ワンオペの人、一日百人誘拐します
黒イ卵
それは、SNSから始まった。
『ワンオペの人を誘拐します。一日百人、誘拐します。』
そうSNSに投稿されたのは、新聞や雑誌の文字を切り抜きして作られた犯行予告の写真。
画面をクリックすると、ツリーに続いて以下の文が、同じようにして写真に載っていた。
『全国どちらでも伺います。誘拐の目的は、ワンオペ解除です。』
タチの悪い冗句、もしくは悪戯だろう。
反応は様々であった。
いわゆる捨て垢で、いくつかのSNSに同時に投稿されていた。
たまたま手隙のサイバー警察が、投稿場所をある程度特定できたが、不特定多数利用の漫画喫茶が何店舗も入ってるビルだった。監視カメラはあったが、人物特定は不可能だと言われた。
それは、始まりだった。
「ママが、いません」
「バイトの田中君がいない」
「いつも会社にいるあの人、名前知らないけど、行方不明だって」
ぽつぽつと、SNSに行方不明になったとの不穏な投稿が続いた。そして、関係者にだけ分かるようにして、ある写真が届いた。犯人と名乗る集団からである。
写っていたのは、手、もしくは足が縛られた被害者の写真。写っているのは、縛られた部位及び、被害者を特定できる服装、荷物や身体的特徴だった。また、被害者の筆跡にて、メモ書きが一緒に写されている。
『誘拐されました。犯人の目的は、ワンオペ解除です。』
一日百人。途方もなく途轍もない規模。
少し前まで家にいたはずの人が、会社にいた人が、皆ふっといなくなった。
拐われた先では、三食と風呂トイレは保証されているそうだ。
果たして本当に誘拐なのか? 皆自演ではないのか?
連日、メディアでも面白おかしく騒がれる。
ある日、いつものアナウンサーが消えた。
「見つからない」「どこ?」
「これ一人でやってたの?」「たすけて、無理」
だんだんとSNSに悲鳴が溢れる。
皆、居なくなった人を探すどころではなくなった。
降ってきた仕事に、見ぬふりしていた業務に、押し付けてきた責任に。
残された者達は向き合わなくてはならなかった。
「「できない!」」
さて、こちらは誘拐先。
各人がそれぞれ、伸び伸びと過ごしている。
何処とは特定出来ないが、ホテルのラウンジのように清潔で整った広い空間に、ゆったりとしたソファが置いてある。
彼らは流行りの異世界転移をした訳ではないが、少しは似ているかもしれない。
実は国の社会実験の一環として、極秘任務を受けーーていたならば、どんなに良かっただろうか。
幾人かは、自ら選んだ。
失踪を誘拐に見立てた、便乗自分誘拐。
これは後に、見付かった幾人かにより、自白。
大多数は、高度知的生命体による、本当の誘拐。
彼等の目的は、研究と【ワンオペカイジョ】という、拐った地球人の願望達成。拐われた地球人は、今は宇宙空間にいる。
幾人かは、NPO法人『真の働き方改革を掲げる育児介護老後支援を持続可能的に目指す組織』。
つまり、ほぼ国家の取組む課題をふんわりと目指した法人が、きちんと代理人を通してオハナシアイなどの手続きを行っていた。
と言っても、後に高度知的生命体ーー長いので宇宙人と表記、がNPO法人に介入している。
ほぼ、誘拐は宇宙人によるものとしていいだろう。
宇宙人は、疑問だった。
能力の高い個体に難しい労働を任せるのはわかる、だが休憩を取らせず、しかもクレームや要求が多い。裁量を任せることすらないのに、責任だけは重い。そんな個体は早晩、潰れるのは自明だ。
やはり、地球人は我々程の文明は持たないのだろう。
だが折角の機会だ。宇宙にもいろいろな条約があり、通常は現地に手を出すのは違反だ。
しかし今回は、手助けするようなものだ。
一日百人、百日で一万人。
サンプルとしては充分だろう。
宇宙人もまた、【ワンオペカイジョ】後の社会が見たかった。
サンプルを地球に似せた別環境にて、飼育してみたいし。
「……と。言う訳で、始まったのが、ここ、第七地球。通称セプティマだよ。」
「パパ、最後の方、かけ足だったよ! まだねむくない〜。」
「ダメダメ、ヒトはしっかりと夜眠らないと、十分な成長ホルモンが分泌されないのだから。さぁ、眠りなさい。明日は学問の日。明後日が遊戯の日だ。」
「パパは明日が遊戯の日だね! 今度の遊戯の日は、一緒に遊ぼう!」
「ああ、いいとも。パパは、お遊戯が上手だからな。」
終わり
ワンオペの人、一日百人誘拐します 黒イ卵 @kuroitamago
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