第2話 譲治 戦乱
父が出陣した。
領主である父は軍勢が街を出た翌日の午後、第三騎士隊長を連れて飛び去った。水源を取り返す為、余計な事をした山岳民族に痛い目にあってもらうと言っている。街は余裕を感じているのか弛緩した雰囲気が漂っている。
「お祖父様、すぐ終わるのですか?」
「戦力が違うのでな、戦にはなるまい。」
「なぜ籐黥(とうげい)族は水源を取ったのでしょう?」
「彼らの所では果物、木材、炭、毛皮、獣肉が取れる。領地で取れる米、麦、野菜、豆と交換していて諍いは少ない筈が···何があったのだか。」
「ご隠居様、糧秣の確認をお願いします。」
文官がお祖父様に声を掛けた。
「譲治、仕事のようじゃ、また後でな。」
「はい」
時間が空いたが落ち着かないので書庫に籠もる。
術の本は読み尽くしたので他はと題名を流し見していると、祝詞集と記載された古いボロボロの本が見つかった。祝詞は祭祀や出陣、帰還など様々な場面で唱えるが、形骸化していて省略していることも多い。
『掛けまくも畏き髙御産巣日神の大前に···』
適当なページを開いて小さな声で読み上げると術力の流れを感じる。
『作りと作る者共を豊かに···』
土が必要なことに気づく。本を持って庭に出て続ける。
『鈦を集めて礎に、綱玉を加えて笏となし給えと、恐み恐れみ申す。』
土の中から艶消しの銀色が集まり形作られる。身動きがとれないまま操作していくと、棒状に固まり、更に透明な砂が土から飛び出してくる。先程の棒と繋がり一体化した。辺りはすっかり暗くなっているが私は興奮していた。これは、笏だ。
人に見せてはまずいと思い、こっそり部屋に持って帰ることにした。
翌日はお祖父様も戻ってこないので下町に出ることにした。
「健人、下町に行きます。」
家令に伝え、護衛が来るのを待つ。護衛は下町出身の騎士、陽介だ。身体強化が使える魔力持ちのため騎士になったという。下町の遊びを色々教わったが同世代の子供が近くにいないので試すことはできない。
下町は見慣れないものが多くて面白い。臭いけど。臭いけど。
西門の近くに行くと路地の奥の店先で子供が食べ物を売っていた。
「それは何?」
子供に尋ねると
「肉まんだよ、美味しいよ、一つ20銭」
「何の肉?」
「赤蛙」
「陽介、お金ある?」
「ありますよ、食べるんですか?」
「見たことないから味見。」
「娘さん、2つくれるかい?」
「はーい、40銭!」
「娘?」
「坊っちゃん、男だと思ったんですか?」
「えっと、、、ん、、、美味しい。」
「はは、どっちでもいーよ、売れればオーケー!」
なかなか楽しいお出かけだった。
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