第二の神威 聖女様VSハンマー男

「へぇ、聖女サマの住んでる地域は五つの大きな国があるんやな。で、そん中の聖女サマはジェノスザインって国か」

「あぁ、ソーリン。そんな事聞いて何かおもしれーのか? おい?」

「おもろいに決まってるやろ! 魔法はある。と言うかそもそも異世界がある。そしたらなんかの化け物がいいタイミングでデスゲーム仕掛けてきよった。なんかワシ等をコマみたいに使うなんかがおるみたいやな!」

 

 てくてくと進む二人、全ての教室を虱潰しに探していては一時間では到底難しい。さらに、先ほどから化け物が次々に押し寄せてくるが、

 

「セイクリッド・デスフレイム!」

「おぉ! すげー」

 

 一つ目の怪物を焼き尽くし、宗麟に魔法の説明を簡単にしながら次に進む。何故こんなに呑気にしているのかというと、すでに聖女プリン・アラモードのサーチ魔法に引っかかっているのだ。保健室に宝物があるという事。それを回収してクラスに戻り、全員を生き返らせて終わり、

 聖女プリン・アラモードというスーパーチートと一緒にいるからにしては恐怖という感情のネジが吹っ飛んでいるかのようにずっと笑っている。

 保健室は宗麟達の教室から一番遠い、行って帰ってくるだけなら15分あれば十分である。が、時間稼ぎのように怪異達が襲いかかってくる。

 

「どうなんや? 一度聞きたかったんやけど、怪異と魔物ってどっちが強いんや? 聖女サマ的な主観でええねんけど」

「あぁ? そうだな。私からすればどっちもどっちだけど、今のところこの世界の怪異って連中の方が雑魚だな」

「マジか! 大体妖怪とかの方が魔物より強いという設定が多いのにな。これはおもろい発見やな! おっと……なんやなんや?」

 

 ぐいっと聖女プリン・アラモードに引っ張られ豊満な胸に押しつけられる宗麟。普通の健康的な少年であれば彼女に性的な興奮を覚えるところなのだろうが、宗麟は普通じゃない健康的な少年。当然、聖女プリン・アラモードの容姿が優れている事も理解した上で、宗麟は何か面白い事が起きるとそっち方面で興奮した。

 その予想は面白いくらいに当たる。

 巨大なハンマーが宗麟を狙っていたのを聖女プリン・アラモードが察知して助けてくれた。

 デスゲームを引き起こした側の化け物達が死に物狂いで聖女プリン・アラモードと宗麟に襲いかかってくる。そんな中でもデスゲーム主催者側の一人、ハンマーを持った人形の化け物曰く、ハンマー男爵が待ち構えていた。本来であればこのハンマー男爵。人間一人を軽々と潰すハンマーで生徒達を追いかけ、殺害。デスゲームの参加者に対する最大の障害になりうるハズだったんだろう。

 が……

 

「ボスっぽい奴が出てきたなぁ?」

「そうか? 雑魚だろ? まぁ、私に消されに向かってくるとはいい度胸だな? クソ化け物が! かかってこいよ」

 

 人差し指を立ててひょいひょいと聖女プリン・アラモードは煽る。それはそれは嬉しそうに新しい玩具を前にした幼い子供のように本来遭遇した瞬間回れ右で逃げ出す相手にゆっくりと、聖女プリン・アラモードは向かっていく。

 

「そんなクソみたいな武器で私を殺れると思ってんのか? あぁ?」

 

 怪異という物は一定環境化において、人間には計り知れない化け物になる。そんな中でも大半の怪異が持っている特性がある。それら怪異の特性においてアイデンティティ、あるいは存在意義と言ってもいいその特性。

 恐怖される対象であるという事。

 鳴宮宗麟が恐怖という感情のネジを失っているとすれば、この聖女プリン・アラモードという少女はそもそも恐怖という感情を持ち合わせてはいない。恐怖されないという事は怪異にとってそれだけ大きなパワーダウンに等しい。

 

「ウオォオオオオオオ!」

 

 本来であれば耳を塞ぎたくなるような雄叫び、今まで何人の命を殺めたのかと思わせる巨大で赤茶に錆びているハンマー。そんな物を見て聖女プリン・アラモードは「おい、この世界のクソ神共。目の前のクソを抹殺する力をよこしやがれ! 神よ神。我らにあだ名すクソを抹殺する神威の光を!」迎え撃つ準びは万全らしい。

 弱い人間を追いかけ嬲り殺しにするのが好きだったハズのハンマー男爵は今か今かと待っている小さい少女を見て恐ろしいと感じてしまった。遥か昔に忘れていた感情。かつて、このハンマー男爵が人間であった頃、死刑台に送られた時の事が脳裏に浮かぶ。

 

「うああああああああ!」

 

 巨大なハンマーを振り下ろす。こんな小さな少女、一撃でペシャンコにしてしまえばこの恐怖だと自分が勘違いしている感情は至福で甘美な感情に変わるハズだった。

 

「撲殺のシャイニングブロー! おらぁああ!」

 

 少女は白くて小さい、傷もアザもシミもないようなそんな綺麗な手を握りしめて巨大なハンマーに殴りつけた。たちまち指は砕け、爪は飛び綺麗な手は見るに耐えない形に変形するハズだった。

 

 バコォオオオオオン!

 金属から鳴る音とは思えない炸裂音のような音と共に、ハンマー男爵の持っていた巨大なハンマーが砕け散る。幾度となく人間の頭を粉砕したそれが、粉雪のようにキラキラ光りながら砕けえていく。それを行使したのは聖女プリン・アラモードの小さな拳。

 へっと悪ガキのように笑うと、「次はお前だぁあ!」とゆっくりハンマー男爵を見る。ハンマー男爵は勘違いではない。これは純粋な、殺意を前にした恐怖。追いかけるハズのハンマー男爵が振り返って逃げる。そんなハンマー男爵に対して、聖女アラモードは飛び込むように、低い姿勢から弾丸のように走ってハンマー男爵を追いかける。

 

「逃すわけねぇだろが! おいクソが! テメェは私の手で無に帰るんだよぉ。まてぇ!」

「ああああああ!」

 

 巨大なハンマー男の足を掴んだ。「どっちがホラーの怪物やねん」という宗麟の言葉通り、聖女プリン・アラモードは逃げようとするハンマー男爵の足を引きずり「ありとあらゆる苦痛を前に消してやんぜ? これは神の試練だとかクソ教会の連中が言ってたクソ拷問魔法だ。シャイニング・キューブ!」

 

 ホワンと光の球体が現れる。その中にハンマー男爵を蹴り入れると、「ぎゃああああ!」という悲鳴、球体の中に触れるとどうやら激痛が走るらしい。痛みで体がのけぞればまた何処かに身体が当たる。神の光で体をチリチリと焼かれる拷問魔法。悲鳴をあげ、懇願した表情で聖女プリン・アラモードを見つめるハンマー男爵に対して、聖女プリン・アラモードは、口パクでし・ね・よ。と伝えて去っていく。

 

「マジかよ、聖女サマえげつねーのな?」

「あぁ? テメェも楽しんでただろうがソーリン」

「まぁ、それもそやな。じゃ保健室一階やから行こか」

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