第四の神威 聖女様VS暴鬼

「おーい! 人形の化け物! 戻ってきたでー! ほら、宝物とかいう、よーわからん手や!」

 

 クラスに到着するとどさっと手を放り投げる。そして聖女プリン・アラモードは適当な机に腰掛けると、「おい、ソーリン。このグズ共生き返らせていいのか? なぁ?」と聞くので「ちょい待ち、あの人形の化け物が出てこーへん。ちゃんとゲームクリアの言質を取らせたいから奴が出てきてからやな」

 

 教室でしばらく待っても出てこない、スマホで時間を確認し、宗麟は「タイムアップ狙って出てこーへん可能性もあんな。聖女サマ、クラスの連中。生き返らせたって!」

「しゃーねぇーな。オメガ・リザレクション!」

 

 倒れていたクラスメイト達が次々に目を覚ましていく。今の状況を思い出し、デスゲームを宗麟と聖女プリン・アラモードがクリアしたことに歓声が響く、中には泣いている者もいた。

 

「おい、お前ら! 今回のわけのわからん出来事、救ってくれたんわ、ワシのマブダチのこの聖女サマのおかげや。まぁ、見ての通りとんでもない力を持っとる。そこでお前ら、聖女サマに学食奢ったれや? 命救ってもらってんから安いもんやろ!」

 

 動画配信でお金を作ると言っていた宗麟、それが実際に儲かるかどうか分からないのに宗麟は聖女プリン・アラモードの食事の保証をここで確約させてみせた。それにくくくと笑う。

 

「すごいねみんな! すごいねみんな!」

 

 クラスメイト達が怯え、一箇所に集まる。そんな中全く動じないのが聖女プリン・アラモードと宗麟。「おい! ゲーム終了やで! はよワシら元の世界に返せや」と宗麟が進めると、

 

「その腕……火乃兄の役目に落とされた物。ようやく戻ってきた。頭、両目。上半身、下半身、左足、右足、左腕、そして右腕……全部揃った」

 

 と人形の化け物は語り出すので、

 

「あぁ? 何言ってんだテメェ!」

 

 と噛みつく聖女プリン・アラモードに対して宗麟は足を組みながら、ケラケラと笑う。この人形の化け物が説明しようとしている事を先に語った。

 

「要するに、この化け物が始めたデスゲームの真の目的は自分の復活ってとこやろ? で、このデスゲームで人間殺すのは復活する為の生贄の儀式かなんかやろうな。で今回でようやく復活できるようになったと……、そんなとこやろ?」

「そうだよ。長い年月、身体を集めさせた。裏切らせて大勢の命を生贄にして、今回は誰一人殺せなかったのは誤算だったけどね。いいよ、今回は全員助けてあげる。身体が全部揃った前祝いだよ。帰ればいい。次会った時は、ここいる命。全部喰らってあげるよ」

 

 とクラスメイト達と共に元の世界に戻ろうとしている中、腕を組んで考えている聖女プリン・アラモード。宗麟を見つめる。

 

「なんや聖女サマ? 気に入らんのか?」

「このクソ化け物、私を見逃すとかほざいてなかったか?」

「おぉ、ほざいとったほざいとった! 俺は聖女サマのしたいように付き合うで?」

「ソーリン、テメェに言われなくてもこのクソぶち殺すのは私の中で決定事項だ。でもいいのか? 戻れなくなるかも知んねーぞ?」

「それ、俺に聞くんか?」

 

 聖女プリン・アラモードはなんの躊躇もない表情をしている宗麟を見てへっと笑った。宗麟の手を引きぐいっと自分の側に寄せる。二人は悪い顔で見つめ合う。そして聖女プリン・アラモードの力で強制転移させられている身体が止まる。そして、デスゲームの行われた校舎に残った。

 

「あのクソ化け物、何処いった?」

「聖女サマ、あーいうのは大概一番上におるんがボスキャラの風情っちゅーもんや! 要するに屋上な」

「なんだよそれ、マジで上にいたら笑えんな!」

 

