」
日頃の神殺しを思って苦言を齎そうと考えたイチトだが、脳内でシガヤが笑ったので寸前で耐えた。
「怪異を相手にすることに興味があるのなら、将来は、モルグ市魔神博物館に勤めるといい」
「……どの学部に行ったら成れますか?」
面白半分の空気から一変、生徒の顔つきが変わったので、イチトは己の提案の善悪がわからなくなった。魔神対抗施設としての博物館は黎明期、今は門戸が広いはずだ。しかし正規ルートをイチトは識らない。
「もりくーん! 早くかえろーぜー!」
「あー今行くー!」
帰宅を促す友人の声にほっとしたのはイチトの方だ。だからか「また今度」と告げるもバランスを崩した男子生徒をうまく躱すことができなかった。生徒のカバンが廊下に落ちて、教科書やペンケースがバラバラに散らばる。
「ごめんなさい全部おれが拾うんで!」
伸ばしたイチトの手を制して生徒は慌てて荷物をまとめる。そのまま逃げるように校舎内を駆け出した。
「廊下は走るな!」
「あはははごめんなさい!」
生徒たちの背を見送って、視線を落としたイチトは目を見開く。
廊下の隅に取り残されたB6サイズのノートが1冊。
表題は『モルグ市北高七不思議』。
「さっきの生徒の物か?」
それは至極当然の流れ、吸い寄せられるように手を取り中身を開く。
ざっと斜め読みしてイチトはすぐにノートを閉じた。
緘黙、しかし眼差しは疑念の色を受けて鈍く輝く。
廊下の向こうで生徒たちの笑い声。
……。
一方廊下の反対側。鉄筋コンクリート造りの校舎は木造のような温かみがない。
「山茶花サン!」
「アギャー!? アタシ今日は帰れって言わなかったっけ!?」
背で憤慨を示していた
「先生からの呼び出しは終わった?」
「ア~終わったけど、今日はもうバイトって気分じゃねーし。もう帰る!」
「じゃあ帰る前に。多分、七不思議っぽいの見つけたんだけど、そのことだけ聞いていい?」
「は? 七不思議っぽいのって?」
シガヤの提案を受け、頭にクエスチョンマークを大量に浮かべるサザンカ。シガヤは「あ、手元に無いや。こっち来て」と声をかけると、己の荷物を置いている社会科準備室に誘導する。
――腕を掴んで連れて行こうかと考えたが、今朝のイチトの話を思い出し諦めた。そもそもそんな
黄昏の西日を浴びて彼女の顔は絶望的だ。マスカラで飾った長いまつげを湛えた眼を大きく開いて。
「コレ、少なくともドアーに関係あるんじゃない?」
シガヤの肩掛けカバンにしまわれていた木彫りの面。サザンカは何かを取り繕え無かったようで、目が泳ぐ口が滑る。
「そ、そのお面、どこで見つけたんよ?」
「昨日、山茶花サンと分かれた後に落ちてるのを見つけた。厄介なことに異界の反応もある」
確光レンズをかざすと確かに一瞬、色とりどりの光がかすめてすぐに消える。
「このお面は七不思議のどれ?」
シガヤが尋ねると、サザンカは鼻頭に力を込めた。目線はシガヤから見て右下、左上、右下、左上。
「……よっつめの七不思議、『花子さんのお面』」
渋った末にサザンカは、シガヤを前に七不思議を語りだす。
「花子さんって、定番のトイレの花子さん?」
歯切れの悪いサザンカに向けてシガヤは助け舟を出す。
「そうその、それ。城栄の世だし、トイレ以外にも出るよねぇ。放課後、生徒がいなくなった時間帯に、面をつけて徘徊するって話」
語り始めたサザンカに対し助け舟の追撃が
「お面を、つけるのは顔を見られたくないからだよネ?」
「ア、ああ。うん。そうそんな感じ!」
「たしか、花子さんはいじめで顔を傷つけられて。その恨みが
「え、ア、うん? あ~、憑子って幽霊と親和性が高いから……」
「面を付けたヤツに取り憑いて、いじめっ子に似ている子を襲う」
「まあまあ、よくある七不思議ってやつ」
サザンカとシガヤは互いに語り、推測し、ふたりの間でよっつめの不思議の細部を紡ぐ。
「自分をいじめたヤツに復讐するため校内を徘徊しているんだよネ?」
「……ごめんそれって
シガヤの淀みない語りをサザンカが遮る。七不思議語りが一瞬止まる。
「そりゃあ、サザンカさんがバイトをサボってる間にヨ」
灰色の目がサザンカを映す。青かった彼女の顔が次第に赤くなっていく。
