魔王様対人工精霊研究所最終兵器

 

 魔王様はスーパーでグリコを購入すると、そのおまけに何が入っているのか、空汰と確認しようと待っていた所。火乃兄家に一人の来訪者。

 それは包帯ぐるぐる巻きの男性らしき人物。対応した凛子にその人物は魔王様はいるかと聞かれたので、

 

「魔王様、お知り合いですか? ミイラ? 的な方がいらっしゃったんですけど」

「ミイラ? クハハハハ! 余の部下にはミイラの大群がいたが、よもやこの世界に来ていたか?」

 

 そう言って魔王様はミイラのような男の待つ玄関に向かい、「待たせた! 余である!」と元気よく挨拶をすると、ミイラのような男は、魔王様に襲いかかった。

 

「人工精霊研究所に連れて行く、力づくで」

「言葉を選べ、余を招待したいのであれば招待状を用意し、場所で来るといい。余はマナーに厳しい腹心に育てられた故、マナーを守らぬ者は容赦せぬぞ? ごめんなさいを言うといい! 寛大なる心で許してやろう」

 

 魔王様がそう言うが、ミイラのような男は包帯を外す。すると包帯が縛っていた機械の身体が剥き出しになった。それを見て魔王様は「ほぉ、キメラの類か?」と尋ねると、

 

「人工精霊試験体24」

「クハハハハ! 名前が長い! 余の家来になればマシン伯爵と名乗るといい!」

「魔王様、捕縛する」

 

 そう言って機関銃になっている腕を魔王様に向け、それを躊躇なく放った。

 

 バババババババババババ! 

 

 人工精霊試験体24は危険域まで放ってしまったと思った。両手で240発、流石に殺してしまったかとその場合は死体だけでも回収しなければならないと思ったが、目の前にはニコニコと笑っている魔王様の姿。

 

「クハハハハハ! 面白し! して、余の家来となるか?」

「否、捕縛を」

「そうか、余を招待したいのであれば、それ相応の態度を取るといい。さすれば余はお招きいただき感謝すると言ってやろう。かつて、人間の大国が余への礼を欠いて滅びた事知らぬか? そして余を王として対等にもてなした人間の小国と同盟を組んだ事も有名であったな? 余をあまり不快にさせるな。もう一度だけ聞く、余への非礼を詫びるか?」

「魔王様を捕縛」

 

 魔王様はニコニコした表情のまま「そうか、その芯の強さは評価してやろう。闇魔界に還るといい」そう言って人工精霊試験体24に向けて手を掲げた。

 

「一つだけ貴様を評価してやろう」

「???」

「余を最後まで魔王様と呼んだ事、貴様であれば良い家来になったであろうな?」

 

 魔王様の放つ黒いオーラに包まれて人工精霊試験体24は消滅。火乃兄家の立派な門の前にリムジンが止まる。そしてそこから白衣の男性、

 

「素晴らしい。まさか上級レベルの試験体24をいとも簡単に葬るとは、魔王くん。私の研究所に招待しよう! こちらが招待状だ。さぁ、来るかね? 君の大事な空汰少年もお待ちだ」


 黒い招待状。それを魔王様は受け取ると、「ふむ、良い。凛子よ!」と凛子を呼びその手の上に招待状を置く「余はここにお呼ばれした故行って参る。空汰もいるらしい、凛子は空汰と一緒にコンビニに行っているハズのメリーにも教えてやるといい。空汰がおらずしてメリーも困惑しているやも知れぬからな」

「あ、はい。わかりました」

「では留守を頼むぞ凛子、クハハハハハ!」

 

 凛子の頭を撫でると魔王様は笑顔のままリムジンに乗り込んだ。そのリムジンの中で白衣の男性は、「ワインでもいかがかな?」「うむ、頂こう」とグラスにそそがれたワインを受け取り、魔王様はその香りを嗅ぐ、そして軽く回してから色合いを白いシートに掲げて見ると口にする。

 

「実にマナーをわきまえている」

「当然であろう? 余は全ての魔物の頂点であるからな」

「そして予想よりも遥かに強い。上級の下位である試験体24が歯牙にもかけぬとはさすがは脅威級下位の手長足長を倒しただけはある。こんな事なら、準完成体の小悪魔三姉妹を仕向けるべきだったか、魔王くん、率直に聞こう」

「うむ、答えよう。いかに? が、貴様が誰か答えるといい。それからであるな?」

 

 魔王様は、リムジンの中に用意されたチーズ、ハムなどを食しながらワインを楽しむ。白衣の男は笑う。

 

「これは失礼した。私の名前は巴雄大。人工精霊研究所局長、試験体達からは博士と呼ばれている。かつては有名な研究者だったんだがね。娘の命、一つ守れはしなかった。今の科学の限界だよ。が、私はその後に知った。ガン細胞すら上回る脅威の生命体。妖怪、妖精、怪異、都市伝説といわれた人ならざる者達。私はそれらをまとめて精霊、スピリットと呼ぶ事にした。それらを人工的に生み出す事ができれば、人は死を克服できる! 死を待つだけの試験体達を、そして準完成体の小悪魔三姉妹も人工精霊を宿す事で人類を超えた。私はこの世界全ての人類を人工精霊化する計画を立てた。人は死から超越する。そんな中で邪魔をする連中もいるだろう。そんな連中を黙らせる為の決戦兵器を用意している。天然自然の中で生まれた怪異の中でも強力な者を上回る実績が欲しくてね。探してた所、君を見つけた。どうかね? 殺しはしない。私が生み出した究極の人工精霊・ラースと力比べをして欲しいのだよ。もちろん君の身柄はデータを取った後に丁重にこちらにお帰りまで私が責任を取ろう」

