第3話 機械好きの先生
問題解決の為に小走りで部室棟から教務棟へ向かう。この学校は教務棟を中心に、一号棟<普通科、情報メディア学科>、二号棟<魔法・魔導科>、三号棟<魔術機械工学科、車輛科>、五号棟<錬金・自衛教練科>…と、なかなか特殊な学生棟が立ち並んでいた。それもそのはず、この学校は世界初の魔法学校ということで、世界各国から支援され出来上がった学校なのである。世界政府に管理されており、その影響で各国から留学してきた人も多い。中等部も存在し、あたしや桐生ちゃん、美樹などはエスカレーター式でこの学校の高等部に進学した。…まぁ中等部には魔法や魔術の学科みたいのは無く、魔法が使える若しくは才能がある人間だけが集められた息苦しい学校だったが。
…え?四号棟?なんかどっかに存在しているみたいだけど、普通の人間には辿り着けない別館があるらしい。多分だけど妖怪や妖魔、妖術関連の学科なんじゃない?知らんけど。
とまぁなんやかんやで教務棟の三号学階にある顧問の部屋に到着した。扉横のパネルを操作して、先生が居るか確認…うん大丈夫だ、ちゃんと中にいる。呼び出しボタンの入室許可申請を送り暫く待っていると、部屋の扉が開いた。
「失礼しゃーす。学籍番号2-B1-02の伊佐坂です。アモン先生おねがいしゃす。」
事務作業中の先生が何人か振り返ったが、その中にはアモン先生は居ない。っていうかアモン先生がこの空間にいないし。
「…あれ?」
「アモン先生ならいつもの工房に行ったよ。」
教官の一人があたしにそう告げた。
「そうなんすか?パネルには在席ってなってんですけど…。」
「…あーいつものだ、ごめんね、離席中に切り替えてなかったみたい。アモン先生にはまた言っておくよ。」
「そうっすか…ってヤバイ!…失礼したっ!」
急いで部屋を出て、今度は駆け足で工房と呼ばれている学生棟の一室へ向かう。
アモン先生は引き籠ると下校時刻ギリギリまで出てこないからな…!こうなれば仕方ない!
窓のふちに手をかけ、四階の高さであるここから思い切って飛び降りた。あまり目立ちたくないがパソコンの為だ、これが一番早い!魔法を発動して地面に激突する衝撃を相殺する。シュタっという感じで無事に着地したあたしは、その勢いで三号棟の中を駆け抜ける。
「…視えた!」
アモン先生は工房に入ろうとし、扉を閉めようとしているとこだった。そこを何とかするために、何故かごみ箱の上に置いてあった空き缶を魔法で飛ばして扉の隙間に挟ませた。
「…?」
「先生ストップ!!」
息を切らしながら、あたしは扉のふちに手をかけ、なんとか呼吸を整えた。
「…伊佐坂またお前か、相変わらずやんちゃだなぁ。どうした今日は?」
「ぜぇ…ぜぇ…、ちょっと…相談事が…!」
「相談?そんなに焦るような内容なのか?」
「そうでもないんすけど…、先生工房に籠ると出てこないじゃないっすか…!」
「うーん、まぁそうだな。集中してるし。」
「とりあえず中入れてもろていいすか…。」
「別に構わんが…もしかして伊佐坂も魔術工学に興味が___!」
「それはないっす。」
「…。ちぇっ、つまんねぇやつ。まぁいいか、入りな。」
「失礼しゃす。」
中に入ると、そこは魔境だった。
「いつも思うんすけど、このガラクタの山なんかの役に立つんすか?」
「え?立たんよ?」
「…、じゃぁなんでこんなの作ってんすか。」
「楽しいからに決まってるだろ?」
「はぁ。」
「いいか?魔術ってのは人の役に立つため生まれたものじゃない。人が役立たせるために生まれたんだ。」
