木をくり抜いてスライムを詰め込むのはセーフ
「リットが死んだのは、おっぱぶのせいだというのはわかったわ。そんな危険な場所は未来永劫立ち入り禁止でいいわね?」
「え? いや、直接の死因はおっぱぶじゃな――いってぇぇええ!?」
今日はいつもより、アリアのナイフで腹を刺す頻度が高い気がする。
「おっぱぶのせいだなっ! この野郎め!」
アリアの機嫌を損なわないように、慎重に発言する事にしよう。今日はナイフの安売りデーだぞ!
「未来永劫行かないと誓いなさい?」
「み、未来永劫……」
あの天国を味わえないのか……。
「ふぅん」
「未来永劫行かないと誓う! この命に賭けてだ! だから、そのナイフは仕舞ってください!」
俺の誓いを聞き、ニッコリと微笑んだアリアが言う。
「未来永劫アリアを愛すると誓いなさい」
「え……? やだよ」
結婚なんてすれば、俺は今以上にナイフに怯える生活になるじゃないか。
表情を失ったアリアが懐から三本目のナイフを取り出す。
「この反り返り、凄いと思わない? 引き抜くのではなく、引きちぎるように設計されたナイフなの」
「未来永劫アリアを愛すると誓います」
「ふふ。よろしい」
アリアは嬉しそうに笑いながらナイフを納めた。
「婚約が済んだところで、話を進めましょうか。一体なぜ、リリちゃんのおへその上に勇者の紋章が移ったの?」
「それは……」
俺にも予想がつかない。
「リリ、わかるか?」
俺の声にビクッと体を震わせたリリは、ゆっくりと口を開いた。
「わからない……わからないよぉ。すぐにでもあの変態を忘れたいのに、紋章と、それに変態の記憶まで私に薄っすらと流れてきてて……」
「記憶? どんなのだ?」
「き、木をくり抜いて、そこにスライムを詰めて、腰を振ってるの……」
「オーケー、オーケー。やめにしよう。プライベートは尊重するべきだ」
人には言えない秘密の一つや二つ、誰にでもあるさ。
「そうね。リリちゃんはもう寝ていいわ。疲れたでしょう?」
「うん……」
相当疲れていたのか、アリアの言葉を聞いたリリは、目を擦りながら欠伸をした。
リリを寝室に案内した後、俺達は話し合いを再開する。
「おっぱぶは許さないけど、木をくり抜いてスライムを詰め込むのはセーフにするわ。私も鬼じゃないもの」
「やめてやれ……死人に鞭を打つな……」
リットよ。お前は何でこう……性欲の発散が下手すぎるんだ。
いや、わかる。わかるよ?
リットが勇者に選ばれ、村を出た頃なんて、同年代は皆童貞だった。
もちろん俺もリットも童貞だ。
そして、そのまま戦いの中に身を置いた俺達には童貞卒業の機会はなかった。
魔王討伐の旅も軌道に乗り、それに浮かれて気を抜いた俺達が向かったのが、件のおっぱぶだ。
最高だった。女体に強い憧れを持つのもわかる。
だが、それでも……。
木をくり抜いて、スライムを詰め込み、女体がわりにするなんて、凡人の俺には理解できないよ……。
「えーと……どうする?」
リットの名誉の為に行った、俺の雑な話題変更にアリアは思っていたよりも大きな反応を見せる。
「あ、あれ――」
アリアが指差した先を見る。
「聖剣じゃない」
「聖剣だな」
もう、意味がわからない。
なんで、勇者しか持ち運ぶことができないはずの聖剣が、当たり前のようにここに転がってるんだ?
「ケイト……あなたが運んできたわけではないのよね?」
「違うさ。俺じゃ聖剣は運べない」
試しに転がっている聖剣を持ち上げようとしたが、やはりそれは叶わない。
アリアも同様に試したが、聖剣が応える事はなかった。
「元からここに転がっていた、とか?」
「いや、リットが腹上死してる側で転がってるのを見たぞ……」
「……という事は」
アリアは少しだけ考え込んで、結論を出した。
「リリちゃんね。運んだのは」
「いや、まぁ……状況から見てそうなんだろうが、淫魔が聖剣か……」
聖剣とは勇者にしか持つ事すら叶わない武器であるはずだが……。
「一応聞くわ。勇者の紋章を移す方法はある? リリちゃんから、あなたや私にね」
「……わからないな」
「そう。じゃあ、仕方がないわね」
アリアは俺を見つめながら言った。
「紋章が移ったせいで、勇者の力まで移ってしまったのは明らかだわ。とんでもないイレギュラーだけど、これはチャンスよ。リリちゃんを勇者として支えましょう」
「淫魔が勇者かぁ……リリが納得してくれるかな」
リリは勇者に嫌悪感を抱いている。そんなリリを説得するのは骨が折れそうだなと、転がる聖剣を見つめながら思った。
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