第一の神威 聖女様VS学校の怪談

 私立一覧台学園付属高校。

 オカルト研究同好会。そこで二年生、唯一の部員であり部長の鳴宮宗麟は魔王を召喚する事ができると言われた魔術所、近所の古書店で360円で売っていたそれを実行した。

 首から十字架をぶら下げ、両腕に数珠をつけて、神社の宮司さんや巫女さんがお祓いをしてくれる時に持っているあのふさふさを振りながら。


「かしこみたまえ!」


 そう叫び、地面にひいた半紙に筆で本に記載された魔法陣を描いた。

 ちなみに鳴宮宗麟は、たいそうな名前だが霊的関係者でもない。当然、霊能力的な何かはないのだが……


 キュォオオオオオ! どろどろどろどろどろ! とBGMをスマホでかける。そして今回も失敗だったかと思った時、魔法陣の上に人影が……


「マジか! 成功しよった!」


 しかし、そこに現れたのは純白の法衣に身を包んだ、少女。肩までの薄く碧い美しい髪。目を瞑って祈りの姿勢、なにより目につくのが顔の幼さにはにつかわないグラマらナスな胸。大き目の法衣だが、胸部だけとても苦しそうだ。


「なんや? なんか聖職者呼び出してもたか? おーい、お前さん」


 彼女は宗麟に反応した。ゆっくりと瞳を開ける。アースアイ、吸い込まれそうと表現する瞳だが、彼女のそれは吹き飛ばされそうな程の力を感じる。

 そして、透き通った。淀みのない愛らしい声で、確かにこう言った。


「あぁ? この聖女、プリン・アラモードに舐めた口聞くのはテメェか?」

「はぁ? ワシに言うとんかこのアマぁ! ワシはオカ研、部長。鳴宮宗麟や」


 それがオカルト研究同好会部長、宗麟と聖女プリン・アラモードの出会いだった。

 お互いにらみ合う。そして二人は笑った。・


「「はっはっは! はーっはっは! はっはっはっは!」」


 そう。同気相求。

 まさかのお互い気に入ったのである。宗麟は聖女プリン・アラモードに冷蔵庫からアイスクリームを取り出すとそれを渡しながら話した。


「ほぉ、んじゃ宗麟。てめぇは魔王を呼び出そうとしたってか? んでだよぁ? あぁ? 場合によったらてめぇを粛清すっぞ?」

「趣味だ趣味。俺はよ。この世の者じゃない者を見たい、会いたい、触りたい。好奇心モンスターなんだよ」

「好奇心はケットシーをも殺すっていうぜ? まぁ、そんなクソ獣がいたら私が殺すんだけどな」

「猫をも殺す的な奴か、聖女サマ。この世界に目には見えない者っておるんか?」


 宗麟は聞いてみた。もしかしたら、自分のアイデンティティを全て失うかもしれない質問。17年という情熱が灰燼に帰すともいえる。まっすぐに聖女プリン・アラモードを見つめる宗麟に聖女プリン・アラモードはへっと笑った。


「いんぜ、うようよとな。まぁ、かたっぱしから、私が撃滅してやんだけどなぁ! 案内しなソーリン」

「マジか! マジでいんのか。プリン?」

「ソーリン、私をプリンって呼ぶな!」

「じゃあ聖女サマだな」


 気に入ったのか聖女プリン・アラモードはへっと笑うと指をさす。それは女子トイレ、女子トイレといえば、当然。超有名な……


「トイレの花子さんか!」

「いや、どうやらここのメスガキ共が用を足すのを見に来ているゴーストみてーだな。私と会ったら強制的に天に還されるとも知らずによぉお! セイクリッドぉおお! アロー!」


 宗麟は感動した。

 それはまさに魔法。宗麟の目にも見える光の矢が何者かを貫いた。その瞬間、数人の中年男性と思える幽霊達が悲痛な顔を浮かべて滅される瞬間だった。本当に幽霊がいた。

 が……なんというか、これじゃない感じが強い。


「どうやらここは私のいたジェノスザインとは違うみてーだな、私を愛して加護を与える神々が違う。使いにくいな、クソがぁ!」


 ガツンとゴミ箱を蹴り飛ばす聖女プリン・アラモード。宗麟はゴミ箱を拾うと「そんなカッカすんなよ聖女サマ、なんか飲み物奢ってやっからさ」


 と自動販売機でピッとイチゴミルクを二つ買う宗麟。


「ほれ、ストロー挿してやるから飲んでみ」

「ああん? なんだこりゃソーリン。……うまっ! ポーションよりうめぇ! その箱が出したのかぁ? オイ!」


自動販売機に一瞥をくれると聖女プリン・アラモードは自動販売機を触って、


「なんだこりゃ、魔道具か? オイ、もっと出せよこれぇ! 聞いてのか? ぶっ潰すぞコラぁ!」


 と、聖女ってこんな感じなんだなと宗麟はしばらく見物すると、次はコーヒー牛乳を購入して聖女プリン・アラモードに差し出す。そしてこれが無人販売する機械である事を教えると腰を抜かす程驚いた。


「すげぇなおい、それだけここいらは治安がいいって事か」

「そっちか! オーバーテクノロジーすげーみたいなの希望してたけど、聖女サマの世界にもそういうのはあんの?」

「ねーよ。これ、すげーんじゃない? 私はそういう俗世の買い物とかした事ないから知らない。欲しい物はクソ信者共が基本貢いでくるし、私はバケモノ殺せれればそれでいいしな」


