第十二の怪異 術者VSスレンダーマン

 凛子は本日、玲奈と並んでお弁当を食べている。あの一件以来魔王様の家来という事になった玲奈は結果的に凛子の友人となり、何気に学校で一番仲がいいくらいの関係性である。

  

「ちゃんヒノ今日さ怪異退治すっから一緒に来てよ」

「えぇ、私が行っても多分役に立たないよ? やめとくよ」

 

 玲奈の術者としての力は凛子とは比べ物にならない。むしろ、ついていくと足手纏いくらいはあるだろう。何故なら玲奈が退治する怪異とは相当な危険度がつきまとう領域。素直に断る事にしたのだが、

 

「ウチの式神? 術? 大抵それで調伏できんだけどさ。万が一水竜王出さないとダメな局面? それより魔王様に力借りた方が安全なんだよね。つーか、ウチ等、トモダチじゃん?」

「まぁ、友達だけど……」

「じゃあいいじゃん! ウチのドーナッツ一個上げっからさ!」

 

 安く買収されてしまったなぁとか思ったけど、食後のデザートにドーナッツは応えられないなぁと凛子は美味しく頂く。

 

「ところで玲奈ちゃん、どんな怪異を退治するの?」

「それがさ、スレンダーマンって知ってる?」

「確か……都市伝説系だっけ?」

「そうそう、それ」

 

 狭い物陰等に入れるくらい細長く高身長の何者か、子供達を攫い僕にするとかいう、昨今生まれた割と若い都市伝説の怪異。

 

「都市伝説系って人々の認知に対して力が弱くなるんじゃなかったっけ?」

「うん、ちゃんヒノの所にいるメリーさんくらいビックネームだとそうでもないけど、流行りが廃れると弱くなる傾向にあんだよね。でも最近スレンダーマン、なんか子供達の間で流行ってんだってさ。これのせいで」

 

 スマホを見せる玲奈。どうやらアプリゲームらしい。怪異達がイケメンになってそれらと疑似恋愛をするらしい。

 

「このクソゲーのスレンダーマンが人気で、狂信的なファン? オタクっつーの? そういうのがいてスレンダーマン、再燃。しかも超強くなってんだってさ!」

「へぇ、かっこいいね」

 

 切れ長の目にやる気のなさそうな表情のイケメン、スラリとしたモデルのようなキャラクター化されたスレンダーマン。プレイヤーを遠くから見守り溺愛してくれると説明かきに書かれている。

 

「ちゃんヒノはこういう系が好きなんだ? なるなる。てことで、多分魔王様の力を借りるかもって感じ?」

「一応私は火之兄家で玲奈ちゃん水城家だけど、そういうのいいの?」

「あー。メンツとか? ないない! この前魔王様にコテンパンにやられて無駄って分かったしさ。というか楽できるならすがれる物はなんでもすがった方がいくない?」

 

 術者に大事な事、合理的であるという事。メリーさんだって怪異レベルで言えばかなりの上位に位置する。そして、玲奈が思い出したように凛子に話す。

 

「てかさー! この前、ちゃんヒノの弟くん駄菓子屋にいるの見たんだけどさー」

「空汰が? 魔王様と一緒にいたのかな?」

「違くて、なんか守護霊? みたいなのがついてるなーって思って見てたら、結構街の可愛いどころの動物霊とか怪異に目をつけられんよ。今ん所、害意のありそうなのはいなかったけどさ。お札とか持たせてんの?」

「うん、でもすぐ燃え尽きちゃってるんだよね」

 

 守護霊でもなんでもない凛子の知らないところで魔王様が家来にした怪異が空汰を警護しているので、当然怪異用のお札はすぐに効力がなくなっている。玲奈は玲奈で害意がない為、陰寄りの守護霊なんだろうくらいで考えている。

 

「まぁ良ければウチが護符書いてあげんよ。それより、今はこっちかな。この郊外で目撃例があんだよね」

 

 コンテナの影からこちらをじっと見ている何か、ゾッとする。凛子では絶対に調伏できない怪異。それを見るや否や、玲奈は退魔用のお札を持って念を込め始める。

 

「水狼、怪異を逃さないで威嚇して、ウチは最大まで念をこめた呪符であれを滅するから。ちゃんヒノは魔王様をいつでも呼べる準びよろ!」

「えぇ、魔王様? 家で空汰とゲームしてるかな?」

 

 仕方がないから凛子がスマホを取り出して自宅に電話をしてみる。多分、空汰がいれば電話に出てくれるだろうから魔王様に代わってもらおうと……

 

「もしもし、私メリー! 今、凛子の家にいるの」

「あっ、メリーさん?」

「どうしたのよ凛子、早く帰って来なさいよ! 魔王様が大変お腹をすかしていらっしゃるわ!」

 

 メリーさん、自宅の電話を取る時、こんな感じなんだと後で注意しようと思ったけど今はそれよりも、

 

「メリーさん、魔王様に変わってもらえる?」

「はぁ? 魔王様は今テレビゲームで空汰と遊んでるわ。邪魔なんてできるわけないじゃない! それに魔王様に用ってアンタまさか魔王様の事!」

「玲奈ちゃんが、スレンダーマンって怪異退治しててそれについてきてるんだけど、もしもの事があった際に魔王様に助太刀をお願いしたいって」

「はぁ? あの小娘ぇ! 怪異退治をダシに魔王様と二人っきりで何するつもりよ! 私がいくから待ってなさい! 何処よ場所? 地図アプリ出すから言いなさい!」

 