「もおー、今日は帰れって言ったよなァ!? 勝手に調査を進めんな!」
怒りのぶつけ先を迷ったのか、サザンカは大声をあげると今度は大げさに肩を落とした。シガヤは「ごめんネごめん」と舌を出す。
「でも、その面は、ドアーには関係ないからさ」
サザンカは、黒のネイルが塗られた人差し指を、シガヤの持つ面に強く向けて。
「今すぐここで壊してよ」
急な提案に今度はシガヤが目を丸くする。
「でもコレ異界の反応あるんだよ? 博物館に持って帰って、調べさせてもらおうかなって」
シガヤの言葉にサザンカが癇癪の動きで髪をかきむしった。
「
彼女は真剣に怒っていた。シガヤはすぐに思い至る。博物館には
「処分しよう!」
サザンカの叫びにシガヤは物思いから引き戻される。シガヤの手から落ちた面は、スクールパーケットにカランと音を立てて転がった。サザンカが勢いよく足で踏み壊す。パキリ、と極めて軽い音をたてて面は効力を失った。
「よっつめの七不思議はここでおわり!」
ギャハハとサザンカは下品に笑う。勝利宣言に似た清々しさが含まれている。
「……あー、滾った。残りの七不思議は明日でいーい?」
サザンカは首元のリボンを緩めながらだるそうに呟いた。
「もう帰りの時間だしネ。バイト代、一時間分あげようか?」
「いらない。もう二度とアタシを介さない七不思議なんてやめろよなー!」
シガヤの返事も待たずにサザンカは社会科準備室を出ていった。
「だんだん掴めてきたかもしれないな」
どうせ今日の業務は終わりだと、シガヤはそのまま着替えにかかる。目立つオレンジ色のつなぎを脱いで、スラックスを履き、シャツを羽織る。シガヤは襟付きシャツ派であり、これは大学で働き始めてから徹底している。
そして前触れ無く準備室の引き戸が開いた。
「シガさん!」
「きゃーノックぐらいしてよイチトくんのえっち!」
淀みなく言うシガヤに向けてイチトは鼻で笑う。
「愉快なリアクションだな。顔を赤らめて教室を出ていけば満足か?」
「中途半端にノるのやめてぇ!」
「複雑な心境を描いているな……山茶花の方はどうだった?」
引き戸をゆっくり閉めると、イチトはシガヤの近くに寄る。
「ああ、あのお面が七不思議のひとつだってヨ」
「やはりそうだったのか」
「……って、ウソつかれた」
「ウソだと?」
シガヤはイチトと目をあわせない。シャツのボタンをひとつひとつ丁寧にとめて、『盛愚市魔神博物館』と袖に書かれたコートを羽織る。これを着るだけで市民には「博物館さん」と呼びかけてもらえる
「……七不思議の情報なら、こっちも手にいれたのだが」
「だから急いで戻ってきたの?」
「廊下は走っていないからな」
イチトは机にノートを置いた。表紙に大きく『モルグ市北高七不思議』と書かれていればシガヤにだって推測はつく。
「これ、どこで?」
「モルグ市北高2年生文芸部所属モリ君による情報提供だ」
イチトものろのろと着替えはじめる。紺のつなぎを脱ぎ捨てて、用務員の役を降りる。
「……中身は読んだ?」
「斜め読みだな」
「感想は?」
ため息をひとつついてから。
「七不思議が多すぎる」
……。
調査3日目。モルグ市北高校門前。
イチト、シガヤ、そしてヤマヅが揃っている。昨日のヤマヅは館内業務に追われてしまい、北高を訪れるのは1日ぶりだ。
「ふたりしてずいぶんと眠そうだな?」
「実はファミレスで作戦会議を練ってまして……」
「仕事熱心なのはいいことだが、そこまで苦戦するとは根深いようだ」
「それにおれたち
大あくびをするシガヤにヤマヅは同情の目線を向ける。一方で、イチトは茶に焼けた目でヤマヅを見上げていた。全員の視線は微妙に交わらない。
「ヤマさんに頼んだ調べ物はどうだ?」
「来ると思った! お望みはこれか? 暇そうな
折りたたまれた茶封筒。普段のシガヤなら興味津々にイチトから奪うだろうが、今は大あくびに夢中で興味が向かないようだ。一方でイチトは満足そうな微笑みを浮かべる。
「健闘を讃え、両手で握手をしてやろう」
「そこまではせんでいい。貴様の握手にそこまでの価値はないと思う……」