「同じ事じゃないんすか?」
「全然違う。」
「…はぁ。」
「魔術ってのは、人の願いから生まれたものだと先生の師匠から教わった。魔術自体はプログラム的に組むことができるが、それだけでは魔術は発動しない。それではただの英数字の羅列でしかなく、そこらへんに転がってる本や看板の文字と大して変わらん。使う者の思いや願い、感情に呼応してようやく発動する。ただし、それらの源は人間の生み出したエネルギーを媒介にしている。そのエネルギーとは何か、わかるか?」
「全然。興味ないし。」
「そう言うな伊佐坂。エネルギーとは人間の生命そのもの、さらに言えば人はどうやって体を動かしていると思う?そうだ、微弱な電気信号だ。それらによって体の筋肉を動かし、呼吸し、心臓を鼓動させ、考えるという力を得ている。つまり願いとは脳から伝えられる微弱な電気信号が命令を出しているという事になる。電気信号により体を動かすだろ?そうすると体が温かくなる。もうわかるだろ?」
「…あの__、」
「そう熱だ!電気信号が熱エネルギーに変換され、熱は様々な事象を引き起こす。高温に熱したり、はたまた凍るほどの低温にしたりとな!伊佐坂はフレミングの法則は覚えているだろうか!」
「知ってますけどそれより…」
「電気と磁場とそれによる力の作用。熱は運動エネルギーと密接に関係しており、電気と熱による運動エネルギーの変換によって磁場が発生する、それらを応用してパワーアシストやエネルギー増幅が可能となったのだよ!魔術はその一端!人が最も効率の良い結果を生み出す為に作られたものなのだ!原理不明の魔法なんかよりよっぽど扱いやすいし理にかなっている!もちろん電気エネルギーそのものの増幅も可能だしそれが可能であるからして熱エネルギーも相当強力な出力で出すことができる!」
やっぱこの先生駄目だわ…、全然話聞いてくんない。
「だがな、ずっとこのような事をしているとエネルギーが無尽蔵に増え続けてしまう。…つまりは大爆発を起こしてしまうんだ。それらは犯罪へと転化されてしまうし、折角より良い未来の為に生み出された魔術がそんなことになっては誰もが悲しむ。そこで開発されたのが、
「あ、はい。」
「その機構を組み込む事により、人間に負荷が掛かり過ぎない程度の出力に抑え込むことができる。さらに言えば、この
「あ、はい。」
なんも考えてなかったけどなんか勝手に納得してくれてるからいいや。
「でー…伊佐坂は何しに来たんだったか?」
「やっとあたしの話を…、あのっすね、部活動をする上でPCが要るようになったんすわ。」
「んだ部活の事か…、勝手にやってりゃいいだろ。」
「まぁそういう約束なのは知ってんすけど、予算の都合上PCとかその他諸々用意できないんす。この年じゃバイトも無理ですし…。アモン先生機械工学科だから余ってるPCとかもってないかなぁと。」
「おい、魔術が抜けてるぞ。」
「…魔術機械工学科の先生なら何とかしてくれないかなと。」
「なるほどな、無理だ。」
「…。」
「一応学校に置いてあるものは全て政府の管理物なんだよ。勝手に渡すことはできんのだよなぁ。」
「そこを何とか。」
「無理だ。」
「おっぱい揉んでも良いっすから。1揉み5000円でどうっすか?」
「馬鹿野郎、教官なめんな。」
「すいやせんした。」
「俺はロリコンだぞ?ツルペタ幼女になってから出直してこい。」
「知ってましたけどワンチャンあるかなって。」
「ねぇって。」
「…。」
さてどうしたものか、っていうかこのガラクタも政府の持ち物なのか?それって職権乱用じゃね?
