聖女様とデスゲームの終わり

 鬼を討伐した聖女プリン・アラモードと宗麟は遅れていつもの教室に戻ってくる。二人の姿がない事に心配していたクラスメイト達は二人が戻ってきて安堵する。初対面とはいえ命の恩人。


「あの、プリンちゃん」

「はぁあああ? 誰がプリンちゃんだこらぁ!」


 と噛みつくが、その神がかった容姿。そして心地よい声から発せられる汚い言葉の数々はむしろ聖女プリン・アラモードの付加価値として、定着する。そして宗麟のとても雑な説明、。


「まぁ、あれや。ワシが魔王呼び出そうとした儀式の最中になんでか異世界の聖女サマ呼び出してもうた感じや・面倒くさい事になるから、この事は黙っとけや」


 と言う宗麟、普段いつもつまらなさそうにしているクラスメイトの宗麟がなんとも嬉しそうに聖女プリン・アラモードについて語るのでそれもまた少しばかり面白かった。なにわともあれ、聖女プリン・アラモードのおかげで誰一人死ぬ事なくここで再開できた。クラスのお調子者の男子生徒が尋ねる。


「二人はなんで遅かったんだよぉー」


 と、それは二人でいちゃこらしていたのかぁ? という流れにもっていき、場を和ますつもりでいたのだが、もちろん二人が遅かった理由はデスゲームを行った元凶を消滅させてたからに他ならない。


「あれや、あのクソ人形がむかついたから聖女サマがしばきに行くいうから行って真の姿の鬼がいたからそれをぶち殺して戻ってきた? みたいな感じや」

「あのクソオーガが最後に命乞いしたの笑えたよなぁ?」

「ほんまウケたわ」


 そうげらげらと笑う。生涯あれ以上に恐ろしい目に逢う事はあるのだろうか? 聖女プリン・アラモードは適当な机の上に座りながら「ところで飯の準備まだかよ? なぁソーリン?」というので、時計も見て、宗麟は「せやな、じゃあちょい早いけど食堂いこか?」と聖女プリン・アラモードをつれて教室を出る、それにクラスメイト達もぞろぞろとついていく、まさに聖者の行進、というにはガラの悪い二人が先頭を歩いているわけだが、一蘭台学園の巨大な食堂を見て聖女プリン・アラモードが見渡して、この世界はじめての驚愕の表情を見せる。

「大礼拝堂よりもでかいな。ここが食堂? 冗談だろ? 一体どれだけの食材が運び込まれてんだよ? は?」


 きょろきょろとあたりをみわたして、宗麟をじっと見つめる。すると宗麟は胸に手を当てて、わざとらしく、もう片方の手でエスコートするように差し出す。そんなキザな演出は宗麟だからできるとも言えるのだろう。平均よりも高い身長。超がつく程の美少女である聖女プリン・アラモードと並んでも恥ずかしくない自信に満ち溢れた表情とまた平均以上の容姿。それが聖女プリン・アラモードもお遊びであるという事を理解した上で、宗麟の手を取る。そんな姿に憧れと羨みを含んだ表情で見つめる女子生徒、あんな美少女相手に怯む事なくぐいぐい対等に付き合える宗麟に男子としての格の違いを見せつけられ閉口する男子生徒。


「ほななんでも頼んでくれや! ちなみに、この食堂のおススメはカツカレーとハヤシラーメンだ」

「ほぉ、んじゃとりあえずそれ二つ」


 そんな二人と並ぶ事ができない事はクラスメイトの皆はなんとなく理解していた。けど、それでも二人の背中が見える距離くらいにはいたいと一人の男子生徒が「じゃあ、俺がプリンちゃんの食券かってくるよ!」と「おい。誰がちゃんだ! 誰が!」と反応されただけでその男子生徒は目を輝かせる。宗麟はまさかドエムなのかと考えたが違う。異世界からやってきて地球や日本の神々すらも魅了する聖女プリン・アラモードのカリスマというべきなのか狂暴な魅力。男性からも女性からも愛されるそれはとりあえず宗麟のクラスの生徒全員を信者にしてみせた。