たった2日の働きだが、イチトとシガヤに対して皆の覚えは良いようだ。校門前にいるだけで「おはようございます用務員さん」と声がかかる。
その中に、養護教諭のコバヤシや焼却炉に来た女子生徒、形代を見た生徒たちに、文芸部員のモリもいる。
「おはようございます」
「おはようございます」
そあらちゃん、と声が聞こえてイチトは振り向くが、山茶花の姿は見当たらなかった。目立つ頭髪なのですぐに見つかると思ったが、北高の校則がゆるいせいか奇抜な髪色の生徒はまあまあ多い。
「ヤマさんは今日も講義をするのか?」
「放課後にな。とりあえずドアーと魔神の恐ろしさを叩き込まねば……モルグ市で危機感がここまで後退しているとは思わなかった」
「そういえば生徒の中に博物館の勤務希望者がいたぞ」
「それなら就職案内も一緒にやっておくか」
行動プランを練るヤマヅの横でシガヤが「ハッ」と口で言う。
「副館長サン! 教室に仕込んでいた式神、ダメになりましたよ!」
「ダメにしたのは貴様らだろうがッ!!」
「げぇーバレてるバレてる!」
ボヤくヤマヅと別れて、イチトとシガヤは社会科準備室へ。
つなぎに着替えて用務員の作業の準備。
しかし今は回収員の顔つきで、机の上にノートを広げる。
昨日ふたりがファミレスで散々読んだソレ。
とある男子生徒による『モルグ市北高七不思議』調査記録。
ひとつめ。
理科室の内臓模型の一部が本物、異界落ちした犠牲者の死体の流用品。
ふたつめ。
職員用入口の柱は異界産、彫刻刀で名前を刻むと異界の魔神に覚えてもらえる。
みっつめ。
校長室にあるブロンズの置物は博物館から買い取った魔神の死体で、夜歩く。
よっつめ。
管理番号6番の剣道の面は、かぶると見えないはずの魔神が見えるようになる。
いつつめ。
学校のプールが赤く染まった時にとびこむと異界へ落ちる。
むっつめ。
木造校舎2階の鏡、4時44分に姿を移すとドッペルゲンガーが異界に落ちる。
ななつめ。
桜の躯の下には魔神の死体が埋められている。
山茶花蒼新の七不思議と違うもの。
その上に、ド直球に魔神絡みのネタばかり。
男子生徒のノートには、概要だけでなく場所や検証も書き進められている。名前は伏せてあるものの生徒の証言を集めたもの、スマートフォンで撮った写真をシール印刷して貼り付けた状況証拠たち。
B6サイズのノートはイチトのボディバックにすぐ入る。続いてイチトは茶封筒の中身をシガヤに共有しようとしたが、窓の外から名前を呼ばれた。
慣れ親しんだ正規の用務員のおじいさんがふたりを優しく呼んでいる……。
今日は駐車場に水をまき、校内の木の剪定を。
焼却炉内に壊れた木の面。躯と呼ぶべき桜は見当たらない。
木造校舎から黄色い声が聞こえたので、見やればヤマヅの後ろをたくさんの教師が付き従っていく様子が目に入る。
「医者の回診かな?」
「ハーメルンの笛吹き男のようだ」
ふたりは感想を言いあいながら、春の空の下で草むしりに勤しむのであった。
……。
時刻は飛んで放課後、北高の中庭。
日中にイチトとシガヤが頑張ったので、雑草もなく整然としている。
「それではこれまでの! 七不思議を! おさらいしますっ!」
今日のサザンカは上機嫌だった。ちゃんとバイトをやると決めたのだろう、紺色ソックスも履いて気合は十分だ。
「ひとつめ! 何度も死ぬ骨格標本!」
「異界反応まるでナシ!」
サザンカの口上にシガヤがすかさず合いの手を入れる。
「ふたつめ! 歌う柱!」
「実はみっつめに含めてよくない? セット扱いじゃない?」
「みっつめ! 校長室のカナリア!」
「でかい! たまに鳴く! ペットの帰還者!」
「よっつめ! 花子さんのお面!」
「異界の反応あったので壊しました!」
木の面についてはもちろんシガヤはイチトに共有済みだ。
「あとのみっつはどこにある?」
ノートの存在を伏せてイチトはサザンカを促す。
「そういえば、定番のドッペルゲンガーは無いのカナ?」
シガヤは顎に人差し指をあてて分かりやすくしなをつくった。
「自分と同じ姿が出るってヤツぅ? 実はあるよ~じゃあ今日はそれから!」
サザンカは自分の傷んだ髪をくるくる指先で弄ぶと、先頭を駆け出した。