「一応言っておくが、このガラクタは俺個人の予算から出してるものだ。この場所の占有権も学園統括に許可も出して契約書もある。」
「あ…そうなんすね。」
「聞きたいのはそんだけか?ならさっさと部活に戻りな。」
「うー…。」
「…。」
「…。」
「…どうした戻らないのか?」
「そりゃぁ…まぁ…。」
「駄々捏ねても無理なもんは無理だ。」
どうしようか…パソコンが無いと部活が出来ない。部活出来ないと活動報告が上がらず廃部になってしまう。廃部になればOB/OGの先輩たちに申し訳が立たない。一体どうしたら…。
「よぉアモン先生、今日もよろしく頼む…あぁ!?伊佐坂じゃねぇかゴラァ!!んでここに居やがる!」
「あ…面倒な先輩。」
「どうした
「知り合いなんてもんじゃねぇ…こいつぁこの俺、学校一最強番長の俺を二度も虚仮にしやがったんだ!」
「まぁたしかに虚仮にはしましたけど…。一方的に突っかかって来て困ってるんすよねー。」
「なんだ只の友達か。」
「いや違いますけど。」
「おい…、ここであったが百年目。一回表出ろや。」
「え、ムリ。」
「あぁん!?」
「いやだって、あたしにメリットないし…。争う意味もないし。」
「俺の魔術を馬鹿にされたままで引き下がれるかよ…!勝負だ勝負!」
「魔術を馬鹿にされた…?それは聞き捨てならんな。」
「あれ?」
「魔術は素晴らしものだ。それを馬鹿になど…許せんな。」
「アモン先生?」
「先生ならそう言ってくれると思ったぜ!魔法より魔術の方が上だと、今からそれを証明してやらぁ!」
「待て夢幻、今のお前の装備じゃ伊佐坂の魔法に敵わん。」
「…あぁ!?」
「だから今から俺が最高の装備を制作してやるよ。全身フル装備のやつをなぁ!」
「…。…マジかアモン先生!やるじゃねぇか!」
「いやだからあたしは…。」
「伊佐坂、今日は帰れ。明日また担任を通して連絡する。」
「そうじゃ無くて、あたしにメリットがな…あ、そうだ先生。」
「どうした?さっさと帰れ。」
「いや聞いてくださいよ。このままだとあたしだけ損じゃないっすか。なんでそのよく分かんない流れ引き受ける代わりに一つお願い聞いてもらってもいいっすか?」
「なんだ?」
「パソコン買ってください!!」
「…無理だって言ったろさっき。」
「じゃぁフル装備の先輩に勝ったらご褒美にパソコン買ってください!!」
「んだと!?アモン先生の魔術と学校一最強番長の俺が掛け合わさってんのに勝てると思ってんのかあぁん!?」
「パソコンの為なら勝つ!!」
「…なるほどな、わかった約束してやる。まぁ勝てる訳ないけど。」
「言質取りましたっすよ先生!」
「ちょっとまて、言質じゃ確実性がない。今から誓約書作るから10分だけ待ってろ。」
「え?いやそこまでは…。」
勢いの失速したあたしをほっておいて、アモン先生は何やら教官用のノートPCに、手慣れた手つきで文章を打ち込み始める。すると途中で何かに引っ掛かったのか、パタパタとなっていた打鍵音が止まってあたしの方へ振り返りこう言った。
「そうだな…魔術を馬鹿にした代償に、伊佐坂お前が負けたら部活動は解散だ。」
「…はぁ!?」
「アモン先生!こんな案はどうだ!魔術機構をこの部分に組み込んで、エネルギーの余剰をこのチャージデバイスに蓄えでだな…。」
「おぉ!流石は学年主席!素晴らしい構想だぞ夢幻!」
「ちょっ、勝手に決めるなし!」
「これは顧問権限だ。なんだったら顧問辞めて部活動として強制的に成り立たなくしても良いんだぞ?部活動における顧問の兼任はNG。他の教官は各部活動へ既に登録済みだからな、空いてる先生なんぞ居ない。あぁどうするよ?」
「…っ!汚い…!!」
「汚いんじゃない、これが大人の知恵だ。…あのな伊佐坂、誰にだってプライドはある。俺は魔術が好きで、何なら魔術に人生を変えてもらった側の人間だ。よく分からない世界に飛ばされて尚、この魔術の知識と技術だけは俺の人生を救ってくれたんだ。それを馬鹿にされたと分かって穏やかな心で居られるやつがいるのか?」
「だとしても…!」
「そう、だとしてもだ。お前も大切なものを護りたい、創っていきたいと思って向いてもいない部活の部長やってんだろ?だったら互いのプライドを掛けてぶつかるしかない。」
「…。」
子供の我儘VS大人の遺憾。
お互いめちゃくちゃな事を言い合ってるが、どちらかと言えばあたしの方が棚ぼた狙いのギャンブルに近い。反対にアモン先生の方は筋を通して喧嘩しようとしている。本当はパソコン一つに懸けるようなものではないと理解しているのだが、子供であるあたしはそうするしか方法は残されていなかったのだ。
「ほれ、誓約書だ。俺のサインと印鑑を捺印した。これは効力を発揮するには十分な代物だぞ。」
これを受け取ってしまえば、下手したら部活自体が無くなってしまう可能性がある。だが上手くいけば欲しいものが無償で手に入り、今後の活動の大きな一歩を踏み出せる。
…あたしの取った答えは___。
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