「良かろう」

 

 巴雄大と名乗った男性の言葉に魔王様は頷く。魔王様を乗せたリムジンが向かった先は山奥、そして本来道なき場所に入っていくと、森で偽装された研究所へ進む入り口につながった。

 

「ほぉ! 秘密基地というやつであるか?」

「まぁ、そんな所だね。魔王くん、何かお茶でも飲むかい?」

「そうであるな。貴様、腹の中で何を思っているか知らぬが、礼儀をわきまえる奴である事は嫌いではないぞ」


 巴雄大が持ってきた紅茶のティーカップを見つめ、魔王様はそれに口をつけ、一緒に用意された高級なチョコレート菓子を一つ摘む。

 

「うまい! して? 余に手ほどきを受けたい者はどこか?」

「ククッ、手ほどきか、間違いない」

「何がおかしい?」

「確かに魔王くん、君は強い。が、準完成体の小悪魔三姉妹と同等くらいだ。今までどんな者を相手にしてきたか知らないが、これから君が見る者は超越しているよ。全ての枷を外したその力は、伝説級と言ってもいい」

 

 チン、と魔王様はソーサーにカップを上品に乗せると、「貴様、口上が長い、早くそやつを呼ぶといい。余は空汰と今日もげぇむをしてオヤツを食べ、凛子の夕餉を食わねばならぬからな」

「用意しよう」

 

 魔王様が巴雄大に連れられたのは研究所のさらに地下、人工精霊能力開発ルームと開かれたそこは広い、400メートルグラウンドが一面取れそうな巨大さ。それをみて魔王様がニコニコしていると、

 

「人工精霊の力を試すのに、このくらい広くなくてはならないからね。さぁ、お待ちかねの。研究所最強生物のご登場だ。憤怒のラース、私はそれをこう呼んでいる」

 

 ヴィーンとモーター音と共に現れたのは真っ白腰までの髪をした、少女? いや、それにしては中性的すぎる。かと言って少年とも言い難い。目隠し、猿轡。両手を後ろに縛られ、ジタバタともがいているように見える。

 

「こやつが、余に稽古をつけてもらいたい者か?」

 

 ツカツカと魔王様はラースの元に歩み寄る。魔王様の足音に気付き、ラースは座っていた椅子から状態を起こすと、魔王様に襲いかった。が、目も口も、腕も封じられているラースにできる事は突進程度。魔王様はそんなラースの目隠し、猿轡を破り捨て、拘束されている腕を解いた。

 

「何故繋がれていたか知らぬがこれで動き安かろう?」

 

 そう笑う魔王様にラースは火焔放射よろしく、両手から炎の風を放った。それはなんの前触れもなく、魔王様に絡みつく、

 

「ソドムを焼いたといわれている神の炎さ、魔王くん。面倒な事をしてくれたね? ラースを拘束するのにどれだけの労力がかかるか知っているのかい? と言ってももう姿形もないだろうけどね。ラースの捕縛フェイズに入る」

 

 巴雄大がそう言い、ラースの放った炎が晴れた時、そこにはどこも火傷どころか服に焦げ目一つついていない魔王様の姿。巴雄大の中でラースの炎で焼かれない生物、いや物質という物は存在しない。

 

「一体、なぜ?」

「巴雄大よ。貴様、ただの人間であろう? ここより離れているといい。こやつラースに今より余が稽古をつけてやろう」

 

 グルルルルルと喉を鳴らして魔王様と距離を取るラース。そんなラースに魔王様はゆっくりと歩を進める。それは警戒しているラースに対して、魔王様は散歩でもするように、

 

「ラースの力はそんな物ではない。奴の爪や牙はあらゆるものを切り裂き、噛み砕く」

 

 巴雄大の言葉に倣ったわけではないのだろうが、ラースは飛びかかり、爪で魔王様を襲う。魔王様はピースサインをするように指をちょきの形にする。そして……ラースの爪と牙の猛攻をその指二本で軽々といなしてしまう。

 

「クハハハハハ! 中々速い。貴様、余の家来になるといい」

 

 といつも通りの勧誘をするが、ラースは反応しない。猛攻に対して魔王様は軽々と指で止めつつも疑問に思う。そして「聞いておるのか貴様?」と魔王様はラースに尋ねる。

 返事は返ってこない。

 

「ちとつまらぬな。この程度か? 巴雄大よ。貴様の言う最強とやらは」

 

 モニタールームより、人工精霊研究所ラースが猫でも愛でるように扱われている様をみて驚愕、そして歓喜する。全ての生命の生態系の頂点に存在している。それが魔王様であろうと……

 

「魔王くん、君には悪いが今日、君を返せなくなったよ。そしてラースの力はまだこんな物じゃない。君が出させたんだ。後で後悔しても知らないが。みてみるがいい。本当のラースの力を!」

 

 魔王様にデコピンで倒されていたラースが立ち上がる。そして四つん這いになると、背中からもう二本腕が生えた。そして動きが先ほどの数倍。

 

「ほぉほぉほぉほぉ!」

 

 魔王様の指二本でのラースの稽古を突破した。魔王様の腹部にラースの拳が綺麗に決まる。

 

「むっ?」

 

“アポロン・ブレイカー“


 魔王様の背中から炎が噴出する。今まで無敵を誇った魔王様に強烈な一撃が通った瞬間だった。 

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