「プールの水面に映るって話!」
3日目ともなれば噂は広まり耳目も集まる。
つなぎの男2人を侍らす金髪の生徒は好機の対象だ。
教室で部活動をしていた生徒たちが次々と廊下に顔を出し「サザンカちゃーん」と声をかける。
「有名人なんだネ」
「コツさえ掴めば有名になるのは簡単よ。ひとつ外見で目立つこと、ふたつ言動で目立つこと、みっつ実績で目立つこと」
「別に有名になりたいわけじゃないんだよネ」
「博物館さんだって満たしてるじゃん。オリーブグリーンの上着、分かりやすい」
「アースカラーなら市販品にも多いけどなァ」
そうして導かれた先は季節外れの校内プール。プールサイドで水泳部員が柔軟体操をしている。サザンカのことはあまりよく思っていないようで、遠巻きにコソコソ話をするだけだ。
「水、ないね」
「ま~春だしぃ? 水泳の授業はまだ先よ」
「これならドッペルゲンガーも生まれようがないな」
ギャハハと笑うサザンカを横目に、シガヤはプールの隅々に確光レンズをかざしてまわる。色の変化はまるで無く、ハズレということが目の当たりになる。
「山茶花サン。このプールって赤くなったことってあるの?」
「え、なんで知ってるの!?」
その返答は七不思議の語り部の様ではなかった。異界に関係があるかと問いただす前に、山茶花はべらべらと語りだす。
「いつかの美術部員がさァ、パフォーマンスってやつで赤い絵の具をぶちまけた事件があったワケ!」
「いやいや赤くするためにどんだけの量が必要なんだよ……」
「それはマジであった話で! 器物損害になると思ったけどさすがに校内で処理されたっぽい。あ~警察沙汰にならなくてよかったねェ~」
とにかくここはハズレだったね、と山茶花は身を翻した。
「学校のプールが赤く染まった時にとびこむと異界へ落ちる……」
あからさまにドアーを示す伏せられた七不思議。しかし異界の反応がないならそれも「嘘」。
『テメェで染めたくせに』
背に受けた悪態にイチトは振り向くが、水泳部員たちはすぐに視線を外して雑談に興じてしまう。
……イチトは思わず足を止める。
画板を持った美術部員たちがプール前をゆっくり歩く。
「明日の授業」「顧問のところ」「何あったっけ」「返してくる」
視線を動かし美術室の窓の中、びっしり貼られた美術館のポスターが目に入る。
「七不思議」「どれだっけ」「サザンカちゃんが」「カナリア太って」
陸上部員が足並み揃えてランニング。
「廊下に骨が」「理科室は」「柱が歌って」「サザンカちゃんが」
鉄筋校舎の屋上で文芸部の生徒がこちらを見ている。
「ここに魔神が」「あれが帰還者」「それはドアーで」「どこに異界が」
強い風が吹きぬけて、遅咲きの桜を散らして花吹雪。
「イチトくーん、何ぼーっとしてんだよ!」
駐車場付近で手をふるシガヤ。並んで立つサザンカは笑顔だった。
「むっつめはねぇ、音楽室の」
「どうして」
説明を遮りイチトはとうとう問いかける。
「七不思議を捏造する?」
茶の目でイチトはサザンカを視る。
シガヤの灰の目、試すような視線も隣に立つサザンカへ。
サザンカの笑顔はみるみる溶けた。
昨日壊された、木の面と同じ
「
……。
「2班って、いつまで用務員するんだろうなぁ?」
場所はモルグ市六ツ角交差点。博物館所持のバンの中。
「魔神でも出たらこっちに戻ってくれるかなー?」
助手席のスグリのぼやきに「それは不謹慎だろ」とハバキがツッコミを入れる。
後部座席には黒の納体袋。回収した遺体が雑に転がされていた。
「あー、そういや元北高のやつらに聞いたんだけどよ」
「接点ないって言ってなかった?」
ハバキは赤信号から目を離さずにニヤリと笑う。
「地元民の繋がりをナメんなっての。そんなんダチ伝手にちょちょいよ」
「自慢はいいから本題!」
「へいへい。あの学校、七不思議なんて無いらしいな」
「あれれ? そうなの?」
信号が青に変わり、バンは静かに走り出す。
「でも副館長、七不思議のバイトがどうとか言ってなかったっけ?」
「何の話をしてたんだろうな」
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