 なるほど、この聖女プリン・アラモードは信者に施しをするとかそういう存在じゃないという事を理解した宗麟。だが、それがいい。宗麟はこの聖女プリン・アラモードの自分至上主義の性格と、オカルトな力に魅力を感じていたが、実際プリン・アラモードは超がつくほどの美少女、そして、


「うおぉ! 今のコスプレしてる子、胸でか! 誰?」


 と通りすがりの部活の生徒達に振り返られる。そんな言葉、視線に対してケッと不機嫌そうになるが喧嘩を売らない。


「聖女サマはあーいうのムカつかねーの?」

「あぁ? 私を見て欲情してんだろ? 神々が私を想像してマスかくんだから、人間共もしゃーねーだろう。いちいちそんな事にめくじら立てるわけないだろ? 私を見て興奮するのも下々の楽しみだ。どうせ、私には触れられねーんだからよ」


 自分と他の人間を同じ生き物だと聖女プリン・アラモードは思っていない。パックのコーヒー牛乳を美味しそうに飲む表情は他の女生徒と変わらないが、ずずっと飲み干すと空になった容器をポーンとその辺に捨てるので、それを宗麟は拾って、ゴミ箱に入れる。


「聖女サマ、ゴミはゴミ箱にいれろや。これが俺の世界の常識だ」

「あぁ? じゃあ先に言えよソーリン! 私に非常識な事させやがって、クソが!」


 言葉は悪いがマナーは守ろうとする姿勢があるらしい、そんなところに聖女みを感じなくはないが、聖女プリン・アラモードは嬉しそうに屋上に続く階段を見つめて嗤った。


「さっきのじじいゴースト共よりはマシなのがいんなぁ」

「まさか、13階段の怪異か?」

「あぁ? ソーリン、目ついてんのか? この階段26段だろうがよ。それより、踊り場の鑑、てめぇ! でてこいやぁああ!」


 某プロレスラーの名言、指名した対戦相手を呼び出す物だったが、まさか鏡から鎌を持った男子学生の霊が現れるとは宗麟も思わなかった。


「僕の事を気づくとは霊感少女かい?」

「んなこたぁ、どうでもいいんだ。殺しあおうぜ、カスゴーストがよぉ!」

「威勢がいいね。でももう逃げられない。この鏡は誰かを閉じ込めないと出られないんだ。僕は20年前にこの鏡の中に閉じ込められた。ようやく出られる」


 宗麟は、そういう系のやや可哀そうな感じなんだと少年に尋ねてみる事にした。


「おい、お前さん。身体の方はどうすんだ? 身体ごと鏡に吸い込まれたんか?」


 宗麟のオカルト知識的に言えば、この類の怪異のやっかいなところは……元の身体は元々この鏡の中にいた奴に持って行かれ、宗麟か聖女プリン・アラモードの身体を乗っ取る系なんだろう。


「お前か、それともそっちの少女の身体をもらうよ」


 前言撤回、こいつはダメな霊だなと宗麟は腕を組みながら「聖女サマ、やっちまえ」と言うと「ははははは! おうよ。すぐに楽にしてやっから安心しろよカスゴースト」


 少年霊は大鎌を聖女プリン・アラモードに向けるが聖女プリン・アラモードはその大鎌を指二本で摘まむように受け止める。そして綺麗な顔を歪ませて少年に言う。


「おい、お前。逃げられないとか言ったよな?」

「な、なにを……」

「そりゃこっちの言葉なんだよ。カスがぁ! 宗麟、見とけ。私を怒らせたカスに見せる神々の力、あらゆる害意を抹殺する力をな」

「それほんとに聖なる力的なやつか?」


 聖女プリン・アラモードの使う言葉に反して彼女の纏うオーラは暖かく優しい光、動きにくそうな法衣。そして大きな胸をたゆんと震わせ右手を突き出して構える。


「殺してやるぅううううう!」

「おい、聖女サマ。それはあの少年霊の方が言う台詞じゃねぇのか?」


 しかし、宗麟の言葉に反して少年霊は怯える。それは明らかに自分が終わるという事が約束されたという事。それだけの力の差を聖女プリン・アラモードが放っている。その表情は狂気的に、交戦的で、そして慈悲のかけらなんて感じさせない。


「おい、クソ霊、最後に何か言いたい事あっかぁあ? ねーよなぁあ?」


 聖女プリン・アラモードのめちゃくちゃ強引な言葉に少年霊は自分が助かるとかそういう事は考えず、鎌を捨てて、泣きながらこう訴えた。


「俺の身体を奪ったやつを、俺の代わりに懲らしめてくれ……」

「はぁ?」


 聖女プリン・アラモードはそう言うとゆっくり制圧前進するように少年霊の元へ歩み、そして祈りを捧げるポーズをとった。


「セイクリッド・デストロイド・エンドぉおお! 浄化されやがれぇえええ」


 少年霊は絶望していた表情から穏やかな表情に変わる。強制的に成仏させられているというのに、全てが終わると聖女プリン・アラモードは宗麟にこう吐き捨てた。


「一応元人間の願いだ。あのクソ人間の身体奪ったクソ魂ぶっ殺す。探すの手伝えや宗麟」


 普通であれば、そんな強引な呼びかけに頷くわけはないが、鳴宮宗麟という少年は頭のネジが数本ぶっ飛んでいた。元の世界ですら聖女プリン・アラモードと気が合う人間なんていなかったのに、ヘっと笑うと、宗麟は親指を立てる。


「オーケー相棒、そん代わり俺にこういうのもっと見せてくれよな!」


 狂気的に笑う最恐最悪のバディがここに結成された。そして運命は魔王様と聖女様を引き合わせていく……のかもしれない。


 

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