「プリンちゃんおまたせー」

「てめぇら、私の事を好き勝手呼んでくれやがって、覚悟できてんだろうなぁ? ああ?」


 と吠える聖女プリン・アラモードの前にカツカレーとハヤシラーメンが運ばれてくる。その匂いを嗅いで、「うまそうな匂いがしてやがんな」と正直な感想。そしてカレーライスから、言葉遣いとは裏腹に、クラスメイト達は普段の食事の仕方が恥ずかしくなるくらいに品がある聖女ラムの食べ方。



しかし、ラーメンを食べる時に聖女ラムは止まる。


「……これ、どうやって喰うんだ?」


 ととぼけたわけじゃないが、ラーメンという物を知らない聖女プリン・アラモードのきょとんとした表情にクラスメイト全員が打ち抜かれた。宗麟は割りばしを持つと「ほな、ちょっともらうで、こうして食うねん」とずるずるずるとラーメンをすする。


「なんか下品な喰い方だなおい?」

「聖女サマ、これは利にかなった喰い方なんやで、スープとからめて空気も取り込んで、味覚嗅覚、聴覚すべてを使って喰う料理や。というか、それがラーメンの喰い方マナーやけど、こういう喰い方もある」


 蓮華を使って食べる方法を見せる。それを見て聖女プリン・アラモードはすするという食べ方ではなく蓮華を使う食べ方を選択。


「これもうめぇ! 教会のクソ共が作った料理もどっかの王国の宮廷料理もクソに思えるくらい美味いな」


 上品に口元をふく聖女プリン・アラモード。リップをつけているわけでもないのにプルプルの唇にクラスメイト達の視線が集まる。食べ物がなくなると、「もう終わりなのか?」と少し物足りなさそうにする聖女プリン・アラモードを見て、クラスメイト達は我先にと食券を買いに行く。聖女プリン・アラモードはクラスメイト三十人の命を救った、三十人分食べる権利があると言っても過言ではない。そして運ばれてくる学食のメニューをそれぞれ上品に胃に収めていく。


「しかしそんだけ食べても太らへんのは栄養全部胸にでもいっとるんかぁ?」


 とデリカシーのない事を宗麟が言うが、「しらねーよ。が、私は神々の加護があるから太るという事はないだろうな。神々は私の姿をこのままとどめておきたいらしい。あのクソ神共。かってしてくれやがる」と全ての女性が羨むであろう事をさらっと言いながら、デザートのチェロスを美味しそうに齧る。聖女プリン・アラモードの胃が落ち着いたのか、ティータイムに入っている中、他の生徒達もランチタイムで集まってくる。そうなるとこの学食は戦場となる。メニューの売り切れも多発するし、購買のパンも同様に販売終了する。聖女プリン・アラモードが美味しそうに食べている姿に見とれて宗麟のクラスメイト達は自分のランチを買いに行くのを忘れていた。そんな中、宗麟は焼き魚定食を持って聖女プリン・アラモードの隣の席に座った。


「どや? 聖女サマ、気に入ってもらえたか?」

「ソーリン、どれもクソ美味いじゃねーか。気に入ったぜ」

「そりゃよかったわ」


 と宗麟も食事をはじめる。クラスメイト達も食券や購買パン競争に身を投じてる中で宗麟が次は心霊スポット巡りでも提案しようかと思ったところ、聖女ラムのチェロスを食べる手が止まる。その視線の先には、ギャルと普通の生徒と、髪の毛が青いこれまた美人の生徒。お皿にチェロスを置くと、「ソーリン、あの青頭。化け物だぜ! 私が食事する所に来て殺されてーんだろうなぁ!」と走りこんでいく。


「おらぁ、化け物死ねぇえ!」


 ととびかかる聖女プリン・アラモードに「やべぇ、さすがにここはまずいやろ聖女サマ」と聖女プリン・アラモードを追いかける。聖女ラムがぶん殴ろうとした時、青い髪の少女は気づいて構える。


「ヘイトちゃん!」

「ちょ、何この子、ヤバくね?」


 と青い髪の少女を心配、聖女プリン・アラモードをヤバい奴認定するギャルの声。その拳がヘイトと呼ばれた少女の頭をぶん殴ろうとした時、ぴたりと手が止まる。宗麟は何か奇跡が起きたなと思いながらもめごとが起きそうなそこへたどり着く。縮地法でも使えるのかという聖女プリン・アラモードの速度。しかし、化け物と認定した相手を何故聖女プリン・アラモードが襲わなかったのか?


