第4話 K・ファンタジー・オブ・ザ・イヤー
年末のトラック運送の激務に俺は疲れていた。
やっと取れた正月休みもたったの3日間だ。
だが自由な時間があるというのは嬉しいものである。唯一の趣味であるWEB小説を読むために俺はPCに向かう。
そこで俺の目に飛び込んで来たのがこれだ。
― 2023年度 K・ファンタジー・オブ・ザ・イヤー ―
昨年発表されたファンタジー作品がなにやら表彰されているようだ。これは読まないといけない。俺は義務感に近いものを感じ早速読む事にした。
実をいうと小説を書いてみたいと密かに思っているのである。あわよくば小説で食っていけたらどんなにいいか。まぁそんな簡単な世界ではないだろうけど勉強するに越したことはない。
大賞をとったのはこれだ。
タイトル
『俺の妹が婚約破棄されたので異世界に行ってソムリエになりました』
キャッチコピー
「妹を陥れた女の血をワインに混ぜて魔王に献上する俺はソムリエ」
あらすじ
「読めばわかる」
いや、確かに、読めばわかるだろうけど。なんとも不親切な説明だがこれでも大丈夫なら俺でも書けそうだなと変な自信がついた。
本文に入ろう。
一話目を開いて俺は文字数にひるむ。画面が黒い。ぱっと見、漢文で書かれているのかと思うくらい漢字が多くて閉じてしまいたい。が、プロローグと章タイトルがついたそれをぐっと我慢して読んでみる。
異世界ファンタジーにしては文章がやけに硬い。兄と妹がイチャイチャする内容を純文学のような文章でしたためてある。ある意味これは才能といっていいだろう、俺には書けない。
俺は兄妹のどうでもいい日常を3万文字くらい頑張って読んだ。
硬くて長いプロローグの後に『面白かったら★お願いっ(´∀`*)ウフフ』と書いてある。本文とのギャップが凄い。
2章目からはお約束通りに異世界に転生するのだがタイトルもキャッチコピーも何もかも関連のない、なぜかスローライフのソムリエ生活の話になる。そしてずらずらとワインの銘柄とそのうんちくが2万文字くらい書いてあった。
コメント欄はワインの話で盛り上がっている。
もう続き読まなくていいよな、俺、頑張ったよな。
これは本当に2023年を代表するファンタジー作品なんだろうか?
俺は大いに疑問がわいたのでもう一度トップページに戻って確かめてみた。
するとそこには
― 2023年度 K・ファンタジー・オブ・ザ・イヤー ―
(クソファンタジーオブザイヤー)
クソ
???
Kとはクソの意味だった
選評とレビューはこうだ
★存在する必要がない
★読むものを凍りつかせるギャグが満載
★文字が詰まり過ぎて目に悪い
……
★★よくできたホラー
……
★★★ワインの勉強になる
総評
カテゴリーエラーです
こうして俺の正月休みが終わった。
俺はトラック運送を頑張ろうと思った。
※このお話しはフィクションです
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