第八の怪異 魔王様VSギャル妖滅士、水城玲奈 前編
「火之兄家の究極式神ぃ? 超アガんじゃん? ウチの水竜王とどっちが強えーの? ふーん、水竜王と同等? ないない! あれ、ウチでも使うのダルいのに、だって火之兄家って落ち目っしょ? へぇ、その式神取り上げてこいって? まぁ面白そうだからいいけど、絶対水竜王より強くないと思うよマヂで!」
最近売り出し中、火之兄家と同じく五行家の
そして今回も玲奈は幽霊ビルと呼ばれた場所の除霊依頼を受けている最中、水城家から火之兄家の最強式神を調伏しに行くように指示をもらった。
玲奈は今時のギャルである。栗毛に青のインナーカラーを入れ、流行りのコスメに流行りのネイル。仕事と学業、そしてギャルとしての本分を両立させている。
「じゃあ、水魂っちこのビルのお邪魔虫食べちゃってよろ!」
式神を複数保持し、同い年で彼女を超える術者はいないだろう。幽霊ビルと呼ばれたビル、解体工事をしようとする作業にケガをさせる悪霊をいぶり出す。
そこで出てきたのは、家族の霊。
「へぇ、もっとヤバげなのが出てくっかと思ったけど、なんでこんな所にいるの?」
霊は語る。元々、このビルに入っていた闇金の会社に騙されて自分達は一家心中しなければならなかった。だからこの会社の人間をみな呪い殺すまでここから離れるわけにはいかない。
そして……悪霊となった。
「ふーん、超可愛いそうじゃん」
話を聞いてくれる玲奈を見て悪霊となったその家族はだから立ち去れとそう言おうとしたが、
「でもそれ、ウチ関係なくない?」
スクールバックから折りたたみ式の錫杖を取り出すと、棒付きキャンディーを咥えて玲奈は妖滅の言葉を読む。
「悪鬼羅刹を滅する水神に願う」
させるか! と悪霊となった彼らは玲奈の両腕、両足に絡みつく。それでも尚玲奈は言葉を紡ぐ。
「上流から下流に流れる水の理を持って、不浄なる魂を滅さん! オーン! ウチ、超つよつよじゃね?」
普通の人には聞こえない悪霊の断末魔、玲奈の身体から発せられる霊力で四散した悪霊を玲奈の式神がバクバクと食べる。その光景を見ながら玲奈はスマホを取り出して水城家に電話。
「やっほー! 玲奈だよー。悪霊? あれ、滅したから、次行くね? うん、じゃあ週末に生活費よろー!」
本日は新しい学校に転校である。一覧台学園。中高一貫校、そこに火之兄家の次期お役目がいると聞いている。話して式神を譲ってくれるなら良いとして、抵抗するなら力ずくで取り合えげればいいかと思っていた。水城家の計らいで、火之兄凛子と同じクラスになっている。
クラスに通されると簡単な自己紹介。
「水城玲奈っす! よろー! 玲奈でいいからね! 仲良くしてね!」
「水城さんは火之兄さんの前の席で」
「おけ! ティーチャーサンクス! ちゃんヒノよろ!」
「あー、えっと、よろー!」
この子が火之兄凛子か、全然霊力大した事ない。なんなら、普通の人に毛が生えた程度じゃんと思いながら、一日凛子を監視した。学業は真面目、ただ自分の方が頭いいなと思う。運動も普通、特にこれと言って目立った事はないが、学校生活において友人関係は良好。
結果、玲奈の出した感想。
「めっちゃいい子じゃん。ちゃんヒナ!」
「そんな事ないよ。玲奈ちゃんだって前から学校いたみたいに馴染んでるじゃん!」
「ウチてんこー多いからさー、これだけは得意っつーか? ところでちゃんヒナお願いあんだけど?」
「えー、なになに?」
「
流石に断られるだろう。そう思っていた玲奈に凛子は、弁当を食べながらこう答えた。
「禍闇之尊様? あー、あれ私召喚できないんだよね」
「マ? でもちゃんヒナ凄い式神持ってるって有名じゃん!」
そんな事を大声で話すので周りのみんなに注目され凛子は玲奈を連れて教室をでた。そして渡り廊下で玲奈に伝える。
「一応、私が払い師やってるの学校では内緒なんだ。あんまり学校でこの話はしないでね。で、さっきの話だけど多分、それは魔王様の事だと思うな。式神っていうか……魔王様?」
「は? 何それ意味わかんないんだけど」
「えっと、私も意味わかんないんだけど……今日、ウチ来る? 多分、見てもらった方が話が早いかな」
断られるわけでもなく、家に招かれる。いや、これはもしかしたら式神を狙われたことを察知しての罠かもしれない。が、それならそれで問題ない。玲奈にはそれを真っ向からねじ伏せるだけの力がある。もし、禍闇之尊相手であろうと、自分の持つ最強の式神を持ってすればなんとかなるだろうという勝算もあった。
放課後、凛子について火之兄家に向かう玲奈。式神水魂を既に召喚し霊力を練り込みながら一歩一歩進む。
古い屋敷に到着、さすがは五行家の一つ。立派な佇まいだ。そしてそこに来る前からなんらかの妖力は感じていた。確かにそこそこ強い妖力、だが、どうにかできないレベルじゃない。
まぁ、伝承などこんな物だろうと思っていた。