 ケラケラ笑いながら二人は歩む、そして屋上の扉を聖女プリン・アラモードは蹴り破る。異世界の聖女といえば、誰にでも慈悲深く、邪悪に対して神の威光を示すような人物像なんだろう。正直、鳴宮宗麟という人間は1ミリも興味がなかった。宗麟の興味は怪異や妖怪、モンスター、宇宙人などのクリーチャーの類。されど、宗麟の前には聖女が魔王召喚の呪文でやってきた。驚く事に彼女は魔王の如き気性の持ち主の聖女だった。

 そうなってくると話は変わってくる。見た目は水色の髪をした。どすけべボディの美少女かもしれないが、宗麟からすれば彼女は完全に怪異の類に片足を突っ込んでいる。

 そう、魅力的なのだ。

 

「な? 聖女サマ。おったやろ?」

「ふははははは! クソ化け物! まじにいやがった!」

 

 人形の姿は仮の姿だったんだろう。そこには赤い身体をした巨人。ハンマー男爵の3倍はありそうな身の丈。仮面をつけた顔に額からは長い角。その姿を見て宗麟と聖女プリン・アラモードは同時に違う名前を呼んだ。

 

「鬼やな」

「オーガか?」

 

 その言葉を聞いてその巨大な鬼は振り返り、地面に降ろしていた金棒をゆっくりと掴んで持ち上げた。宗麟、そして聖女プリン・アラモードを見る。

 

「何故戻ってきた? せっかく生き延びれたというのに?」

「寝言言ってんのか? テメェをぶち殺しにきたんだろ? びびってんのか?」

 

 ぶち殺すという言葉を聞いて鬼はグハハハハハと笑う。そんな鬼に聖女プリン・アラモードは「何笑ってやがんだ! クソ化け物がぁ! セイクリッド・フレア!」と魔法を放つ。そして驚くべき事が起きた。聖女の魔法を受けてもバチばちと火花が散り、鬼には効かなかったのだ。

 

「ああ? なんで死なねーんだよテメェ!」

「先ほどの遊戯の時に滅した者達と一緒にされては困る。上級鬼が一つ、暴鬼。並の化け物共と同じにされては困る。そして、それを知らずして戻ってきた貴様ら愚かな人間はここで贄にしてやろう」

 

 よいしょっとと座る宗麟。スケブを取り出すと、暴鬼と名乗った鬼をスマホで撮影しながら絵を描く。写生でもしにきたように、そして暴鬼の前で震える聖女プリン・アラモード。初めて命の危機を感じ恐怖している。と暴鬼は思っていたが、宗麟は違う。感性が同じ聖女プリン・アラモードであれば、

 

「私が死ねっつったら死ねよクソがぁああ!」

 

 怒りに打ちひしがれて震えていたのだ。そんな聖女プリン・アラモードに暴鬼は巨大な金棒を振り下ろす。普通は回避するところなのだろうが、聖女プリン・アラモードはその金棒を腕で受ける。潰されないのは魔法による身体強化、魔法防御によるもの……などではない

 

「その程度かよクソが? この世界の神々が私を守ってんだよ。神を殺せる程の力はねーのかよオイ!」

「スーパーチート級やな聖女サマ」

 

 力で押し切れないと知った暴鬼は手の中に暗黒の力を溜め込み、そしてそれを放った。ノーガードでそれを受けた聖女プリン・アラモードは吹き飛ばされる。給水タンクに直撃し、背中を強打した。「ヒール」と静かに回復魔法を唱える聖女プリン・アラモード。

 

「少しは効いたか? 小娘ぇ! お前は四肢をもいで永久に魂を捕らえてやる。楽しみにしておけ! 成仏もできず飴をしゃぶるように魂に激痛を与える苦悶」

 