「おい青頭。てめぇ、人間か? 化け物か? どっちだぁ?」


 睨みつけている聖女プリン・アラモードに一番普通な女の子が「えっと、ヘイトちゃんは」

「てめぇに聞いてねぇ! 青頭。お前が答えろ」「私は人口精霊。お前が私を屠るというのであれば静かに滅んでやる。この二人には手を出すな」そう死ぬ覚悟をするヘイトにギャルの少女が「は? ヘイト。アタシがいるからこんな変な子やっつけたんよ」とヘイトの前に出て守ろうとするが、ヘイトがギャルの肩に触れると「ダメだ玲奈。こいつは……魔王様級。私達が束になってもかなわない」


 聖女プリン・アラモードが強者であると見抜いたヘイト。聖女プリン・アラモードは無抵抗の人間に手を出す事はしない。が、このヘイトは人間以外の物が随分混ざっている。と言ってもキメラというわけもない。粛清対象なのかどうか決めかねていたが、先ほどこのヘイトの口から出た言葉。


「魔王、だとぉおお? 今、そう言いやがったか?」

「なんやて? 魔王? まさか魔王おるんか? 何処や! どこにおるんや?」


 女子生徒三人は、もう一人ややこしそうな生徒が乱入してきた。それもこの二人は知り合いらしい。魔王という言葉に反応した二人。そんな二人にマウントを取るつもりなのか、玲奈と呼ばれたギャルの少女は、


「ウチら、魔王様の家来なんだけどぉー、この外国の子。向こうさんの霊能力者かなんかでしょ? はっきり言って魔王様の力の前にはこの子でも絶対ワンパンで終わるしぃ」


 と聖女プリン・アラモードを煽る。君では魔王を倒す事はできないと。「なんだとぉ、このクソあまぁああ!」と怒りを露わにさせた。一旦収まったのに、これは……大変な事になりそうだ。と皆が思ったところ、一番普通の少女は「あの、アイス食べない? みんなで」と言って近くのコンビニまで買ってきたであろうアイスがいくつか入っている。ビニール袋を見せる。


「あぁ? アイス? んだぁそれぇ?」


 もちろん食べた事のない聖女プリン・アラモードは興奮気味にそう言うが、アイスを見せてくれた女子生徒は「私は火乃兄凛子、色々あるけど食べた事ないなら、このお餅のアイスがおススメだよ」とペロリと上ぶたを剥がして、付属のようじでアイスを切ると「はい、アーン」と凛子に言われて口を小さくあける。そこにお餅のアイスを入れてもらい、しばらく租借する聖女プリン・アラモード。


「うめぇええ!」



 一触即発の状態を凛子はアイス一つで鎮めてみせた。なんというか凛子からすると見ず知らずの外国の女の子、聖女プリン・アラモードはなんだか小さい女の子のようで可愛らしく思えた。一口大の大きさに果汁をたっぷり入れたアイス、モナカのアイス、バニラアイスと次々味わい、上品に口元を拭いた聖女プリン・アラモードは凛子の肩に触れると、


「神よ神。我らが光をお与えになる者よ。その優しき光でかの者をとこしえに守り給え、アークライト! お前、化け物に狙われやすそうだから、私の加護をかけておいた。あいすの駄賃だ」


 そう言って、聖女プリン・アラモードは食堂から満足気に出ていく。お腹も一杯になったし、眠くなってきたのだ。ベットと毛布のあるオカルト同好会の部室に昼寝をして、目が覚めたら魔王をぶち殺しにいこうかと欠伸をして眠そうに歩む、後ろから自分を呼んでいる宗麟の声に反応するのも億劫なくらいに、眠い。

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