 一応自分もいるんで二人っきりじゃないんだけどなぁとか思ったけど、メリーさんの助太刀でも凛子からすればかなり安心する。場所を伝えると、メリーさんはメッセージアプリで、“私メリー、今駅にいるわ“的な感じで凛子に逐一場所を教えてくれるのでなんだが安心する。

 

「玲奈ちゃん、メリーさんが代わりに来てくれるって」

「マ? なんで? まぁいいか。んじゃスレンダーマン退治いっとく?」

 

 玲奈はとても嬉しそうに物陰に隠れているスレンダーマンに向かって退魔札を投げる。逃げようとしたスレンダーマンに言い張った。

 

「この一帯には結界を張ったから逃げれねーって、大人しく調伏されろっつーの!」

 

 観念したのか、スレンダーマンはのそのそとその姿を現した。その姿に凛子と玲奈は驚愕する。

 

「えっ、うそ!」

「まじ……」

 

 アプリゲームのイケメン化されたスレンダーマンその者が現れた。スレンダーマンはどうにかしてこの場から逃れないかキョロキョロしているが玲奈の結界は針の穴一つない無慈悲な作り。

 

「僕を討伐しますか?」

「まぁ、仕事だから? 別に恨みとかはねーけどさ。あんまり怪異が力を持つといい事ないんだわマジで! だから先に謝っておくね。ごめんね」

 

 玲奈にそう言われ、スレンダーマンは抵抗するかと思いきや……目を瞑って最期の時を待っている。この反応は今までになかった怪異の行動。少なくとも凛子はそう思っている。

 だが、玲奈は違う。

 

「それで油断を誘ってるつもりなわけ? まぁいいや、静かに消滅してくれるならそれがお互いにとって楽でいいっしょ? 退魔!」

 

 退魔札を放つ玲奈。ベタベタとスレンダーマンの全身を退魔札が覆い、そこに玲奈の霊力を練り込んでいく。全身に玲奈の霊力を受ければスレンダーマンは消滅するだろう。凛子とは比べ物にならない玲奈の霊力だ。

 

「オーン!」

 

 退魔札で強化された玲奈の霊力に押しつぶされるスレンダーマン。これでこの仕事は終わり、メリーさんが来るのは無駄足だったかなと思った凛子だったが、スレンダーマンは何もなかったようにそこに立っている。

 

「やっば……アプリ信者達のせいで、ウチの霊力凌がれたんですけど……水狼!」

 

 玲奈の式神、それがスレンダーマンに襲いかかるが噛みつかれても引っ掻かれてもスレンダーマンは涼しい顔でそれを受け続けている。玲奈はこのスレンダーマンを確実に滅する事ができる方法が一つ残されている。が、魔王様がいないこの状況下で水竜王は出せない。

 だから魔王様を呼んで欲しかったのにと思っていたら魔王様の代わりの助っ人、メリーさんがゆっくりとこの玲奈の結界の中に入ってきた。

 

「ほんと、嫌な霊力ね。で? 何? それと交戦中?」

「メリーさん! 来てくれたんですね!」

 

 今日のメリーさんはポニーテール、控えめに言ってよく似合っているので凛子は「今日の髪型可愛いですね」「そう、ありがと」だなんて会話をしている中、スレンダーマンが語り出した。

 

「私を滅してはくれませんか?」

「言われなくても……こうなったら水竜王ぶつけて……」

 

 印を組む玲奈にため息をつくメリーさんは「やめなさい、無駄よ」とメリーさんが玲奈を止める。それにどういう事だろうという表情をする凛子と玲奈。

 

「確かに魔王様の規格外の力ならこの怪異を滅する事はできるでしょうけど、多分魔王様はこの怪異を滅する事はないわ。この前のアクロバティックサラサラといい。最近新参都市伝説増えすぎなのよ。放っておけばこの怪異は消えるわ。今がピークでしょ。アンタ、人を襲えないでしょ?」

「「???」」

 

 メリーさんの言葉をいまいち理解できない二人に対してスレンダーマンは頷くと話し出す。

 

「えぇ、私が生まれ気がついた時、女性を守り、そして影ながら見守る事が存在意義。日に日に力が増してきました。ですが、そちらのお嬢さんの言う通り、一過性の人気で信仰された怪異の存在期間は短いものです。いずれは私は消えゆく存在。ご安心ください。そちらのお美しい淑女の怪異の方の言う通りです」

 

 スレンダーマンは消えゆく宿命であるとそう言って微笑んだ。この怪異は、怪異なのに変異している。人を襲えない怪異なんだったら……

 

「あの、スレンダーマンさん、良ければなんですけど」

「はい?」

 

 魔王様の家来になりませんか? と言うと凛子が少し頭のアレな子のようになってしまうのでそこは同じ怪異であるメリーさんが説明してくれた。このまま何もなす事なく滅んで行くのを選ぶか、凛子の式神になれば、その存在を失う事がないと言う事。

 

「でもいいんですか?」

「多分、魔王様がいたら放っておかないと思うから」

「そうね。魔王様なら寛大な御心でアンタを家来にすると思うわ」

「さっきから言っている魔王様って?」

「私の一応、式神……なんですかね?」

「???」

 

 スレンダーマンは頭に疑問符を並べながら何故術者より式神の方が立場が上なんだと思いながらも跪いて凛子と式神契約を成立させた。

 それから学校の女子生徒達に凛子とイケメンの男性が一緒にいた所を目撃したと度々冷やかされる事になる。

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