 聖女プリン・アラモードの神の色がゆっくりと水色から変わっていくのを宗麟もようやく気づいた。綺麗な黄色、いや黄金色なのかもしれない。そして頭の中心部は黒、あるいは茶色に、まさにプリン色の髪色に変わった聖女プリン・アラモード。

 

「クソ化け物が私に何やってくれてんだ。ああ? たったそれっぽっちの闇属性攻撃を通したくらいで偉そうに、テメェ? この私を出したんだ。テメェの魂こそ簡単に天に還れると思うなよ?」

 

 ここにきて聖女プリン・アラモードの変化に興味津々の宗麟はお互いが見合っている最中なのに、質問を投げかけた。「聖女サマ、髪の色変わっとるで! なんなんそれ? パワーアップなんか?」と、眉間に血管が浮かび上がっている聖女プリン・アラモードは、

 

「これか? 聖女ってのは聖龍とかって奴が産んだもんなんだよ。それも全てのクソ化け物をぶち滅ぼす為だけに生み出されてんだよ。そん中でも私はクソ聖龍の力が色濃くでてんだと。興奮するとそいつの色に髪がかわんだよ。あー、この状態の私は凶暴だからあんまソーリンでも近づくなよ? 死ぬぞ?」

 

 普段も十分凶暴だと普通の人は言うかもしれないが、宗麟は違う。頭を抱えてくくくくと笑う。何故なら予測ができてしまったのだ。宗麟の知る聖女という者とどうやら相当認識の違いがあった。一瞬の人造人間に近いのが聖女という存在らしい。

 

「いくぞコラァ! セイクリッド神殺拳」

 

 ごうんと、暴鬼を殴り飛ばす聖女プリン・アラモード。負けじと金棒を振り下ろすが「ばーか! こんなクソ棒今更聞くかよ! セイクリッド・オメガフレア!」どろんと暴鬼の金棒が溶ける。そしてそれを握っていた手も聖なる炎に包まれて崩れていく。

 

「あぁあ! あああああ!」

「おい! 何年? 何十年? 何百年かけてその腕取り戻したんだぁ? おい! 無くなっちまったなぁ?」

「こんな事が!」

 

 それはもう、つまらない殺戮ショーだった。聖女プリン・アラモードの力は常軌を逸脱していた。悲鳴をあげる暴鬼。長い、長い年月をかけて……

 

「1000年だ」

「あぁ? んだぁ? クソが」

「1000年の時を生きたこの暴鬼が……」

「お前はここで消えんだよ。私の前で、祈りの時間も与えられずなぁ!」


 はぁとため息をつく聖女プリン・アラモード、暴鬼は「頼む、塚を作って祀ってくれ」と訴えるが、「私のクソ教会。ファナリル聖教会のクソ共は聖ファナリル以外を祀る事を認めてねーんだってよ。私はそんなクソ神もどうでもいいけどな。答えは嫌だね!」あっかんべーと今の世の中もう殆ど見られないそんなポーズをする聖女プリン・アラモードに最後の突進。

 

「クソォおおおお! せっかく復活できたのに、滅びたくねえぇええええ!」

「うるせえよ。消えろよカスオーガ!」

 

 聖女プリン・アラモードはちょこんと座ると祈りのポーズ。その瞬間だけはちょっと聖職者っぽく見えるが、開眼した聖女プリン・アラモードの喧嘩好き顔を見て、安心と安定の化け物を滅ぼす魔法が放たれた。

 

「究極の祈り・エイジスゴスペル!」

 

 腕を伸ばし一矢報いようとした暴鬼は爪の先ですら聖女プリン・アラモードに触れる事もできずに塵となって消えていく。そして周囲の景色が変わる。この化け物を殺すルートを取ると、帰って来れなくなるかと思っていた宗麟は、原因がいなくなれば戻って来れる。

 

「ゲームみたいな感じなんやな」

 

 と驚いた顔で二人を見つめるクラスメイト達の視線の中、教室に戻ってきた。

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