第14話 情感と友達

 僕らは凍えそうな状態で、砂浜に打ち上げられた魚みたいに横たわっていた。


 さっきまで溺れていた宝も。

 宝を背負ったまま泳いだ僕も。

 互いに体力は尽き果てていて、微塵みじんも動く気力がなかった。


「実は俺、泳げなくて」


 ようやく口を開けるようになった宝の第一声だった。


「なんだよそれ........」


 僕はあまりに滅茶苦茶で笑ってしまった。

 泳げないのに、僕を追いかけて海に入るなんてどうかしてる。


「宝にもできないことあるんだ」

「あるよ、たくさん」


 劣等感に覆われていて、見落としていたものがたくさんありそうだ。

 僕は人間だけれど、宝だって人間だ。

 なんでもできるスーパーヒーローじゃないし、出来ないことのひとつやふたつあるだろう。

 僕が勝手に大きく見過ぎていただけで、宝は最初から等身大だった。


 砂のざらざらとした感触が肌にまとわりついている。

 心地いいとは言えないが、それほど悪くもない。

 仰向けに寝そべると、暗い空の上にぽかんと青白い月が浮いていた。


「泳げなかったけど、海に入ってく才がどんどん見えなくなっていくから。頭が真っ白になって、身体が先に動いてた」


 無茶するなよ、と言いかけてやめる。

 最初に無茶なことをしようとしていたのは自分だし、宝がいたから今の自分はここにいる。


「........ごめん、ありがとう」

「こちらこそ」


 今日二人とも死にかけたのに、なぜか僕らは笑顔になっている。

 全身がビシャビシャに濡れていて、外気に晒されているからかなり寒いのに、気持ちだけならどこにでも行けそうだった。


「........立てそう?」

「頑張る」

「無理なら肩貸すよ。とりあえず、もう帰ろうか」


 僕は、宝より先に立った。

 立ち上がろうとしている宝に手を差し出す。

 僕を見上げていた宝は手を取って、僕の隣に並んだ。


「明日は有休使うよ」


 宝はどこか愉快そうに肩を借りて歩いている。

 僕は「そうしてくれ」と返して、家まで無事にたどり着けるよう祈った。

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