生き残った人類は私たちだけ
淫魔の腹の上で死んだ勇者の紋章が淫魔のおへその上に移っている。
何を言っているのかは自分でもわからないが、実際そうなのだから仕方がない。
「どうしよう、お兄ちゃん……あの変態の力なんていらないよぉ……」
お兄ちゃんとは俺のことなのだろうか。
というか、流石は淫魔なだけあって、羞恥心が薄い。全裸で俺におへそを突き出しているのだ。まじまじと見てしまうのは男の性だろう。
「いてぇぇええっ!?」
腹部に激痛を感じ、隣を見てみると、ナイフで俺の腹を刺したアリアが、ジト目で俺を睨んでいる。
「や、やめろ、死ぬ」
「大袈裟ね。目を狙わなかっただけマシでしょう?」
何がマシなのかはわからないが、アリアはそう言ってナイフを引き抜いた後、回復魔法を唱えた。
「ひ、ひぃ!?」
目の前で見ていた全裸の淫魔がドン引きしている。怯えた様子で俺を盾にして隠れた。
全裸の淫魔が俺を盾にする。
つまり色々とエッチな事になっている。
でも、俺は鼻は伸ばさない。
そんな事をすれば、またアリアに刺されるから――。
「いてぇ!! な、なんでだ!?」
回復中だった腹を、もう一度刺された。
「なんとなく気に食わないからよ」
理不尽すぎる。
「おい、アリア。いい加減にしろよ」
「ふん。イヴの隣で他の女に色目を使うアダムが刺されるなんて当然じゃない」
「それは言いがかりだ。そもそも、俺とアリアは付き合ってないだろ」
「……え?」
アリアが驚いた表情を浮かべる。
「あ、あなた……生き残った人類は私達だけなのに、この期に及んで私に手を出さない気なの?」
「勝手に人類滅亡させてんじゃねーよ」
俺のツッコミを無視して、アリアがナイフをぐりぐりする。
「し、死ぬぅ……」
「愛してる、アリアって言いなさい」
「あ、愛してる、アリア」
「そう、私も愛しているわ。ケイト」
俺の名を呼んで、にっこりと微笑んだアリアは、ナイフを引き抜き回復魔法を唱える。
「お、お兄ちゃん……大丈夫?」
心配そうな顔をする淫魔を安心させる為、笑顔を作って言う。
「大丈夫、いつもの事だ」
「余計悪いよぉ……」
泣きそうになりながら、淫魔がそう言った。
その後、服を整えて話し合いを再開する。
「まずは状況を整理しましょう」
アリアの言葉に俺達はうなずく。
「その子……ええと、名前は?」
「リリです!」
しゅばっと手を挙げた淫魔は元気よくリリと名乗った。
「リリがリットの精気を奪い取って殺したって事かしら? それで合っているなら、とりあえず、このナイフを刺しておこうかと思うのだけど」
「ひぃっ!?」
取り出したナイフを眺めるアリアを見て、リリは震えながら俺の方に振り向いた。
「お、お兄ちゃん……」
「あ、ああ、任せろ」
助けを求めるリリの声を聞き、俺は立ち上がった。
「まて、アリア。話せばわかる。落ち着いてくれ」
俺は両手を広げ、アリアに歩み寄る。
「リリが最初に手を出したのだとは思う」
俺がそう言うと、アリアはもう一本ナイフを取り出した。
「ひ、ひぃぃ!?」
「最後まで聞いてくれ! 少しだけ精気を奪うつもりだっただけなんだ! そうだろ?」
リリはぶんぶんと首を縦に振る。
「それが本当なのだとしたら、何故リットは死んだのかしら? 筋が通らないじゃない」
「精気には微量ではあるが魔力が含まれている事は知っているだろ?」
「ええ……」
「本来は無いにも等しい量の魔力だ。だが……リリが狙った相手はリット……勇者だった」
魔力保有量が人類最上位の勇者を、そうとは知らずに淫魔がちょっかいを出してしまったが故に起きた悲劇。
「リリの意思に関係なく、実体化するほどの魔力を得てしまったんだ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい。リリが実体化した理由はそれで説明できるとしても、リットが死んだ理由にならないじゃない」
それはそうだ。淫魔が実体化するほどの魔力とは言っても、勇者リットにとっては微々たるものだ。死ぬ事はおろか、体調の変化すらないだろう。
問題は、実体化してしまった淫魔を、その手に握った聖剣ではなく、お股でぶらんぶらんしている方の聖剣で迎え撃ってしまった事だ。
「言っただろう、腹上死だって……」
「でも……どうして……」
俺は俯いて言葉に詰まる。
思い当たる節はあるのだ。だが、それを言えば……アリアに刺されそうだ。
「あなた……理由がわかっているのね。言いなさい。どんな理由でも怒ったりしないから」
アリアの慈愛に満ちた笑みを見て、俺は意を決して言った。
「前の街でおっぱぶに行ったんだ。その……息抜きで。童貞の俺達には刺激が強すぎた。それで、女体にのめり込んでしまったのだと……いてぇっ!?」
精神的に限界だったリットを、死ぬまで腰を振るほど女体に依存させたのは、おっぱぶに誘った俺だ……。
その罰なのかは知らないが、表情を失ったアリアに二本のナイフで腹をぐりぐりと抉られた。
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