第2話〜クリスマス〜


 去年のクリスマス、僕は受験勉強のため塾にいた。

 模試の判定は相変わらずC判定で受かるかどうかも怪しい。


 苦手な数学と理科からずっと逃げ続けていたため、点数が足を引っ張っている。

 根っからの文系なので、暗記系はなんとかいけるのだ。


 その日も朝9時からご飯などを挟みながら夜の8時まで勉強していた。

 帰りにプリンでも買って帰ろう。

 そんなことを考えながら帰っていると、


「ケーキいりませんか〜!?」という声が聞こえた。

 

 コンビニの前でサンタの帽子だけ被って暖かそうなマフラーとコートを着て

 防寒装備の女の人がケーキの後ろに立っていた。


 彼女の前にはケーキがひとつ置いてあった。

 どうやら最後のひとつがなかなか売れないらしい。

 可哀想だけどと思いながらもケーキなど買えるお金を持っていなかった僕は、

 彼女の横を通り過ぎようとした。


 すると、

「ねえ、そこの君!!」


 その女の人が声をかけてきた。

 自分に声をかけてきたと思わなかった僕は、声がした方を横目で見ながら進んでいくと、


「あぁ!まってまって!!」

そう言いながら女の人は僕の前に立った。


「ぼ、僕ですか?」

「そう!君!!ケーキ買わない??後一つがなかなか売れないんだ〜……」

「ごめんなさい、ケーキ買えるお金持ってないんです。」


 なかなかめんどくさいことに巻き込まれてしまった……。

 早く会話を切り上げて店に入ろうとする僕の気持ちを悟ったのか、


「割引してあげるからお願いだよ〜!!」

 と割引をしてまでも僕に買って欲しいらしい。


「僕はプリンが食べたくてコンビニに来たんです。申し訳ないですが、

 他の人に買ってもらってください。」

 長時間勉強していて疲れすぎているのか、少し苛つきながら対応してしまった。


「そんなこと言わないでケーキ買ってよ〜!!」

 かなり諦めが悪い性格らしい。

 この先断っても折れなさそうだし、家に帰ってから罪悪感がでてくるかもしれないので

 しょうがなく買うことにした。


「わかりました。買います。いくらですか?」

「え!?ほんとに買ってくれるの!?ありがとう!!!」

「いくら割引いて欲しい?」


「……は?」

 予想外の質問に唖然としてしまった。


「できるだけ安く買いたいです。」

 そういうと彼女は、


「んー、そうしたら10割引でいいよ!」


「……はい!?」

 さらに予想外の回答に驚いてしまった。


「それって無料ってことですよね?割引じゃなくないですか?」


「そうかも!笑でも長話させちゃったし君になら無料にしちゃってもいいかなって」

 そう言いながら彼女は自分の財布を取り出し金庫の中に入れた。


「え、ほんとにいいんですか?なんか申し訳ないので払いますよ。」

 さすがに罪悪感が湧いてしまい、思わず思ってもないことを言ってしまった。


「君お金ないのにかっこいいこと言うじゃん笑

 そしたら暖かい飲み物買って欲しいな!笑」

 「もうすぐバイト終わるしちょっとお姉さんと話そーよ笑」


 早く家に帰りたい気持ちと申し訳ない気持ちを比べて結局申し訳ない気持ちが勝ってしまった。


「わかりました。暖かいお茶でいいですか?」

「いや、ほっとレモンがいいな〜!笑」

 何とも図々しい性格だ。


「……わかりました。ほっとレモン買ってきますね。」 

「ありがと!笑買ったら裏のところで待ってて!

 すぐ行くから!」


 そう言うと彼女はテーブルなどを片付けバックヤードに入っていった。



 それからしばらくして、小走りで彼女がやってきた。


「ごめんごめん!お待たせ〜!」

 そういう彼女は先程とは別人のような綺麗な服装をしていた。どうやらさっきは店のアウターを着ていたらしい。


「いえ、大丈夫です。あの、これ…」

「あ、ありがと!ちょっと冷めてるね笑笑」

「すみません。あなたが出てきてから買うべきでした。」

「いーよいーよ!わざわざ買ってくれてありがとね!」

 そう言いながら笑った彼女はとても可愛かった。


「君、名前なんて言うの?」

「見ず知らずの人に個人情報を言うのはちょっと…」

「いいじゃんいいじゃん笑ケーキ買ってあげたんだからさ!笑」

 ケーキを盾にしてくるなんて…。なんて女だ。


 少し抵抗はあったが、あまり通らないところだしもう会わないから別に構わないと思い、名前を言った。


上田稜真うえだりょうまです。」

「りょうまくんって言うんだ!よろしくね〜!」

「……よ、よろしくお願いします。」

 先程から気になっていたが、この女の人めっちゃグイグイくるな。距離感の詰め方が陽キャのそれだ。


「今高校生?」

「いえ、中3です。」

「そうなんだ!じゃあ受験勉強中か!」

「そうです。さっきまで塾に行ってました。」

 やばい、早く帰りたいのに余分な受け答えをしてしまった。早く会話を切り上げなければ…。


「塾行くなんて偉いね〜!私塾なんて言ったことないよ!笑笑」

 「そうなんですね。では僕はこれで失礼します。」

「えー、もう行っちゃうの??お姉さんともう少し話そうよ〜!最近まともに人と話してなくて寂しいのー!」

「家に帰って復習したいこともありますし、すみません。」

 そうだった。この人諦め悪いんだった…。


「そうなんだ〜…。じゃあ私の家で勉強するのはどう!?」

「は、はい!?!?」

 まさかのことを言われて思わず声が出てしまった。


「お腹すいてたらご飯とかも作ってあげるよ!私腕には自信があるんだ〜!」

 自慢げな顔と肩に腕を置くポーズをする彼女に見惚れてしまったが、すぐに正気に戻り、断りを入れた。


「いえ、家に母が作ってくれたご飯があるのでありがたい話ですが断らせていただきます。」

「そっか〜。何度も引き止めてごめんね。気をつけて帰るんだよ〜!」


 少し寂しげな表情をする彼女にまたまた罪悪感を覚えてしまい、ご飯だけならと思い、


「あ、あの…ご飯だけなら良いですよ」

 思わず言ってしまった。


「え!?ほんと!?ほんとにいいの!?!?」

「はい、ケーキの件もありますし、勉強できるならいいかなって」


「ありがと〜!!じゃあ行こっか!!」

 そう言いながら彼女は僕の手をとった。


「!?!?!?!?!?」

 まさかこんな日が訪れるなんて思いもしなかった。

 勉強を頑張ってるから神様が来てくれたのかな…。彼女の手は暖かかった。


 そんな呑気なことを考えながら彼女の家へと向かった。





 まさかあんなことになるとも知らずに……。

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