「ここが私の家、多分魔王様もいると思うけど、どこか出掛けてなかったら弟とゲームしてるハズだから」
「何そのジョーク、ウケる! ププ」
ゲームをする式神なんて聞いた事がない。
凛子なりの冗談だと思って客間に入ると大きなテレビ画面を前に凛子の弟らしい男の子と……
「何これ……」
「あそこにいるのが魔王様、あとその隣にいるのがメリーさん」
きちんとした洋服に身を包んだ男の人、ただし玲奈の目には何かは分からない深淵が見える。式神水魂が震えているのを見て、身構える。
それが振り向いた。
「おぉ、凛子の友であるか? いらっしゃいを余が言ってやる故、お邪魔しますを言うと良い!」
「何これ、凄いヤバいの飼ってんじゃん、ちゃんヒノ……」
スクールバックから折りたたみ式の錫杖を取り出すと玲奈は呪力を込める。水魂ではこれは厳しいと踏んだ玲奈は、
「水狼! ちょ、来て!」
第二の式神、玲奈が本気を出した時に扱う式神を呼ぶ。狼の姿をした守護霊。それを見ても魔王様と呼ばれた何かはニコニコと微笑んでいる。
「ちょっとアンタ! 人の家来て何式神出してんのよ! 凛子の友達でしょ? 注意なさいよ!」
「は? なんで怪異までいるわけ? 何ここ、超引くんですけど」
そこそこ強力な怪異。それも都市伝説の系譜を持つ者だ。火之兄家は自分の家と同じく妖滅を生業にする家柄のはず。
「まぁいいや、どっちも調伏すりゃいっか」
「玲奈ちゃん?」
「ちゃんヒノ、ちょい寝てて」
状況を理解できない凛子に対して、玲奈は金縛りの呪符をつける。力の弱い凛子はぐったりと身動きが取れなくなり、「弟くんもごめんね?」と言って呪符で眠らせる。
「む? 凛子と空汰が寝てしまった。今ねたら夜眠れなくなってしまうぞ? クハハハハ! よほど学業で疲れたのだろう」
「魔王様、恐れ多いですがあの術者の仕業です。敵意を持っていますので、このメリーがお灸を据えて差し上げますわ!」
「クハハハハ許す! 凛子の友達ではないのか? それとも怪異という奴であるか?」
魔王様の問いかけ、意味が分からない。
「怪異はそっちだっつーの! オン!」
対魔の札をメリーさんに向けて放つ玲奈。メリーさんはそれを軽やかに回避するが、玲奈の式神がその隙を見逃さない。メリーさんに覆い被さった水狼。
「やめなさい! このケダモノ! 魔王様の前でなんて事してくれるのよ!」
「水狼、そのまま捕まえてて、結界で縛っからさー!」
術を練り込む。このメリーさん、相当な怪異だ。水狼に捕まってもまだ抵抗しようとしている。されど、何重にも何重にも重ねた結界で縛っていく。ジタバタと動かなくなったところで玲奈はメリーさんに呪符を貼る。
「ま、魔王……様ぁ」
メリーさんの瞳から光が失われ、動かなくなった。それでもまだ存在しているメリーさんに玲奈は驚く。
「あとで滅してやるとして、次はアンタつぅーか? てか何? 禍闇之尊じゃねーの?」
「余は魔王である。して、これはなんの遊びであるか? 皆寝てしまいつまらぬぞ? それとも昼寝であるか?」
「うんそだね。てか言う事聞かないと永久にお昼寝って感じ? こんな式神? つーか、そっちの依代こみの怪異と違って実体もあるし、ウチの式神になるか選んでよ? ちゃんヒノとの縁は切ってあげっからさ?」
「クハハハハ! 面白い冗談である! 余を家来にしたいと言っておるのか?」
「あーうん、そんな感じ? どうするの?」
「貴様が余の家来になるといい」
「は?」
今までなんの苦労もせずに怪異を滅してきた玲奈にとってプライドを逆撫でるには十分すぎる台詞だった。錫杖を構え、霊力を練り込む。玲奈の扱える最強最大の結界術。
「悪鬼羅刹を滅する水神に願う。謝るなら今の内つーか? まぁ大抵縛られてから吠えるんだけどね! 局所結界・水陣!」
高めた霊能力を水の流れのように逆らおうとすればする程力を奪われる結界術。並の怪異なら縛るだけで消滅。されどこの魔王様と言う怪異は、
「クハハハハ! 銭湯にある“まっさぁじぃき“みたいである! 愉快愉快!」
「は? それ結構ウチの中でも超つえーやつなんですけど?」
火之兄家の最強式神を名乗るだけはある。こんな室内で使えない大掛かりな術を使わないとこの魔王様は調伏できない。まだ縁を切っていない。
「サイアク……外ならもっと強い力で縛れるのに……」
「ほぅ、肩は凝っておらぬが、“まっさぁじぃき“は気持ちいい故、余は大好きである! 外でなら強“まっさぁじ“が出来るのであれば貴様の望むところで使うとよい」
挑発された。だが、術者である凛子から離れたのであれば力も落ち、調伏もしやすい。
「その挑発、超後悔させっから? 地獄のJ Kお散歩でイカしてやんよ? 魔王様だっけ?」
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